第105話 8歳、白銀の山嶽 3
コォォォ...
(...!)
正面から3発。
避けるのは造作もない。
...が、まずは1発。
この魔術の威力を確かめたい。
スッ
リーゼルは狙いを定め、火球の一つに発射のイメージを送る。
素早く、かつ慎重に。
すると火球は真っ直ぐ飛んでいき、襲い来る氷柱の一つと衝突した。
バァァァン!!
「!?」
その瞬間、結構な爆発音と共に正面がさらに濃い煙に包まれ、周囲に細かな氷の破片が散らばる。
それから他の氷柱も飛んで来ず、爆発に巻き込まれ一緒に散らばったようだった。
(...ば、爆発した?)
この魔術の効果...じゃ無さそうだ。
水蒸気爆発の類いだろうか?
熱で氷の表面が溶けて爆発したか、はたまた火の熱で氷のまま爆発したか...
どちらにせよ、この火が滅茶苦茶熱いことには変わらない。
通常より多く魔力を使ったのだろうか?
最低位の魔術のはずだが、威力は申し分ないな。
(前2、後ろ3...)
次の攻撃が飛んでくる。
俺はまず正面からの2発を躱し、後ろから飛んでくる3発に火球をぶつける。
今度も火球が氷柱に触れた瞬間に爆発し、さっきのが偶然でないことが確認できた。
...残り13発。
まだ余裕はあるが、この調子で相殺に使えばすぐ無くなる。
何とかして1、2発は食らわせたい所だが...
やはり、敵の位置が掴みにくい。
この吹雪のせいもあるが、それだけじゃない。
この環境の強みを殺さないように、攻撃を遅延させているようだ。
せめて氷柱以外の攻撃があったらいいのだが...
────ッ
(...!)
その刹那。
吹雪が止み、敵の姿が顕になる。
それを一言で表すなら、"妖精の氷像"。
そして、その周囲からは何か異様な気配を感じた。
(上か?...いや、違う!)
リーゼルは咄嗟に身をかがめ、火球を掴みイメージを送り込む。
すると、いくつかの火球が形を変え、リーゼルの周囲にベールの様に広がった。
...ズザァァァッ!!!
と、次の瞬間。
冷気を纏った氷の棘が地を沿い這う。
それは氷像の足下から扇状に広がり、間も無くリーゼルを襲った。
だが、リーゼルに大きな被害は見られない。
直前で展開した炎のベールが冷気を防ぎ、魔力が障壁となり氷の棘を退けたのであった。
「ふぅ...」
ちょっと危なかったな...
あと少しでも反応が遅れてたら、串刺しにされて氷漬けになってた所だろう。
咄嗟の思い付きだったが、成功して良かった。
"一度魔術を発動さえすれば、その後は魔法の要領で操作できる"
これが分かっただけでも選択の幅は大きく広がる。
まだ完全に要領を掴んだ訳ではないが、許容範囲内だ。
それと、今の攻撃の直前...
風が一瞬止んで敵の姿を確認できた。
恐らくあの攻撃..."氷棘"は"氷柱"とは違って、大きく処理能力のリソースを喰うのだろう。
...つまり、隙である。
今の俺がコイツに勝つには、その攻撃の隙をつく必要がある。
防ぐのに3発は必要だとすると、チャンスは残り3回。
攻撃に回す分も考えると残り2回だ。
使わずに回避できれば一番だが、攻撃範囲が広く今の俺ではかなり難しい。
それと、まだ一度も攻撃を当てられてない以上、どの程度の攻撃でコイツを倒せるかが分からない。
だから、俺の"最初で最後"の攻撃には、今出せる全力を注ぎ込む。
(っ!)
...シュッ!
思考を遮るように氷柱が飛んでくる。
だが、リーゼルはそれを軽く躱し、続く攻撃もまた意味をなさなかった。
サァァ...
(...!)
...ズバァァァン!
