第19話 4歳、王都レドラム 9
「...さて」
戻るか...
サッ
俺は腰掛けていた石段から立ち上がり、来た道を引き返す。
ガヤガヤ...
相変わらず、どこも騒がしい。
宿場通りに戻ってきたが、人通りは減るどころか増えている。
気を抜くと、流されて揉みくちゃにされてしまいそうだ。
タッタッ...
俺は流されないように、人ごみを掻き分けて進む。
タッタッタッ...
ドスッ!
「うわっ!...」「きゃっ!...」
俺が歩いていると、正面から誰かがぶつかる。
その衝撃で、俺もその人も尻もちをつく。
「イテテ...」
「いったぁ〜...」
頭が痛い...
ぶつかった時に、頭が当たってしまったようだ。
まったく...急にぶつかってくるなんて...
まぁ、この人混みじゃしょうがないかもしれないが...
「もう!なにするのよ!!」
俺はその声を聞き、ぶつかってきた相手を確認する。
(女の子?)
目を開けると、俺の目の前には少女が座り込んでいた。
その少女は、肩より少し長い髪で整った顔立ちをしている。
服は長袖のブラウスにケープを羽織っているようだ。
身長からして歳はあまり変わらないだろう。
「貴女こそ、ぶつかってきて謝罪もないんですか?」
「なんでアンタなんかに謝る必要があるの?だいたい、ぶつかってきたのはそっちでしょ?謝って!」
とりあえず謝罪を求めてみたが、謝る気は無さそうだな...
まぁ、見た目がお金持ちのお嬢様って感じだし、平民に謝るのは癪なのだろう。
「...お嬢様!どこですか?」
「っ...もう来たの!?」
少女は突然慌て出す。
「ちょっとあんた、どきなさい!!」
ドスッ!
「うわっ」
少女は俺を押しのけ、人混みの中を走り去る。
まったく...なんだったんだ?
一瞬の出来事すぎて、本当にあったのかを疑ってしまう。
「よいしょっ...ん?」
俺は立ち上がろうと、膝に手を着く。
その時、俺の視界の端で何かが光る。
(これは...)
俺は"それ"を拾い上げる。
「...宝石...?」
落ちていたのは指先サイズの赤い宝石だった。
よく見てみると、宝石には紋章のようなものが彫られている。
多分、これだけでも相当高価なもののはずだ。
さっきの子とぶつかった時に、あの子の服から取れてしまったのだろう。
(さすがにいないか...)
俺は少女が走り去った方向を眺める。
何故だろう...
あの子には、また会える気がする。
この"落とし物"はその時が来るまで俺が預かっておこう。
スンスン...
(この匂い...)
どこかから食欲をそそるような良い匂いが漂う。
俺はその匂いに引き寄せられるように、匂いのする方向へ歩みを進める。
タッタッ...タッ
(ここか...)
俺は通りに並ぶ屋台の一つにたどり着く。
「...マムラー?」
看板には日本語訳でそう書かれている。
机が高いせいで"それ"をよく見ることが出来ないが、匂いはカレーに近い。
(とりあえず買ってみるか...)
俺はポケットから数枚の硬貨を取り出す。(マーヴルから貰ったお金)
いまいちこの世界のお金の感覚が分からないが、とりあえず全部出せばいいだろう。
...カサッ
俺は店員から紙に包まれた"マムラー"を受け取る。
なるほど...
どうやら"マムラー"とは揚げたパンのようだ。
匂いも相まって、カレーパンのように見える。
見た感じは美味しそうだ。
しかし、食べ物は見た目や匂いだけではない。
肝心なのはその味だ。
(さて...味はどうかな...?)
...サクッ
(...!)
美味い...
油で揚げられたサクサクとした生地に甘さと辛さが絶妙なカレーのような餡がマッチしている。
餡には、数種類の種類の野菜と、口に入れるとホロホロと崩れるような食感の肉が入っている。
それに加え、口の中に充満するスパイスの良い香りが俺の食欲を刺激する。
サクッ...
1度食べ始めると、俺の手が止まることはなかった。
「ふぅ...」
つい夢中になって食べてしまった。
まさか、こんなに美味いもの食べられるなんて、思ってもみなかったな。
ありがとう、マーヴルさん...
俺は空を見上げる。
「...」
(帰るか...)
...こうして俺の星夜祭1日目は終わりを迎えたのだった。




