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直談判

 お待たせしました。キリが悪くて、少し長くなりました。

 デイネルス侯爵家より、正式な謁見願いが出されたのは、第三王子レイモンド・デルスパニア殿下の死去が正式に公表されてから一年後のことだった。

 

 侯爵家からの出席者は、わずか三名。現デイネルス侯爵夫妻とリアーチェ・デイネルス侯爵令嬢のみ。

 同行を遠慮した者がいたわけではない。正真正銘、これで家門全員だった。


 謁見の間には、全ての公爵家と侯爵家の当主が招集されている。それは取りも直さず、全ての閣僚が揃っていることを意味していた。

 玉座には国王陛下。王妃殿下は既に亡く、側妃の席は元から埋まっていない。

 二人の王子はそれぞれ妃を伴っているが、どちらもまだ子宝に恵まれておらず、現在の王室は総勢五名だった。


 他国なら国家の存続が危ぶまれる事態だが、デルスパニア王国では問題にならない。この場の全員に王位継承権が存在する。王家が絶えることは無い。

 二千年に及ぶ歴史の中で婚姻を繰り返してきた結果、全ての家が親戚で王家の傍流なのだ。


「伝統とは厄介なものですわね。このような事態になるまで、思い切った手を打てなかったのですから」

 形式的な挨拶を交わした後。デイネルス侯爵令嬢が嫣然と微笑み、国王陛下は苦虫を盛大に噛み潰した。




「そもそも行き過ぎた血統主義により血が濃くなり過ぎたのは、三代前には分かっていたはずですわ。なかなか子供が産まれない。ようやく生まれても病弱で育たない。今、直系のお子様がいらっしゃる公爵家は三家だけ。残りの十一家は、このままでは養子を取るしかない。そうですわね」


 現然たる事実に、誰も反論できない。


「わたくし、婚約者を()()()亡くしてから一年間、喪に服してまいりました。その間に、私と年が釣り合い婿に来ていただける殿方は、他家に養子に入り後継者になっていらっしゃいますわ。まさか婚約者のいらっしゃる方にお声がけなどできませんし、既婚者に離縁を迫るなど(もっ)ての外。ですわよね」


 リアーチェ嬢の視線が、幾つかの侯爵家当主へと流れた。

 どの顔も気まずそうにはしているが、目を逸らしたりはしない。跡取り問題はどの家も切実。自家を第一に考えるのは当然なのだから。

 言い方は悪いが、早い者勝ちなのだ。


「わたくしは女です。出産可能年齢というものがございます。至急、婚姻を結ばねばなりません。そうですわね」


 これにも反論はなし。


「そもそも公爵家十四家、侯爵家百二十七家だけで今まで血統維持できたことが奇跡ですわ。来訪者のない隔絶した僻地の村と同じだと、自覚はおありでしょうか。このままだと滅びますわよ」


「分かっておるわ」


 国王陛下が重い口を開いた。


「確かに三代前、新しい血を用意しようと、筆頭伯爵家のバルトコル家へデアモント公爵家の三男を婿に出した。その子息には王弟姫を嫁がせておる。その血筋をテムニー侯爵家の後継者に出来たのだ。だが……」


「成功例はそのお一方(ひとかた)だけ。バルトコル伯爵家は後継者が絶え、消滅の危機を迎えております。顛末(てんまつ)を知る家は、高位貴族の降嫁や婿入りに拒絶反応を示しておりますわよ。虚弱体質を家に持ち込まれた挙句、跡取りを取り上げられるとね」


「いや、絶えてはおらぬはずだが。分家の出の婿が、第三夫人を娶ってもうけた令嬢がいたはず。伯爵家は安泰であろう」


「情報が古いですわ。既に子爵家へ嫁いでおりますわよ。それも跡取りに。これ以上王家の横槍を入れない方が宜しいでしょう。それに」


 リアーチェ嬢が一歩前に出た。


「今から新しい血筋を用意していては、わたくしの婚姻には間に合いませんわ。デイネルス侯爵家を潰さないためには、格下の家から婿を取る。それしかないとお認め頂けますわね」


 バルトコル伯爵家とテムニー侯爵家の縁組さえ、例外中の例外。王弟姫の降嫁あってこそである。

 それ以外に格下の家から侯爵家以上へ迎え入れた前例は皆無だ。

 高位貴族家を担保する血統。それを自ら否定する行為に、軽々しく賛同できる筈もない。


 しかし。


「いたし方あるまい。タムスカル・デイネルス侯爵。其方も承知と考えてよいのだな」

「はい、陛下。元はと言えば、王家との婚姻が叶わなくなったことこそきっかけにございますれば、なにとぞご温情をもってお許しいただきとうございます」


 国王が一つ息をついた。


「分かった。特例を認めよう。他に代案を示せぬ以上、受け入れぬわけにはいかぬ。異議のある者は、この場にて申し出よ。なければ、了承したと見なす」


 参列する全員が、最敬礼を取った。

 見事にそろったその挙動は、訓練された騎士を思わせた。




 王宮内に用意されたデイネルス侯爵家の控室。お茶とお菓子で一服しているその場には、何故か国王陛下が同席していた。


「いやあ、これで一段落だな。後から文句を言う奴はおるまいよ」

「ありがとうございます。これで根回しは完了ですわ」


 ニコニコと笑顔を交わす陛下と娘に、デイネルス侯爵夫妻はしょうがないと顔を見合わせた。


「それで、婿の当てはあるのか。どこの伯爵家だ」

「いいえ。伯爵家ではありませんわ。子爵家次男エザール・ランドール。レイモンド殿下の側近を務めた者にございます」 

「それは、また」


 まずありえない身分差に、国王が目を見張った。


「誠実な方ですの。文官として王城に出仕する将来を棒に振ったのに、見返りを求めませんでしたのよ。我が家へ誘いましたけど、辞退されましたわ。影武者のテイラムの件も、墓まで持って行く覚悟ですわ」


 亡き第三王子関連の重要度の低い情報としてあげられた報告を思い出しながら、なるほどあの男かと思い当たる。


「陛下に御許可いただいたのは、格下の家ですわ。伯爵家に限定しておりません」


 国王は、ポンと自分の額を叩いた。

「これはやられたな。リアーチェ嬢の言う通り。まあ、その点で文句を言う輩は余が抑えよう。無事に子爵令息を婿にできるか、お手並み拝見としようか」


「はい。わたくしの次代は、充分薄い血になりますわ。どこの家も競って縁を結ぼうとするでしょう」

「それは是非、王家に願いたいものだ。将来エザール卿の血を引く王女や王子が産まれれば、百年は安泰よ」


 そう言って、呵々大笑したのだった。










 次話でエピローグです。この時点でエザール君は何も知りません(笑)


 完結している正月特番の中編「公爵令嬢と王太子殿下と聖女様 見守る私は侍女でございます」の評価。

 ブックマーク100件、評価ポイント600Pt、総合評価800ptでした。トリプルキリ番! こんな偶然、有るんですねぇ。


 お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。


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