その一瞬。
風向きが変わり、降雪が乱れ舞う。
すると足元の雪が盛り上がり、尖った氷塊が勢いよく地面から突き出した。
しかし、リーゼルはこれも軽く避け、吹雪の向こうをジッと見つめた。
コォォォ...
...攻撃が止んだ?
いや、そんなはずない。
これから確実に、この戦いを左右する何かが起きる。
そんな予感がしてならない。
見極めろ...
変化を見逃すな。
フッ...
(風が...吹雪が晴れるッ!)
俺はまた身をかがめ、火を取る。
火はバーナーの火のように細くなり、手の中で燃え盛った。
─────ッ
「!?」
吹雪が晴れ、その光景に俺は絶句した。
四方八方を無数の氷柱が取り囲み、鋭利な先端が俺を狙う。
それはもう寸前まで迫っており、予断を許さない状況だった。
(マズイな...)
炎のベールは前方からの攻撃しか防げない。
加えて、展開中は回避行動が制限されてしまう。
爆発を起こして逃げようにも、火力が低くて爆発が起きるかどうか...
今更火球にも戻せない。
...それなら───
ボッ!
手中の火が更なる熱を帯び炎の渦を巻く。
リーゼルはそれを握りしめ、横側に投げ飛ばした。
それは氷柱の一つに触れ...
...ドゴォォォォ!!!
最初の比にならないほどの爆発を引き起こす。
それにより雪が舞い、煙幕のようにリーゼルの姿を隠した。
(これで体勢を...)
─────ッ
「ッ!?」
嘘だろ...?
また、晴れた...
今度こそ"氷棘"がくる。
だけど、俺はまだ体勢が立て直せてない。
コイツ、俺に考える暇を与えないつもりなんだ。
このままじゃ押し切られる...
...やるしかない。
「あぁぁぁぁ!!!」
リーゼルは雄叫びを上げ、残りの火の全てを両手に纏い、片方の手を地に着ける。
その間にもう片方の火は一点に纏まり、黄色、白と色を変えていた。
...ズザァァァァッ!!!!
と、次の瞬間。
氷の棘が津波のようにリーゼルに押し寄せる。
しかし、それはギリギリで展開されたベールによって遮られ、リーゼルの心臓には届かなかった。
それを見た精霊は一瞬たじろぎつつも、姿を暗まそうと吹雪を纏う。
...だが、もう間に合わない。
"少年"は既に、精霊の命に手をかけていた。
「スゥゥ...」
精霊の背後。
サファイアのように真っ青な炎が揺らめく。
それは静かに渦を巻き、その熱は降る雪々を蒸発させた。
〈...!?〉
精霊はそれに気付き、振り向きながら氷柱を周囲に生み出す。
そして振り向ききった時、少年の"眼"と目が合った。
ジュッ...
ドゴォォォォ!!!
一瞬の閃光。
それに振動と轟音が続く。
...そして、そこには"少年"だけが残った。
「ハァ...ハァ...」
疲れた。
もう動けない。
トレス達はどうなった?
流石に、勝ったよな...?
「あれっ...鼻血?」
...やっぱりか。
魔法の並列処理は脳への負荷が大きい。
俺の脳が悲鳴をあげてる。
...ん?
おかしい。
吹雪が晴れない。
まさか、まだ敵が居るのか...?
...ザッ
カァ────ン!!
その時。
二振りの剣がぶつかる音が周囲に響く。
俺は優しく誰かの腕に抱かれ、全身の力を抜いた。
「トレスさん...?」
「良くやった。あとは私に任せたまえ」
シュル...
すると、身体に植物が巻き付き、俺はヴィーシャのように"荷物"になった。
植物の中は案外暖かく、この吹雪の寒さを防ぐには十分な程だった。
それから気を失う直前。
"最後の敵"の姿が視界に入った。
豪盛な鎧を着込み、大振りの剣を携えた氷像。
"冬将軍"の姿が...




