第14話 4歳、王都レドラム 4
「すぅ...すぅ...」
ガサッ
「んん...ん?」
俺は息苦しさを覚え、目を覚ます。
(なんだ?これ...?)
俺は目を開けたはずだが視界はまだ少し暗い。
何かに頭部を包まれているようだ。
それと、後頭部がなにかに触れている。
サッ
俺は"それ"をどかし、体を起こす。
「ふぁ〜...」
「んん...むにゃむにゃ...」
(ん、イリーナか...)
俺の隣にはイリーナが眠っている。
どうやら、俺はイリーナに抱きつかれていたようだ。
それにしても、よく寝たなぁ〜...
実に気持ちの良い目覚めだ。
タッタッ
俺はベッドから降り、椅子に登って窓に近づく。
窓の外はまだ少し暗い。
日が沈んでいる最中なのだろう。
(明日はついに星夜祭か...)
いい思い出になればいいけどな...
...いや、いい思い出にする。
まぁ適当に過ごしていても記憶には残るだろうがな。
それ以上に充実した人生を過ごしてこそ、転生した恩恵を感じるというものだろう。
...ガヤガヤ
(...ん?)
なんか、やけに賑やかだな...
窓から見える大通りは人で溢れている。
昨日はここまで多くなかった。
それと、道の両端にたくさん屋台がある。
たしか準備期間中は屋台で商売ができないはず...
それに一向に日が沈まない。
逆に登っているような...
(んー...)
俺は少し考える。
「...ん?あれは...」
考える俺の視界に、"あるもの"が入る。
(カレンダー...?)
視界に入ったのは、壁に掛かったカレンダーだった。
それは薄い木版でできていて1ヶ月は地球と異なり約40日。
土曜日から日曜日にあたる文字とプラスでもう一日で1週間。
それに数字が書かれている。
数字の部分には墨で書かれたバツが付けられていた。
(こんなものあったのか...)
前世では一般的だったけど、こっちでは今まで見たことがなかったな。
時間や日付などの暦の概念はあったから、カレンダーに近しいものはあるだろうと思っていたが...
ここで初めて見るとは思わなかった。
今までカレンダー無しで生活できていたから気にしていなかったが...
そういえば俺、今が何年の何日なのか知らないな...
俺はカレンダーをまじまじと見つめる。
"聖暦2,116年12月26日"
↑これが今日の日付らしい。
訳があってるかは知らん。
そして、今日の日付には"星夜祭1日目"と書かれている。
「星夜祭1日目...?」
星夜祭は明日のはずじゃ...
もしかして俺、20時間近く寝てたのか?
人間って、そんなに寝ていられるものなのだろうか?
「んー」
「すぅ...すぅ...」
ふと、ベッドに目を向けるとまだイリーナが眠っている。
とてもリラックスした寝顔だ。
(まさか、な?)
"イリーナの仕業"
一瞬、そう脳裏をよぎる。
だが、俺とイリーナはほぼ初対面だ。
そんなこと、わざわざするとは思えない。
でも、イリーナ以外に居ないしなぁ...
「うーん...」
コンコン
「あのーお客様、居ますかぁ〜?」
「あ、はーい」
「朝食持ってきましたよ〜」
「分かりました」
タッタッタッ
ガチャッ
俺はドアに近づき、ドアを開ける。
開けると目の前には、中学~高校生くらいの女の人がお盆を持って立っている。
「あれ?子供...?」
「えっと...」
「あ、はいこれ」
俺はその人からお盆を受け取る。
そのお盆には、2人分の食事が乗っていた。
「ありがとうございます♪」
「ん、どういたしまして」
俺は受け取ったお盆を机に置きに行く。
「むにゃむにゃ...」
「...ん、イリーナ?」
「んん...」
タッタッ
その人はイリーナを見るなり、部屋に入ってくる。
「もう、イリーナったら...」
「あっ、叱らないであげてください」
「えぇ分かってる。この子、1度寝ちゃうとなかなか起きないから...」
「そうなんですか?」
俺が問うと、女性は小さく頷く。
「生まれつきなの...昔から異常なくらい睡眠時間が長くてね」
「病気なんですか?」
「分からない」
女性はイリーナの頭を優しく撫でる。
「お医者様も原因が不明だって...」
「そうですか...」
「私もお母さんも、イリーナには普通の女の子で居させてあげたいって思ってる。でも、"呪い"を代わりに受けてあげることはできない」
サッ
女性はイリーナを両手で抱える。
「...この子が迷惑かけちゃったね。君、この子の相手してくれたんでしょ?」
「いえ、迷惑だなんて...」
「この子、昔から弟が欲しいって言ってたから...君みたいな年下の子を見て、はしゃいじゃったのね」
「...」
(弟...?)
どちらかといえば、俺の方が年上っぽかった気が...
「あっ、まだ名乗ってなかったね。私のことはシャフィって呼んで。見て分かると思うけど、この子の姉よ」
「じゃあ、僕のことはリーゼルと呼んでください」
「分かった。この子は私が持っていくから...お邪魔したわね」
シャフィはイリーナを抱えたまま扉に向かう。
「あっそうそう、うちのツェペルは最っ高に美味しいのよ?」
ガチャッ
それだけ言い残し、シャフィは部屋を後にする。
(ツェペル...?)
美味しいってことは食べ物だよな?
俺は机に置かれたお盆を見つめる。
(どれだよ...)
お盆には数種類の食事が個別の皿に盛られている。
ポテトサラダ?とクロワッサンもどき、謎野菜の肉巻きにコンソメ風スープ...
どれも、とても美味しそうだ。
(まぁ、全部食ってみれば分かるか...)
俺はお盆から一人分の食事を取る。
そして俺は席に座り、両手を組んで目を閉じる。
(...いただきます)
...こうして、星夜祭の朝が始まったのだった。




