選ばれた理由
寒くなってきました。季節の変わり目、体調にお気を付けて。
「なぜあの者なのですか」
リアーチェ・デイネルス侯爵令嬢に食って掛かるのは、伯爵家出身の学生たち。
「王族方の側近の地位が、高位貴族のものなのは当然でしょう。我らとて分不相応な高望みは致しません。しかし、第三王子殿下は例外だと、デイネルス侯爵家へ婿入りされる方だと仰るなら、我々にお話あってしかるべきでは」
「そうです。ランドール家は子爵、下位貴族ではありませんか。それも嫡男ではない。将来は家を出て準貴族になる男でしかない。何故彼が選ばれるのです」
十人近くの男子学生に囲まれても、リアーチェに焦りは見えなかった。
ここは校舎と学生寮の間にある公共の広場。中位貴族が高位貴族である侯爵令嬢にあからさまに逆らうには、人目が有り過ぎる。
身分にこだわる彼らなら、なおさら無体な手出しはできないだろう。
「あら、皆様、レイモンド様のノート係に立候補していただけますの。でも、宜しいのかしら。レイモンド様のお取りになられた授業全てに出席されていては、ご自身の学業に影響が出てしまわれますわよ。特に上級生の方は、今から一学年の授業を受け直しても重複するだけで無意味では」
ぐっと言葉に詰まったのは、二年生と三年生。
学園には、退学はあっても留年はない。将来の進路に合わせて好きな授業を選択できるが、上級生向けの科目を一つも取らなければ、卒業に必要な単位が不足してしまう。
学園を卒業不可となれば、貴族としての将来は閉ざされる。第三王子殿下の側近になる以前の問題だ。
「それに、皆様のうち、どなたかが選ばれたとしたら。残りの方は納得して引き下がれるのかしら」
ザワリと、動揺が走った。
「伯爵家の者がレイモンド様の側近候補に成ったら、周囲から頭一つ抜け出せますわ。正式に側近となれば、将来、我が侯爵家で大きな影響力を振るうことになるでしょう。皆様の中のただ一人だけが、ですわ。それを指を咥えて見ていられますの」
デイネルス侯爵家の寄り子、そして従属爵位。ほとんど横並びと言って良い伯爵家に、明らかな序列ができる。
今までの同輩の風下に立つことを、許容できるのか。
リアーチェが提示した問いは、彼らの連携に深刻な亀裂を入れた。
「侯爵家としては、家門に波風を立てたくありませんのよ。その点、下位貴族の子爵家の者なら、そう大きな影響力には成りませんわ」
自分たちの誰かが抜け駆けするよりはマシかもしれない。しかし、自分たちが選ばれないのは、やはり……。
「ランドール子爵家は、我が侯爵家の寄り子ではありませんわ。完全な外様。それに、あくまでも側近候補でしてよ。学園内のノート係ですわ」
そうか。側近にするつもりは無いのか。
「なぜ彼を選んだか、でしたわね。エザール卿はAクラス、レイモンド様のクラスメイトで、同じカリキュラムを無理なく組んでいただけましたの。それに、彼は優秀でしてよ。学年トップクラスの学力はノート係として魅力的ですわ」
しょせん下級貴族、学園内で使い潰しても惜しくはないか。
彼らは気付かなかった。
自分たちが思考誘導されていることに。リアーチェが、エザール卿の将来について一言も断言しなかったことに。
「よろしく頼むよ。期待している」
第三王子殿下に直接お言葉を頂いたら、断ることなどできるはずがない。
「畏まりました」
エザール・ランドール子爵家令息は、内心を顔に出すことなく、深く頭を下げた。
リアーチェ嬢、女傑の片鱗を見せています。侯爵家の跡継ぎですからね、これくらいはできないと(笑)
ちなみにエザール君にお言葉を掛けたのは、テイラム君です。
明日はマーク君のお話を更新したいです。
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