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廻生のアリア  作者: jurabisu
第一章
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第1話 日常の一コマ

今日もまた、新しい一日が始まる。

カーテンの隙間から、日の光が、俺の顔に落ちる。


(鬱陶しい。もう俺を照らすな。太陽まで俺を嘲笑うのか?)


自分の頭を掻きむしり、うずくまる。

最近はずっとこの調子だ。


最後に家を出たのはいつだったか。

それはもう、大昔のことのように感じる。


最近は、自分の存在にすら疑問を抱くようになっている。

何故、俺はまだ生きているのか?

あの時、あれだけ"消える事"を望んだのに...


日が落ちて沈む度、その疑問は大きくなっていく。


だが、どんなに首に縄をかけようとも、どれだけ橋の手すりに股がろうとも、次の一瞬は訪れなかった。


「はぁ...」


部屋に居ると気分が悪い。

梅雨だからだろうか?


ガチッ、ガラガラ...


俺は換気をするため、窓を開ける。


ヒュー...


部屋の中を涼しく湿っぽい風が駆ける。

...だが、部屋の空気は変わらない。


いや、部屋の空気は変わっている。

変わってないのは、俺の気分だけだな...


タッ…


俺は窓枠に肘をつき、外を眺める。

よくある日本の住宅街...

家が面している道路には様々な人が歩いている。


小学生と中学生、そして高校生。

何の変哲もない日々の光景だ。


「おい、昨日の試合ヤバかったな」

「うん。敵めっちゃ集まってた」

「でもめっちゃ惜しかったよね」

「俺あの時...」


小5くらいの4人のグループが、二階にいる俺にも聞き取れる声で、ゲームの話で盛り上がっている。

昨日の夜にでも、ゲームで集まったのかな?

その子らの会話を聞いていると、昔の自分を思い出す。


まだ、日常が日常だった頃の淡い思い出...

あまり思い出せないが、その頃の日常の断片の全てが今の俺の日常よりも濃ゆく色付いている。


まぁ、今の日常が薄いだけかもしれないが...


『...』


小学生の後ろに視線を移すと、中学生の男女が足並みを揃えて歩いている。

しかし、その二人の口元は動いていないようだ。


なんだか初々しい雰囲気が漂っている。

おそらく、彼氏彼女の関係なのだろう。

それも出来たばかりの。


視線が合うと、互いに目を逸らし再度沈黙が訪れる...

見ていると、こっちまで恥ずかしくなってくる。


俺の中学時代には華なんて無かった。

だが、それでも良かった。

一緒に中学に上がった友達とじゃれあったり、ゲームで遊ぶ毎日はどんな華よりも思い出に残るだろう。


でも、"あの日"俺の全てが変わってしまった。

環境も、思考も、価値観も全て...


まぁ、今更後悔しても遅いか...

あれはどっちに転ぼうが、結果は変わらなかった...多分...。

ああなったのは、きっと必然だ。


「はぁ...」


昔を思い出していると、更に気が重くなってくる。

俺はカーテンを閉め、ベッドから降りる。


ガチャッ


扉を開け、俺は廊下に出る。


俺の部屋の向かいにはもう一つ部屋がある。

その部屋の扉は少し開いている。

中を覗くが誰も居ない。


その向かいの部屋は俺の母さんの部屋だ。

きっと、母さんはもう起きているのだろう。


俺は母さんと二人暮らしだが、母さんはいつも俺より起きるのが早い。


俺もそれなりに早く起きているつもりなのだが...


タッタッタッ...


階段を降り、リビングへの扉に手をかける。


「...あっ、朝ご飯まだだから、ちょっと待ってね〜」

「うん、わかった」


返事をすると、扉から手を離し洗面所へ向かう。


ジャー...


バシャッ、バシャッ


...キュッ


俺は顔を洗い鏡を見る。

そこには、嫌になるほど見た自分の顔が写っていた。


見ていると、こんな自分に苛立ちを覚える。


何も出来ない自分

馴染めなかった自分

何より、何もせず逃げ出した自分に...


「はぁ...」


本日3度目のため息。

疲れからでは無い...

自分への失望からのため息。


何度タオルで顔を拭こうとも、大嫌いな俺は拭えない。


顔を洗い終え、再びリビングへの扉に手をかける。

今度は何も言われない。


ガチャッ


扉を開けると目の前にダイニングテーブルがあり、朝ご飯が並んでいた。

母さんも椅子に座っていた。


「さぁ、座って。早くしないとご飯が冷めちゃうわ」


母さんが急かすので、俺はすぐに席に着く。


『いただきます』


俺と母さんは声を出す。

ご飯と味噌汁、それと焼き鮭。

朝ご飯は質素なものだが、とても温かかった。




ピーンポーン...


