第10話 4歳、王都レドラム道中 2
「はぁー...」
俺は口元に手を近づけ息を吐く。
吐いた息は、霧のように白い。
村を出発してから7日...
周囲の景色は冬の農村から一変し、鬱蒼と木々が生い茂る針葉樹林が広がっている。
この7日間、雪が止むことが無かったからか、木々の隙間から降った雪が道に厚く積もっている。
(暇だ...)
馬車の中じゃ狭すぎて筋トレができないから、ろくな暇潰しができない。
かと言って、この寒さの中馬車から出たくはない。
なんかいい暇潰しはないものか...
...そういえば、聖夜祭ってどんな祭りなんだ?
聞いてなかったな...
ちょうどいいし、リーニャに聞いてみるか。
「...お母さま」
「ん?どうかした?」
「聖夜祭ってどういうお祭りなんですか?」
「そうね...一言で言ったら、建国記念日を祝うお祭りかしら?」
「建国記念?」
「そう。私もあまり詳しくはないけど...」
そう言うと、リーニャは聖夜祭の始まりについて話し始めた。
これは、今から2600年くらい昔のお話...
ヒシャリア王国(現フォーノード王国)という国の小さな村に、一人の青年が住んでいました。
その青年の名は、レドラム。
彼は誰にでも優しく人当たりが良いため、村のみんなから好かれていました。
そんな彼には、ある信条がありました。
それは、"自らを知り、他人に尽くせ"というもの。
昔から体の大きかったレドラムは、自分の大きな体は人々を守るためにあると考え、村を守るため尽力しました。
時には獣の群れから、時にはヌシから、時には山賊たちから村を...人々を守りました。
その功績はいつしか都にも伝わり、レドラムは王国の騎士団にスカウトされました。
もっと沢山の人々を守りたいと考えていたレドラムは、都に行き、騎士団に入団しました。
田舎から上京してきたレドラムは、初めこそ慣れない環境に困惑しましたが、その人柄からすぐに街に馴染むことができました。
レドラムは幸せでした。
人々の笑顔が見られることが...
人々を守れていることが...
人々が幸せなことが...
しかし、ある時レドラムの元に一人の少女が転がり込みます。
その少女の名はキャシィ。
奴隷として貴族に売られ、染められた少女でした。
レドラムは彼女を匿いましたが、間もなくして少女は病により命を落とします。
レドラムは、自分の腕の中で息を引き取った少女を眺めて、自身の不甲斐なさを呪いました。
また、今まで守ってきたものへの不信感も芽生えました。
レドラムはそこで人の闇を知りました。
守ったことによって尊い命が消えてゆく...
真に守るべきものとは一体何なのだろうか?
レドラムは考えました。
どうすれば真に守るべきものを守れるのか?
レドラムは考えに考え...
そして、一つの結論に至りました。
この国を...世界を変えればよい、と...
そう考えたレドラムは、すぐに行動を起こしました。
(ヒシャリア王国は独裁国家では無かったが、貧民の扱いが酷く奴隷が多く流通していた)
人望のあったレドラムは、仕事の合間に自分の考えに賛同してくれる協力者を募り少しずつ、でも確実に味方を増やしました。
その甲斐あって、一介の国民から同僚の騎士、名のある貴族など様々な人々が味方となりました。
それからたったの2ヶ月ほどで、レドラム率いる反乱軍は全国民の半分を占めるほどに大きくなりました。
そしてある冬の夜...
レドラム達は動き出します。
その日は、王城にて他国の王族や貴族が集まった大きなパーティーが行われていました。
レドラムや仲間の騎士、協力者の貴族はそのパーティーに潜り込み、王族や貴族を一網打尽にできる時を待ちます。
その他の反乱軍は城の外に逃げた"敵"を始末すために待機しました。
張り詰めた空気の中、パーティーの幕が開けます。
レドラムは鞘から剣を抜き、客の間を掻き分け、奥の扉から出てきた男の心臓に剣を突き刺しました。
その男は、その国の王様でした。
それを合図に潜り込んでいた他の仲間も動き出し、"対象"の人物に剣を振り下ろします。
会場には血が舞い、悲鳴が響き渡りました。
混乱した会場では人々は自分の命を守るのに必死で、人間の醜さをレドラムは実感しました。
その中で逃げた者達も、街にて待機していた反乱軍によって殺害されました。
そして悲鳴が静まった時、レドラムは舞い降りる雪と光り輝く満月の下でこう言い放ちました。
「ここに、ヒシャリア王国の滅亡と新たなる国家の誕生を宣言する!」
「...それからこの国が建国されて、その宣言の日が聖夜祭になったの」
建国の宣言が夜だったから聖夜祭なのか...
それにしても、国が変わるとは...
しかも、それから2600年以上も国が有り続けているのも驚きだ。
国の歴史って案外面白いものだな。
「あ、そうそう...聖夜祭の最後にはねぇ、街のみんなでおっきなケーキを切り分けて食べるのよ?」
リーニャの話が終わった頃、隙間からさし込んでいた光は無くなり、外には闇に雪が舞うだけだった。




