第16話 4歳、王都レドラム 6
ガチャッ
ギイィィ...
宿の扉が、木の軋む音を立てて開く。
ガヤガヤ...
「ママ、これ欲しい!」
「ダ〜メ。こんなもの使うことないでしょ?」
「ヤダ!買って、買ってよー」
「これなんかいいんじゃない?派手過ぎないし」
「たしかに...でも、せっかくのプレゼントには物足りないっていうか、なんというか...」
「はぁ...奥さんへのプレゼントくらい自分で選べないのかしら...?」
「...お願いだオヤッサン、もう一声」
「ダメだ。もう一声も二声も聞けないねぇ」
「そんなぁ...」
扉の向こう側から、様々な会話が聞こえてくる。
そして、目の前の大通りを右へ左へ人が流れてゆく。
俺はまだ背が低いから宿から出た瞬間、目の前に高い壁があるように見える。
(宿から見えてたのはコレか...)
目の前で見ると、実に圧巻だ。
これだけの量の人が一斉に動いているなんて、中々見ることのできない光景だろう。
「...リーゼル、こっちよ」
俺はリーニャに手を引かれ、その人混みの中に入っていく。
ドスッ...
人混みの中に入ると、他人の脚が四方八方からぶつかってくる。
俺はリーニャの手をしっかりと握った。
「お母様、どこに向かってるんですか?」
「掘り出しモノとか骨董品が多く集まってるエリアよ。ここの通りは食べ物とかが多いから、私達が探してるようなモノを見つけるのには向いてないの」
それから数分歩き続け、人混みが疎らな通りに出た所でリーニャは歩みをとめた。
「ここですか?」
「そうよ。さっきの通りより人が少ないし、専門的な物品が多いから占いの道具を見つけるにはうってつけでしょ?」
動物の角。
変な植物。
鎧や武器...
確かに、店頭に並ぶ商品はガラクタのような物品や一般にはあまり使わないようなモノばかりだ。
「...でも、どうやって探すんですか?一軒一軒見て回ってたらキリがないですよ?」
「実際に体験するのよ」
「体験?」
「ほら、あそことか良さそうじゃない?」
リーニャがある方向を指を差す。
そこには小さめのテント小屋があり、入り口近くの看板には"占い"と書かれていた。
俺はリーニャに連れられ、その垂れ幕を恐る恐るくぐった。
「いらっしゃい」
中は3畳ほどで、真ん中に長机、その両側に簡素な椅子。
向こう側には60代ほどの、いかにも占い師といった装いの女性が座っている。
「ん、雰囲気は悪くないわね」
「ちょっと胡散臭くないですか?」
「占いってそういうものよ」
そう言い返すとリーニャは早速席に座り、女性に「何を占えるのか」と聞いた。
それに対し女性はただ一言、「未来」
すると、女性は脇の袋からジャラジャラと何がをひと握りし、机に敷かれた刺繍の入った布にばら撒く。
それらは金平糖ほどの宝石で、それぞれの形は微妙に異なっていた。
それから、女性はリーニャに髪を数本要求し、受け取って長さを整えると、それらも布の上にばら撒いた。
女性は興味深そうにそれを見つめ、やがて驚いたように結果を出した。
「驚いた。40年ほど占いをしてきたけど、こんな結果は初めてだよ」
「どういうことですか?」
「そのままの意味だ。ありとあらゆる二者択一の未来が双方とも現れてるんだよ。...アンタ、何者だい?」
「あっ、失礼しますー...」
「ちょっ...お母様?」
俺は半ば強引にリーニャに引き連れられ小屋を出る。
その最中、リーニャがボソっと何か呟いたような気がしたがよく聞き取れなかった。
「お母様、急にどうしたんですか?」
「え?いや、この調子だと時間がかかりすぎちゃうでしょ?...あ、ほら!次はあそことかいいんじゃない?」
...それから幾つか占い小屋を回ったが、他はどれも胡散臭いものばかりだった。
最初の時、微かに"気"を感じたが...
今思えば、始めの占い師は"本物"だったのかもしれない。
「お母様、次はどこに...」
「リーゼル?」
ツー...
突然、俺の脳内に音が響く。
電子音のような奇妙で不快な音...
(リーニャが占いを...?)
いや、違うな...
今のリーニャからは"気"を感じない。
じゃあ、なんで発動して...
サアァァァ...
(音が...変わった...?)
脳内で響いていた音にノイズが混じる。
「...ッ!?」
頭痛が酷い...
頭が...頭が、割れる...?
ガヤガヤ...
タッタッタッ
周囲の音が大きく、響いて聞こえる。
(一体、なんなんだ?)
...ザアァァァ!
(!?)
脳内に響く音が大きくなり、ノイズが酷くなる。
それと共に、脳裏に"映像"が流れる。
...それは、"光"だった。
恐ろしい程の生命の輝き...
実に奇妙で、神々しい未知の光...
俺はただひたすらに恐怖する。
その暗く明るい光を浴びて...
タッタッ...バタッ
「リーゼル?...リーゼル!」
(あれ?俺、倒れて...)
俺の体が、力無くリーニャに寄りかかる。
あの映像の影響だろうか?
俺は立ち上がろうと、全身に力を入れる。
だが、俺の体はビクともしない。
力が入るどころか、抜けているように感じる。
「次、どこ行く?」
「お腹が空いたし、どこか食べ行こ?」
「いいね♪私、お肉が...」
「今日は来た甲斐があったなぁ」
「そうね...去年はこの子を産むために行けなかったから...」
「でも、まさか星夜祭の日に産まれるなんて驚いたよ」
「ほんと、驚い...」
「お嬢様、探しましたよ!」
「やばっ、見つかった!?」
「あっ、お待ちください!旦那様が心配しておりますよ」
「せっかく来たのに...」
人々の声が響いて聞こえる。
(ヤバい...意識が...)
遠のいて...い、く...




