第101話 8歳、魔女たちの集会 3
ギギギ...
「2分37秒の遅刻...」
扉が開いて早々、見知らぬ人が俺たちを出迎える。
そこに居たのは、厚手のメイド服を着た鋭い目付きの女性。
茶髪の編み込みで、頭にシンプルなフリル付きのカチューシャを付けている。
手には金属製の機械を持っており、それはカチカチと音を立てていた。
「一領地の主として有るまじき行為です。トレス様」
「あぁ、すまないね」
「毎回謝るくらいなら、普段から時間を厳守してください...どうぞ」
「ありがとう」
メイドが引いた椅子にトレスが座る。
気付けば、残るはあと一席になっていた。
「おい、座らねぇのか?新入り」
「あっ、すみません」
俺は急いで空いていた席に座る。
そこは先に座っていたセレネの席の向かい側であった。
「ん、みんな揃ったね。それじゃ始めようか..."魔女たちの集会"」
席に着いている面々を見渡す。
セレネ、アネット、リビアにトレス。
それに俺と...知らない顔。
加えて、トレスの背後に佇むメイド服の女性。
部屋にいるのはこの7人だけ。
メイド服の女性と初対面の人以外は事前に知っているからか、こういう集まり特有の威圧感はない。
だが、妙な緊張感があった。
カチャッ
...と、部屋の雰囲気を感じていると、俺の前にティーカップが置かれる。
カップ置いたその手を辿ると、メイド服の女性がティーワゴンを引いて立っていた。
「どうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
メイド服の女性は軽く会釈し、すぐ定位置に戻る。
(...この人は大丈夫そうだな)
問題は、もう一人の初顔...
セレネの隣の席。
そこに、この部屋で初めて見た知らない人が座っていた。
床につく程の長髪。
それに絡まる貝殻や海藻。
時折髪の隙間から見える首輪と鎖...
もう、見た目からヤバいって伝わってくる。
容姿で「私、魔女です」って自己紹介してるレベルだ。
だが一方で、魔女特有(経験則)の膨大な魔力やそれを抑える際に生じる魔力の揺らぎをまったく感じない。
容姿よりそっちにリソースを割いてどうすんだってツッコミたくなるが...。
一つ言えることは、この人が相当な実力者であるということ。
トレスも相当な猛者だと思うが、この人はそれ以上の猛者...怪物だ。
「...早速だけど、半月前、リーニャが繭化したのを...」
「セレネ様、少し宜しいでしょうか?」
「ん、何?」
「私の紹介が済んでおりませんでしたので、この場をお借りしたいと思った次第です」
「そっか。初対面の人も多いね。じゃあやろうか、自己紹介」
メイド服の人、ナイスだ!
「...では私から。皆様、お初にお目にかかります。トレス様の専属使用人、ヴィーシャと申します。以後お見知り置きを」
「じゃあ次は私かな?...私はトレス。トレスティ・ゾルトジール。ゾルトジール家6代目当主で、今は13代目の補佐をしている。皆、仲良くしてくれたら幸いだ」
「...おっ、アタシの番か?アタシはリビア・アパラント。へローム地方で砂賊の船長をやってる。本来真名はねぇんだが、こっちでは形式上リヴリアルって名乗ってんだ。ま、今後ともよろしくな」
「...同じくアネット。みんなよろしく」
それまでトレスの席から順に来ていた流れ。
それが、リビアの隣にいた俺を待たずアネットが自己紹介?をした為に俺は戸惑った。
...と言うか、なんで間を空けて座ってんだ?
一応各組織で分かれてる感じだし、纏まってほしかった。
あの人は...待ってるっぽいな。
なら、先に済ましてもいいだろう。
「では次は僕が...。皆様、お初にお目にかかります。僕はリーゼレンス・セーレンベル、略名をリーゼルと申します。僕はお母様を...リーニャを助けるため、ここに来ました。僕はお母様の事をよく知りません。だけど、お母様の家族として、息子として役目を果たしたいんです!そのために、どうか皆様の力を貸してください...。お願いします...」
俺は深くお辞儀をする。
これで俺の気持ちが伝わったかは分からないけど、誠意は伝わっていてほしいと願う。
...ピチャッ
「...?」
俺の両手に冷たい何かが優しく触れる。
...スライムのように纏まった水。
それは机を這うように伸びて来ており、その元には長髪の人が座っていた。
「ーー・ー・ー」
この言語は...※ハタッガ語か?
名乗ってるみたいだけど、発音がネイティブすぎて聞き取れない。
「...私が翻訳する。この人はフォールネ語が喋れない」
そうして名乗り出たのはセレネだった。
セレネは長髪の人に耳を傾け、その言葉を丁寧に翻訳していった。
「ーー・ー・ー」
「私の名はルペドナ」
「ー・ーーーー・・ーー・ーー」
「君の想いは伝わった」
「・ーーー・ーーー・>ー・・ーー・ー・」
「我が同志のため。何より君のために」
「ーー・ー・ーーー」
「私は力を貸そう。...だって」
「...ありがとうございます」
「君はもう私たちの仲間。仲間の願いなら、皆その力を以て応えてくれる」
俺はみんなの顔を見る。
それぞれ表情は違えど、冷たい空気は一切感じなかった。
「...それじゃ改めて始めようか。"魔女たちの集会"を...」
※フォルスティア大陸近海にあるドール諸島を中心に話されている言語。独特なイントネーションが特徴で、文の作りも他とは大きく異なるため、習得が難しい。




