第12話 4歳、王都レドラム 2
「...よし、これで大丈夫」
「あ、ありがとうございます...」
俺は自分の脚に目を向ける。
俺の太腿には白い包帯が巻かれていた。
あまり深い傷でもなかったけどな...
絆創膏がないから包帯が使われるんだろう。
「そういえば、あんた何歳なんだい?」
「4歳ですけど...」
「4歳!?」
「?...どうかされましたか?」
「...いや、4歳児にしては流暢に喋るなと思ってねぇ」
「そうですか?」
「あぁ。私は子供が二人いるけど、小さい時はあんた程喋れなかったから」
やっぱり、この世界でも4歳で流暢に喋る子供なんて居ないのか...
今の俺は、身体が心に追いついてない状態だ。
成長するごとに、実年齢と精神年齢が一致していくから驚かれるのは今だけだろう。
「まぁ成長には個人差がありますから」
「んー...まぁ、そうかもしれないねぇ」
多様性が重視される社会なんだ。
俺みたいな奴がいたって何ら不思議じゃない。
...まぁ前世では、だけどな。
「おっと...そういやぁ、まだ名乗ってなかったねぇ。私はマンダ。この宿の店主だよ」
宿?
あ、ここ宿だったんだ。
まぁ宿場通りにあるんだから当然か...
運良く部屋が空いてたりしてないかな?
「あ、僕はリーゼルといいます。...それで、ここって宿だったんですね」
「そうさ...儲かってるとは言えないけどねぇ...」
「そうなんですか?聖夜祭なら人が来るんじゃ...」
「...うちは小さくてボロい宿だから、人が来たってもうからないのよ。だからって祭りの時だけ宿泊代を上げたら、うちに泊まるくらいの人は安い宿に行っちまう」
なるほどな...
人々はより良く、より負担の少ない方に流れていく。
だから、家族で切り盛りしているマンダは儲からない。
でも、なんで続けてるんだ?
「それは...大変ですね...」
「...まぁこれは儲けの話だよ。私はこの宿を切り盛り出来りゃあそれでいい。お金のことなんかは二の次さ」
「...なるほど」
お金よりもやり甲斐を優先しているのか。
そんな考えを持っているなら、この人はいい人に違いない。
「そういやあ、あんた達はこの街の人間じゃないだろう?どこから来たんだい?」
「えっと...アルタ村っていう小さな村です」
「へぇ、だいぶ遠くから来たんだねぇ。冬場の長距離移動は大変だったろう?」
「まぁ、そうですね...」
「泊まるところは?もう決まってるのかい?」
「いえ、まだですけど...」
質問が多いな...
あと最後、サラッと宿泊場所聞いてきたし。
このおばちゃん、やり手だな...
「そうかい!なら、うちに泊まっていかないかい?部屋は余ってるんだ」
「それ、僕に訊きますか...?」
俺が聞き返すと、マンダは俺の耳元に顔を寄せる。
「子供がねだった方が泊まってくれるんだよ」
あー...なるほど。
つまり、俺にリーニャに泊まりたいとせがめ、と言ってるわけだな。
さっきお金のことは二の次とかいってたのに、子供に耳打ちするとは...
「さっき儲けは二の次だって...」
「何言ってるんだい?儲けと客は別だろう?」
「ハハッ、たしかにそうですね...」
「そんで、どうだい?」
「んー...」
まぁ泊まってもいいかもしれんが...
最終決定はリーニャだしな。
俺はベッドがあればそれでいいし。
「...分かりました。お母さまに頼んでみます」
「そうかい!なら、次はあんたのお母さんと話さなきゃねぇ」
はぁ...やっと休めそうだ...
...ボフッ
「はぁ〜...やっと休めそうね〜」
「そうですね〜」
俺とリーニャがベッドに横たわる。
俺達はさっきこの宿にチェックインして、部屋に荷物を運んできたところだ。
(はふぅ...やっぱベッドが1番だな...)
この部屋はあのおばちゃん...マンダの宿の1番いいお部屋だ。
「どうせ空いてるから使っちゃって」
とか言って、普通の部屋と同じ値段で泊めてくれている。
俺に傷を負わせたお詫びも兼ねているのだろう。
1番いい部屋なだけあって、清潔で日当たりもよく、部屋が広い。
それに、なんと言ってもこのベッド。
めっちゃふかふかしてる。
マンダによれば、そこそこ珍しい高級羽毛を沢山詰めているらしい。
正直言って、最高だ。
ろくな娯楽がなくて睡眠が唯一の楽しみの俺にとっては、天国のような環境だ。
この部屋を通常の部屋と同じ価格で、しかも三食付きで泊めてくれると言うんだから気前がいい。
「ふぁ〜...」
横になってたら眠くなってきた...
ちょっと運動しようと思ってたけど、身体は相当疲れているようだ。
まぁ、寝てもバチは当たらないだろう。
今日のところはゆっくり休んで、明日の事は明日の自分に任せるとしよう...
「...すぅ...すぅ」
リーゼルの寝顔は、まだ幼い子供のそれだった。




