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廻生のアリア  作者: jurabisu
第三章
104/107

第104話 8歳、白銀の山嶽 2

「...リーゼル。私から離れるな」


トレスはそう言い、"植物"で絡め取られた物資の中から一振の剣を取り出す。

それは簡素な直剣であり、よく見れば刀身が金属では無かった。


トレスはその剣を構え、吹雪の向こうをじっと見つめる。


相手の出方を見極めるつもりなのだろう。

俺はトレスに言われた通り、トレスから付かず離れずの位置で"その瞬間"を待つ。


─────ッ


『...!』


構えてから15秒。

突如風と音が止み、刹那の静寂が訪れる。

二人とも同時に感知したが、行動に移すまでの時間は遥かにトレスが勝っていた。


シッ────!


「!?」


敵の姿を視界に捉えようとしたその刹那、俺の視界に一筋の線が映る。


鋭く、そしてブレの無い、美しい線。


それは視界の端から端に移動し、俺の顔面を撫でた。


───ピキッ...


次の瞬間。

背後でガラスにヒビが入るような音が鳴る。

それと同時に、吹雪より遥かに冷たい冷気が俺の背に当たり広がった。


「───あ」


ふと我に返り、俺は顔を手で探る。

だが、顔は斬れていないどころか、切り傷ひとつ付いてなかった。


「...安心したまえ。君の顔は斬れてない」


なるほど、トレスの能力か。

俺の部分だけ剣を透過させ、その背後の敵を斬るとは...何とも器用なものだ。


しかし、一つ不可解な点がある。

俺の記憶が正しければ、トレス本人以外の物質は透過できない。


なら、なぜ剣が透過したのだろうか?

それが制約に伴う恩恵なら、とても気になるが───。


...シュッ!


「!?」


キシャッ────


突如、吹雪の向こうから"氷柱"が飛んでくる。

俺は咄嗟に剣を構え、飛んできた氷柱に剣身をあてがい軌道を逸らす。


「くっ...」


上手く逸らせたはずだが、それが頬を掠めただけで表情筋が凍てついた。


「リーゼル、君は触れない方がいい」

「たった今分かりました...あと、そういうのは先に言ってくださ───!?」

「あぁそれと、戦闘中は喋らない方がいいよ。舌を噛むからね」


ふぅ...危うく舌を噛むところだった。

この人、さっきから忠告が遅すぎる。


忠告って事前に言わなきゃ意味ないよな?


(...!)


シュッ!


またも氷柱が飛んでくる。

今度も顔目掛けてきており、ある程度予測できていたため回避は容易かった。


(油断も隙もないな...)


...というか、この吹雪がヤバい。

風と雪で視覚と聴覚が遮られるせいで敵の数、配置、その他情報がまともに入ってこない。

その上、寒さで触覚と"植物系統"の発動も鈍る。


こんな状況で攻撃の回避、更には反撃となると、とてもじゃないが無理がある。


(トレスは...)


俺は飛んでくる氷柱を躱しながら、横目でトレスを見る。


シュッ!シュシュッ!!


スゥ...


「...っ」


...シッ──────!


トレスはヴィーシャを庇いながら、少なくとも三体を相手していた。


襲い来る氷柱を透過で無効化し、ヴィーシャを狙うものは剣で打ち落とす。

そして、その攻撃の合間を縫うように剣を振るう。


それに苦戦している様子は一切なく、もはや余裕すら感じられた。


「...下!」


そんな時、突如トレスが何かを知らせた。

一瞬何事かと考えるが、それが警告であることに気付き、俺はとりあえずその場から距離をとる。


...ズバァァァン!!!


と、次の瞬間。

針のように尖った氷塊が積雪を押し退け、槍を突き出すが如く生える。


それもまた異様なほどの冷気を放っており、吹雪の中でもその冷たさが肌に伝わってきた。


「た、助かりました...」

「よそ見し過ぎだよ。私はいいから、まずは目の前の敵に集中しなさい」

「はい」


まったくトレスの言う通りだ。

集中しろ、俺。


リーゼルは吹雪の向こうを注視する。

ほとんど何も見えないほどの視界不良であったが、確実に敵の気配があった。


(...だがどうする?)


攻撃が肌を掠めただけでアレだ。

近接戦を仕掛けようものなら、先にこっちが凍死する。

そもそも近づけるかも分からない。


弓やボウガンの類はここには無いし、あったとしても心得がない。

投擲もまず無理だ。


となると、必然的に魔法や魔術になるが...


この"霊域"内では魔力操作を妨害される。

俺が主に使う"植物系統"じゃ尚更だ。


戦うなら別系統。

そうなると...魔術か。


少し苦手な分野だが致し方ない。


「"火属性(アーグ)"・"火球(グニス)"...」


リーゼルがそう唱えると、その周囲に塵が集まり発火する。

それは一つ二つと増えていき、やがて複数の火の玉がリーゼルを囲んだ。


(...よし。成功した)


火の玉のストックは15発。

これだけでも左腕の皮膚のほとんどが火傷した。

これ以上短縮詠唱で発動するのは多少リスクがある。


そして、この戦いは言わば前哨戦。

こんな所で力を使い過ぎれば、俺はただの足でまといになるだろう。


故に、この15発だけ...

これで敵の息の根を止めるッ!




...凍てつくような吹雪の中。

十五の火が、小さくも力強く燃えていた。

※魔術や魔法には向き不向きが存在する。

一般に、魔法が得意なら魔術が不得意であり、魔術が得意なら魔法が不得意になる。

不得意だからといってそれが使えない訳ではないが、得意な者に比べ様々な点で不利なため、どちらか一方を使うのが一般的である。


リーゼルの場合では、体質により魔術発動で本来使われる魔力量と使った魔力がつり合わず、不足分が皮膚から取り立てられている。

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