第11話 4歳、王都レドラム
ガタガタ...
「おっ...リーニャちゃん、見えてきたよ」
「ホントですか!?」
俺はリーニャと一緒に外を覗く。
さっきまで力無く舞っていた雪は完全に止み、分厚く暗い雲の隙間から、地に陽が降り注ぐ。
その光の先には、巨大な城壁が見えていた。
(あれが王都レドラム...)
心が踊る...
それが自分でもよくわかるほど、俺はワクワクしていた。
この世界で初めての都会...
ワクワクしない訳が無い。
初めてはいつでも心躍るものだ。
まさか都会に行くのが一回死んだ後だとは思わなかったが...
どんな世界であれ、そこが都会とされている所なら都会に行ったという事実に変わりは無い。
今日はいっぱいはしゃぐぞ〜
...って、齢4つの子供が出来ることなんてたかが知れてるがな。
まぁできるだけ良い思い出になるように楽しむとしよう。
「...あっ」
「?」
「いえ、なんでも無いわ」
俺の隣で同じく外を眺めていたリーニャが、ふと声を漏らす。
ん?どうしたんだ?
なにかに気づいたような反応だったが...
...
まぁ考えても仕方ないか。
俺達を乗せた馬車は、城壁へと伸びる一本道を進む。
俺は馬車に揺られながら、城壁を眺める。
...聖夜祭が始まる2日前。
村から出発してから21日...
俺は王都に到着した。
「...リーニャちゃん、俺こっちだから」
「ありがとうございました♪」
「じゃあまた4日後...」
ガタガタ
俺達を乗せてくれた馬車が走り去る。
「んー...」
(はぁ...やっと着いた...)
俺は大きく背伸びをする。
...やっぱり20日も体を動かしてないと鈍ってるか。
早速体を動かしたいところだけど...
迷子になるのはごめんだからな。
今はリーニャについて行くとしよう。
「お母さま、これから何をするんですか?」
「そうね...とりあえず、宿を取らなきゃね...」
「あれ?取ってないんですか?」
「そうよ?私たちは平民だから...」
なるほど...
この世界は情報技術が発達してないから事前に予約とかがやりづらいのか。
異世界ってやっぱり不便だな...
「じゃあ、どこの宿に...?」
「これから探すのよ?あまりお金がある訳じゃないから、できるだけ安い宿があると助かるわね...」
そんなこんなで、俺達は宿を探すことになった。
早めに見つかってくれると嬉しいのだが...
...タッタッタッ
「今回もダメでしたね...」
「そうね...考えることはみんな一緒ね...」
ここは、街の中央から少し外れた大通りの一つ。
"宿場通り"と呼ばれているその通り沿いには、大小様々な宿が建っている。
俺達はつい先程、18軒目の宿から満室だと聞いたところだ。
宿泊代があまり高くなさそうな所を回っているのだが、どこも空き部屋がないらしい。
まだ聖夜祭の2日前だと言うのに、どこも満室とは...
「お母さま、次はどこを訪ねますか?」
「ん〜...あっ!」
サッ
「うわっ」
その時、リーニャの前を歩いていた俺は突然リーニャに襟を引っ張られ、地面に尻もちを着く。
ガシャーン!...
その"ものが割れるような音"がしたのは、俺が尻もちを着いた直後だった。
(!...びっくりした...)
転んだ俺の股の間には、割れた器の破片がある。
花が散乱して水が撒かれているから、落ちてきたのは花瓶だろう。
リーニャが引っ張ってくれなかったら、重傷だったな...
全く...4歳児の頭上に花瓶を落としたのは、どこのバカだ?
「あら!あんた達大丈夫?今からそっち行くから、待ってて!」
そう言って近くの建物から俺達に声をかけたのは、4,50ぐらいのおばちゃんだった。
少しして...
「あんた大丈夫かい?」
「あっ、はい...」
そのおばちゃんは建物から出てくるや否や、俺に近づき安否を確認する。
「ん?...あら、傷じゃない!ごめんねぇ、痛かったでしょう?」
「傷?」
俺は自分の脚を見る。
そこには花瓶の破片によって付けられたと思われる傷があり、そこから少量の血が流れ出ていた。
(気づかなかったな...)
「おばちゃんが応急処置してあげる。お母さんもいいですよね?」
「え?あっ、はい。お願いします」
「ほら、こっちに来なさいな」
俺はおばちゃんに腕を引っ張られながら、目の前の建物に入る。
バタン...
...ガチャッ
「あ、お母さんも入っちゃって!」
「えっ、いいんですか?」
「いいのよ。貴女の子供に怪我させちゃった私なんだから...シャフィ!お客様だよ、お茶用意しな!」
「...は〜い」
「じゃあ、お言葉に甘えて...」
リーニャもその建物にお邪魔する。
...こうして俺達はおばちゃんの店に入ったのだった。




