第102話 8歳、魔女たちの集会 4
「...早速だけど、まずは現状をみんなに共有しておく」
そう言うと、セレネは淡々と現状を語り始めた。
「約1ヶ月前、アルテがリーニャの繭化を確認した。場所はランズガル。予測される"魔女の死"は..."神化"。最後の観測結果から逆算して、猶予は8日」
「繭化して1ヶ月以上か...。死に際の必死の抵抗って感じだね」
「うん。どうやら、街全体が未知の領域で包まれてるみたい。...多分、"神臨"してる。」
"神臨"。
その言葉が意味するのは「上位者の顕現、又はそれに伴う災害」。
元はどっかの宗教の言葉だったらしいが、今では「抗いようのない絶対的な力」の例えとしての意味で使われることが多いと聞いた。
ここでは多分、前者の意味で使われている。
つまり、そこには上位者...いわゆる"神"とされる存在が関わっていると言うことだ。
「...最近、ランズガルからの物流の一切が途絶えたと聞いたけど...なるほど、そういうだったか」
「アタシが偵察に向かわせた奴らも帰ってきてねぇからなぁ...。住民は、まず生きてねぇだろう」
「住民の安全確保しなくていいのは気楽でいいね。...でも、情報が足りない」
「そうだ、セレネ。アルテは居ないのかな?こういうのは彼女に聞いた方が手っ取り早いと思うのだが...」
「それは───」
それの返答にセレネは言い淀む。
心做しか、その顔が曇って見えた。
「...いや、言わなくていい。...そうか、逝ってしまったのか」
セレネが小さく頷く。
その姿を見ていると、肩身が狭く感じる。
「...でも、最期に"種"を撒いてくれた」
「"種"?...あぁ、なるほど」
トレスの視線がリーゼルに向く。
それにつられ、皆の視線がリーゼルに集まった。
「道理で君からアルテの気配を感じるわけだ。...そうだ、リーゼル。君、禁書庫の権限はあるのかな?」
「権限?...無いと思います」
「ふむ。やはり、これ以上の情報は得られそうにないね」
「それじゃあ、作戦もクソもねぇじゃねぇか」
「あぁ。ほぼ確実に場当たり的な戦いになるね。...そこで、君はどう考えているのかな?アルテ」
トレスの視線がセレネに戻る。
皆もまた、セレネに視線を戻した。
「...私もほぼ同意見。でも、多少なら対策のしようがある」
「ほう、気になるね」
「状況から見て、今回の繭化は外部からの要因が大きい。それに明確な意思があるなら、幾らか推測のしようがある」
「なるほど。それで、その推測とやらは?」
「ちょっと長くなる」
そう言ってセレネは"推測"を話し始めた。
「近年の天使の増加。それに対処する為の魔女たちの世界各地への分散...。今回のがそれに連なるものだと仮定すると、敵はある程度孤立した魔女か処女、もしくは魔力量の多い人間を探していたと思われる。そこから考えられる目的は3つ。文明の後退、神臨の触媒、宣戦布告。いずれにせよ、私たちの勝利条件はリーニャに干渉することになる」
「この面子もそのため?」
「そ。私が経験豊富かつ突破力があると思った人を集めた。ホントはあと数人呼びたかったけど...各地で天使が増えてる以上、無理強いはできない」
「で?先生、作戦は?」
「...正面突破。敵は極力無視して、私の領域でリーニャを強制鎮静化させる。みんなには私が辿り着くまでの援護と、敵の陽動を頼みたい」
「...ヴィーシャ、旅支度は?」
「はい、既に完了しております」
「セレネ、いつ出向く」
「...今すぐ」
ガタッ
皆が一斉に席を立つ。
急なことだったので俺はすぐに立てず、ちょっと浮いてしまった。
「それぞれの役割は移動中に説明する。それじゃ、行動開始...!」
それの声を皮切りに、皆が各々の準備を始める。
だが、またも俺は動けなかった。
なぜ、皆はすぐに各自の行動を始められたのだろうか?
経験の差というのは細かい所にこそ現れると聞いた事がある。
もしそうなら、現時点で遅れている俺と皆には、どれだけの差があるのだろう。
このまま戦地に赴いて、足手纏いにならないという確証が得られれない。
"行動が遅れた"
そのただ一瞬。
それだけで、俺の心は焦燥に浸った。
「...おい」
「...」
「おい!新入り!!」
「あっ、はい!」
「なにボーッと突っ立ってんだ?」
「すいません。こういう集まりは初めてで...」
「じゃあ早く慣れな。ほら、行くぞ」
「はい...!」
───それから僅か三十分後。
俺たちはリーニャのいるランズガルに向けて、ハーウィアルを出立した。