食べ始めて少し経った頃、ベルが鳴った。


「は〜い」


母さんは返事をすると、玄関に向かう。


俺は何か買った覚えはない。

かと言って、母さんは通販を全く利用しない。

ベルを鳴らした人が気になるが、俺は味噌汁を啜る。


ドン!


ダッダッダッ


何か大きな音がしたと思ったら、誰かが階段を駆け上がる音がする。

胸騒ぎがした。

嫌な予感がした。


俺は椀を置き、廊下への扉に手をかける。


ガチャッ


「...えっ」


玄関に着くと俺は自分の目を疑った。


玄関先に立つ覆面と、床に倒れ血を流す母親。

こんな光景、もう二度と見ることは無いだろう。


「母さん!」

「チッ、まだ居たのかよ」


シャッ


覆面はナイフを取り出し、俺の方に走ってくる。

怖かったが、俺は覆面に体当たりをする。


ドスッ


「ッ!...」


俺は覆面に覆い被さるように倒れる。

その拍子に腕にナイフが刺さったようだが、痛みは感じなかった。


「うぁぁぁぁ!」


ダッ、ダッ、ダッ...


俺は声を上げながら、必死に"それ"を殴った。

痛かった。

殴る度に拳が歯に当たり、殴り終わる頃には手がボロボロだった。


もう覆面から呼吸音は聞こえない。

覆面のせいでよく分からないが、おそらく顔面が変形している。


「ハハッ...」


何故だろう。

人の息の根を止めたというのに、口角が上がっている。


「おい、翔!どうした!?」


ダッダッダッ


階段を下る音が聞こえる。

どうやら、さっきの覆面の仲間のようだ。

だが、俺には聞こえない。


「!?...クソが!」


俺は目の前の死体をジッと見つめる。

俺は怖かった。


だがそれは、襲ってきた覆面でも自分が人を殺めてしまったことでもない。

人を殺めて、何かがスッキリした自分にだった。


...チャッ


「うッ...」


突然、俺の催眠が解けたように心臓に激痛がはしる。

とても痛かった。

でも、後悔よりも軽かった。


「クソッ!行くぞ!」


俺は覆面に体をどかされ、玄関に倒れる。

どかされた拍子に腕に痛みがはしる。


覆面は息をしていない覆面を引っ張り、玄関の外に出ていった。


う〜...う〜...


どこからかサイレンの音が聞こえる。

近所の人が呼んだのだろう。


「ゴホッ...ゴホッ...」


俺は玄関に赤い水溜まりをつくる。

体が寒い。

鼓動が聞こえる度に、痛みが増していく。


俺は悟った。

自身の死が近いことを。

もう助からないことを。


「痛っ...あれっ、私...」


母さんの声が聞こえる。

どうやら、命に別状はないようだ。


良かった


その時、心の底からそう思えた。

そう思うと、自然と怖さはなくなっていた。


「...!?、---!大丈夫!?」


母さんが倒れている俺に気付く。

母さんは俺に近づき、慌てている。


「どうしよう...こんな時、あれっ?えっと...」


完全にパニックになっていた。

よく見れば、腹部から出血している。


「...母...さん」

「!...あっ、あぁ...」


俺は力を振り絞り、母さんに語りかける。

母さんは動きを止め、俺の手を握る。


「ごめんね...ごめんね...」


なんで母さんが謝るんだ?

謝るべきなのは俺なのに...

人生の最後に母さんの泣く姿なんて見たくなかった。

母さんには、ずっと笑っていてほしい。


俺は母さんの手を握り返す。


「...!」


声は出せないけど、最後くらい「ありがとう」って伝えたい。


俺は口角を上げ、穏やかに笑って見せた。


母さんは微笑んでいた。

その目に涙を浮かべながら...








「ここは...何処だ?」


気付けば俺は"そこ"にいた。


真っ白いような真っ黒いような。

上のような下のような。

触れているような触れていないような。


それは、今まで感じたことの無い、未知の感覚たちだった。


体は動かない。

いや、初めからなかったのかもしれない。


自分の状況を、"そこ"が何なのかを、俺には到底理解できなかった。


「---------...」


少しすると、どこからか歌が聞こえてきた。

とてもきれいな女声の"アリア"の様だ。


だが、なんと言っているのかは聞き取れなかった。

少なくとも、日本語ではない。

それだけはわかった。


だが、自然と意味は分かる。




地に墜ちた鳥よ


その夢は何処か


三千の道の元に


残し来たは 光か闇か


廻り廻る記憶の中で


見出すはこの世の 終わりか始まりか


空に舞う獣よ


その夢は現実か


三千の道の先で


辿り着くは 希望か絶望か


廻り廻る命の中で


見つけるはこの世の 虚偽(ウソ)真理(ホント)




その歌はだんだんと激しく、高音になっていく。


最後には上がりきった声を伸ばし切った後、始めの穏やかな女声でフィニッシュを迎えた。


俺はその後、意識を無くした。

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