第13話 4歳、王都レドラム 3
「すぅ...すぅ...」
ぷにっ
「ん...」
ぷにゅー
「んん...」
(...なんだ?)
俺のほっぺたに何かが当たるような感触がする。
(これは...指?)
俺のほっぺたに当たっているのは、どうやら指のようだ。
当たってる面積や、人肌の温かみのようなものを感じるからたしかだ。
だが、指?
リーニャがつついてきているのだろうか?
俺はゆっくり目を開ける。
「...ん?」
俺は少女と目が合った。
「あ、起きた。おはよ」
「おはようございます...?」
えっ...誰?
俺、見覚えないんだけど。
挨拶されたから、とりあえず挨拶したけど...
「えっと...貴女は?」
「イリーナだよ。あなたは?」
「あ、僕はリーゼルと言います。それで貴女は何故ここに?」
「えっとね、お掃除しに来たの」
(掃除?)
...あー、この宿の従業員?なのか。
おそらく、マンダの子供だろうな。
たしか、15歳と5歳だったか?
この子は5歳の方の子供だろう。
「...」
「...」
「...えっと」
「ん?何?」
「お掃除は...?」
「するよ?」
なんなんだ?この子...
するならさっさとして欲しいんだが...(筋トレしたいから)
...というか、さっきからリーニャが見当たらないな。
どこ行ったんたろう?
「...あなた、変ね」
「え?それってどういう...」
「よく喋るなぁ〜って思って」
「はぁ...まぁ、そうかもしれないですね」
ぷにゅー
「む...やめれくらさい...」
「ぷにぷにしてるー」
(突然なんなんだ...?)
俺は何故かイリーナにほっぺたをつねられている。
だが、何故なぜだ?
何故こうなっているんだろう?
「...ねぇねぇ」
「ん?なんれすか?」
「私と遊ぼ?」
「えっ、そうじはいいんれすか?」
「あとでやるよ?」
絶対やらないな...
あとでマンダに怒られるやつだろ。
まぁ俺自体は暇だし、掃除を終わらせてから遊んでやるか...
「いいれすけど、ろうけんがありまふ」
「なになに?」
サッ
俺はとりあえずイリーナの手を振り払う。
めっちゃ喋りづらいからな...
「ふぅ...遊ぶ前に、お掃除を終わらせることです」
「え〜」
「僕も手伝いますから」
「...分かった」
俺はイリーナから小さな箒とちりとりを受け取る。
...サッサッサッ
そういや、宿って客が居る部屋に入って掃除するものなのだろうか?
普通、客が泊まる前後に掃除を済ませておくものなんじゃ...?
ちょっとした疑問が残りつつも、俺は床の埃を集める。
舞った埃が煩わしい...
...少しはわいてみて分かったが、隅の方とかにだいぶ埃が積もっている。
あまり掃除がされていなかったみたいだ。
(たしかこの部屋、普段はマンダ達が使ってるとか言ってたな...)
...ん?
普段はマンダ達が使ってる?
俺の脳裏に昨日の出来事...主にこの宿でのことが映し出される。
...そういえば、この部屋に初めて来た時、ベッドが乱れていたな...
もしかして、今イリーナが掃除しに来たのって...
昨日、俺達が急遽部屋に入って掃除し忘れたから...?
なら、俺がベッドに寝転がった時にしたあの異様な匂いって...
...いや、これ以上は考えないほうがいいだろう。
...一方イリーナだが、今は雑巾で窓や窓枠を拭いている。
何故イリーナが突然、俺を遊びに誘ったのかはよく分からない。
まぁ遊ぼうと言われたら断る理由もないがな。
宿に泊めさせてもらっているんだ。
子供と遊ぶくらいのことは、俺にもできる。
...だが、遊ぶといっても何して遊ぶんだ?
俺はこの3年間、ろくな遊びをしてこなかった。
いや、する時間も相手もなかった。
(この文明レベルの子供の遊びか...)
全然思いつかないな...
そもそも、前世ではエンタメが発展していたからな。
遊びにおいて飽きることもなかった。
この世界に生まれてからは体を鍛えることを覚えたから、暇することなんてない。
まぁ、ここで一つくらい遊びを覚えていても損は無いだろう。
「...ふぅ」
(だいたい終わったかな?)
俺は部屋を見渡す。
部屋の埃は袋にまとめられ、窓には水滴が滴っている。
ベッドは整えられ、机の花瓶には綺麗な花がささっていた。
掃除なんていつぶりだろう。
前世も合わせたら5年ぶりくらいだろうか?
「それで...何して遊ぶんですか?」
「これ!」
俺がイリーナに訊くと、イリーナは返事をしながらポケットからカードの束を取り出す。
「それは...?」
「シエレって言うの」
イリーナはカードをベッドに広げ、"シエレ"の説明を始める。
数分後...
(ふむ、なるほど...)
イリーナの説明を聞いた感じ、このシエレとは前世でいうトランプのようなものらしい。
今の都会の子供たちはこれを使って遊ぶのが流行っているそうだ。
遊び方は前世とあまり変わらない。
俺はカード系のゲームは得意だ。
ルールさえ分かれば、それなりには戦えるだろう。
2時間後...
『...』
俺は自分の手元の2枚のカードと、イリーナの表情とその手元の3枚のカードを交互に見る。
戦況は俺の優勢で、俺の番...
確率は3分の1だ。
当たりを引けば俺の勝ち。
それ以外でも、JOKERじゃなければ勝機はある。
俺はイリーナのカードをなぞりながらその表情を探る。
...ピクっ
(...勝ったな)
サッ!
...パサッ
「あっ...」
「また、僕の勝ちですね」
俺はイリーナのカードから1枚取り、自分の持っていた1枚と一緒にカード捨て場に放り投げる。
「む〜!なんでぇ〜」
「さぁ?なんででしょう?」
遊び始めてから2時間ちょい...
俺は今、10連勝したところだ。
勝てるとなんか気分がいいな〜。
それにしてもこの子、弱すぎる。
表情や仕草で分かるから、俺はまず負けない。
そろそろ可哀想になってきたな...
「ふぁ〜...」
んー
久しぶりに頭使ったから、眠くなってきたな...
...ボフッ
俺はベッドに横たわる。
その衝撃で集められていたカードが散らばる。
「次は何して...」
イリーナの声が遠くなる。
体がスリープモードに入ったようだ。
もうすぐ、眠りに...
タッタッタッ...
ガチャッ
「えっと...ん?」
タッタッ
「あらあら、もう仲良くなったのねぇ...」
ササッ...
「ふふっ...おやすみ....」
...ガチャッ
『すぅ...すぅ...』
...部屋のベッドにカードが散らばる。
それに囲まれるように、リーゼルとイリーナが向かい合って寝ている。
2人の体には、毛布がかけられていた。




