初めての会話
シリーズの中で、この話だけの設定変更です。
伯爵を高位貴族から中位貴族に。子爵と男爵を中位貴族から下位貴族に。準男爵と騎士爵を下位貴族から準貴族に。それぞれランクダウンしました。
王立中央高等学園。デルスパニア王国の最高学府で、全ての貴族の子弟が十五歳から三年間通うことを義務付けられている場所だ。
成績優秀者が集まるAクラスは、ほぼ王族と高位貴族の少人数でスタートする。一人の子弟に複数の家庭教師が個別指導する教育環境で育つのだ。それくらいのアドバンテージは当然だろう。
学期が進むにつれ、成績によりクラスの再編が行われる。公爵家と侯爵家の嫡子は意地でもAクラスから落ちるわけにはいかない。
跡取り娘であるリアーチェ・デイネルス侯爵令嬢はしっかりAクラスをキープしていたが、クラスメイトの顔ぶれはかなり入れ替わっていた。
高位貴族でも、二男、二女以下の子弟は無理に成績を維持する必要は無い。
むしろ将来の進路を考えて、中位貴族の伯爵家、あるいは下位貴族の子爵家や男爵家との人脈づくりのために、Bクラス以下に移っていく。
逆に王城への出仕を志望する中位貴族や下位貴族は、少しでも採用に有利になるよう、Aクラスを目指す。
ランドール子爵家二男、エザール・ランドールもその一人だった。
「お話、宜しいかしら」
リアーチェが教室の真ん中で声を掛けた時、エザール卿は自分の席で前の授業のノートを見返しているところだった。
「はい、え、僕ですか」
相手が高位貴族の令嬢だと認識して、軽く驚きと戸惑いを見せた。
その素直な反応が好ましい。腹の探り合いをしなくて済むのは心地よいのだ。
「ええ、エザール卿。折り入ってお願いがありますの。貴方、レイモンド様の側近候補に成っていただけないかしら」
声の無いどよめきが起きた。衆人環視の中、リアーチェは続ける。
「レイモンド様がご病弱なのは、貴方もご存じでしょう。共通の授業ならわたくしのノートをお見せできますけれど、男子のみの授業ではそうは行きませんもの。ノート係をお願いしたいわ」
「なぜ、でしょうか」
「なぜ、とは」
言外の意味をぶつけ合って見合うことしばし。
余裕ある笑顔を崩さないリアーチェに、エザール・ランドールは眉をしかめた。
「僕は子爵家次男。下位貴族です。将来は家を出て準男爵として身を立てる予定です。一代限りの準貴族が確定している僕に、第三王子殿下の側近候補は身に余ります」
「そう難しく考えなくても宜しいわ。あくまで候補ですもの。学園内のノート係が欲しいだけよ。それにレイモンド様は、我がデイネルス侯爵家へ婿に入っていただく方。王家に残る兄殿下たちとは違いますわよ」
「でしたら、このクラスの伯爵家の方に依頼してはいかがですか。『ノート係が欲しいだけ』なのでしょう」
先程とは違う意味でどよめきが起きた。複数いる伯爵家の学生の目の色が変わる。
「まぁ、ホホホ、わたくしとこれだけ言い合える方は貴重ですわ。お返事は急ぎませんの。考えておいてくださいね」
あっさり引き下がったリアーチェの後姿を見ながら、エザール・ランドールは本格的に顔をしかめた。
「おい、ランドール」
高圧的に声を掛けて来たのは、確か武門の家柄の伯爵家の長男。生意気だと、辞退しろと因縁を付けられるかと身構えたのだが。
「デイネルス侯爵令嬢のご依頼を即答しないとは何事か。殿下の側近候補など、名誉なことでは無いか」
因縁は因縁でも、方向性が違っていた。
これが、エザール卿と後のルシアン伯爵家当主との友誼の切っ掛けである。
ちなみに、伯爵の年の離れた弟レナード・ルシアンと、エザール卿の甥マーク・ランドールは、まだ生まれていない。
おかしい。エザール卿が伯爵の子弟に絡まれているところを、リアーチェ嬢が華麗に論破するはずだったのに。
最後に出て来た脳筋君、レナード君の年の離れたお兄さんにしてみました。イメージはそっくりです(笑)
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