第20話 4歳、惨劇
「...zzZ」
サッ...
ガタン!
「んぁ?あぁ...」
(...痛い)
ベッドから落ちたのか...?
俺にしては珍しいな...
昨日はたくさん歩いたからかな?
そんなことを考えながら、俺は体を起こす。
(あと2日か...)
今日を含めてあと2日。
明日までが星夜祭だ。
この街に来る前にリーニャが言っていたケーキは、最終日の夜に食べると聞いた。
そのケーキだが、街中の料理人やパティシエが今日と明日、二日かけて組み立てるらしい。
ケーキが組み立てられるのは、街の四つの大広場。
馬鹿でかいケーキがそれぞれの広場の中央に鎮座する、とマーヴルさんから聞いた。
一体どれくらい大きいのかは想像もつかないが、二日かけて外で作るケーキって食品衛生的に大丈夫なのだろうか?
まぁそんな些細なことは考えていても仕方ない。
今は、自分ができる範囲でこの祭りを楽しむとしよう。
(...ん?)
ふと部屋のテーブルを見てみると、2人分の食事が置かれている。
椅子に登りテーブルを見てみると、内一つは食べかけのようだ。
おそらく、一度リーニャが帰ってきたのだろう。
置かれている食事の一つであるオニオン(?)スープがまだ温かいから、部屋を後にしてからそれほど時間は経っていないはずだ。
「...」
...しかし、リーニャも大変だな。
稼ぎ時かもしれないが、働き過ぎは体に悪い。
帰ってきた時にちゃんと休めただろうか?
次帰ってきたら、労ってあげなきゃな...
サッ
俺は皿の一つからパンを手に取る。
そのパンは分厚く膨らんだ半球形のパンで、手に持つとずっしりと重たい。
パクッ
(...硬い)
なんだこのパン...
なかなか噛みきれない。
それに、手で引きちぎるのが大変だ。
外国にこんな感じのパンがあった気がする。
少なくとも、子供の歯で食べるものでは無いな...
パクパク...
俺は手に取った一個を食べ終わる。
沢山噛んだせいか、既にお腹いっぱいに感じる。
皿にはまだ数個、パンが置かれているが、わざわざ食べる必要はない。
...ボフッ
「はぁ...」
俺は椅子から降り、ベッドに飛び込む。
(今日は何をしようかな...?)
無闇に外に出る訳にはいかない。
かと言って、部屋ですることも..,
「ん〜...」
ガチャッ
俺が考えていると、部屋の扉がゆっくりと開く。
俺はベッドから体を起こし、扉の方を見る。
「...おはよ」
「あっ、おはようございます」
扉の隙間からイリーナが顔を出す。
そういえば、昨日は一度も見てなかったな...
昨日はまだ、眠っていたのだろうか?
「今日も掃除をしに?」
「ううん、違う。今日はお仕事しなくていいってお母さんが...」
「そうですか...体調の方は大丈夫ですか?」
「うん、平気」
「それは良かったです」
「...」
「...」
会話は止まり、イリーナは俺をじっと見つめる。
「...僕の顔に何か付いてますか?」
一応聞いてみる。
が、イリーナは頭を横に振る。
「リーゼルくん、なんか変」
「...え?」
「前と違う。なんだかモヤモヤしてる」
「モヤモヤ?なんですか、それ...?」
「分からない。でも、モヤモヤしてるの」
突然悪口を言われたと思ったら...
なんだ?モヤモヤって...
「う〜ん...」
「...あっ」
「ん?どうかしましたか?」
「私、遊びに来たんだった...」
「はあ...そうですか...」
「ねぇ、遊ぼ〜」
「ん〜...まぁいいですよ。それで、今日は何をするんですか?」
「えっとね〜...」
(...)
俺は自分の手のひらを見つめる。
"モヤモヤ"か...
俺には"それ"は見えないし、一体なんなのか、分からない。
だけど、俺はどこかで"それ"を見ている。
そんな気がする。
何となくだけどな...
「...これしよ〜」
イリーナは廊下からボードゲームを取り出す。
「わかりました。ではまず、遊び方を...」
ツー...
(っ!?...)
突然の電子音。
脳内に音が微かに響く。
それと同時に、脳裏に画が映る。
"半壊した宿"
俺には見えた。
俺の目の前...イリーナが居る位置が全て吹き飛んだ光景が...
その光景に"人"は映っていない。
...タッ
それを見た瞬間、俺は動き出していた。
サッ
「きゃっ!...」
俺はイリーナの腕を掴み、自分の方へ引き寄せる。
"ヤバい"
俺の本能がそう叫んでいる。
これから起こる出来事は...
確実に俺の知らない世界だ。




