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側近を探せ

 始まりました、テイラム君の影武者生活。

 デルスパニア王国の主要街道の一つ、北街道。

 王都デルーアの北城門から延びるそれを乗合馬車に揺られて一時間、自然保護区に指定された森林公園の入り口に最初の停留所がある。

 そこから公園の中へ徒歩十分、王立中央高等学園、通称貴族学園の正門に到着する。


 王都の隣という好立地ではあるが、外部から通学するには微妙に遠い。

 王族から平民まで、全員が学生寮で共同生活する理由が、この物理的距離だった。




「まあ、リアーチェ様、本日も殿下のお供ですの。たまにはお食事をご一緒しませんこと」

「そうですわ。女子寮のお部屋も、いつもお留守ですもの。せっかく同じ寮になりましたたのに、お話する機会が無くて残念ですわ」

 

 淑女コースの授業の終わりに、伯爵令嬢が二人、声を掛けてきた。


 リアーチェ・デイネルスは侯爵令嬢。それも跡取り娘。生まれた時から、第三王子の婿入りが決まっている。是非とも縁を繋いでおきたい美味しい相手だ。

 せっかく同年代の娘が家に居るのだから、伯爵家としては縁故を得る努力は当然のこと。中には家運を掛ける勢いの家もある。


「ありがとう。お誘いは嬉しいけれど、レイモンド様とお約束がありますの。来週のお茶会の授業では、同席をお願いできるかしら。それで許して下さる?」

 侯爵邸に招待する社交としての茶会とはわけが違う。授業のお茶会なら、同席したところで大したことはない。


 それでも令嬢二人の表情は明るくなった。


「勿論ですわ。来週を楽しみにさせていただきますわ」

「わたくしも。楽しみですわ」


「では、わたくしはこれで。御機嫌よう」

 淑女の微笑を浮かべて教室を出ると、そこには一人の青年が立っていた。


 明るい金髪、やや紫がかった青い瞳。さりげなく王家の紋章が刺繍された学園の制服。

 授業を終えた女学生たちの、うっとりとした視線を集めている。


「まあ殿下、迎えに来て下さいましたの」

「ああ、待ちきれなくてね。さあ、行こうか」


 すっと差し出された手を取って、リアーチェは笑みを深くした。誰が見ても、お似合いの二人だった。




 学園正門で待機していた馬車は、王家の紋章が付いていた。馭者と警護の騎馬は、近衛騎士が務める。どちらも、王族だけに許された特権だ。

 婚約者と言えど、未婚の男女が馬車で二人きりは許されず、近衛騎士の一人が同乗してきた。


「はあぁぁぁ、つっかれたぁ。背中、痛いですよぉ」

 扉が閉まった途端、青年の姿勢が崩れた。豪華な内装の背もたれに、だらしなく体重を預ける。


「お疲れ様、テイラム。でも、今日は武術の授業だったのでしょう。見学してただけで、そんなに疲れるの」

 リアーチェの声も気安い。


「だからですよぉ。じっと座ってるだけなのに、姿勢崩せないんですよ。気は抜けないし、真面目に授業受けて体動かしてた方が楽ですって」


 同乗している近衛騎士のゼルム卿が、笑顔で口を挟んだ。

「仕方ないだろう。人間、顔より歩く姿勢や立ち居振る舞いで相手を判別するものだ。背格好はほぼ同じなのだから、やり易いはずだが」


「えーっ、こちとら平民なんですけどー。そんな皆さんみたいに、背筋伸ばしっぱなしなんて無理ですよ。ダンスしてるような姿勢、四六時中意識してなきゃ保てませんよ。いっそ武術で剣技取ったら、剣士の姿勢になれるかな」

「却下。下手に筋力付けたら、殿下と体形が変わり過ぎる。病み上がりの殿下が自然に入れ替われる程度に維持してくれ」

「うう、俺、育ち盛りなのに―」


 テイラムの愚痴に、追い打ちが掛かった。


「背も、あまり伸ばすなよ。低い分には良いが、高くなりすぎると殿下にシークレットブーツを常用していただくことになるからな」

「それ、自分でコントロールできるもんなんですかー」


 いつものやり取りに、リアーチェがクスクスと笑い声をこぼした。


「それより、殿下の側近、どうするんですか。俺一人じゃ、授業内容フォローしきれませんよ。リアーチェお嬢様と一緒に取れる授業だけじゃないんですから」


 病弱設定の第三王子はしょっちゅう欠席するし、武術系の授業は見学がデフォだ。寮生活は無理という医師の診断書を盾に、森林公園の奥に存在する王家の離宮で生活している。

 実際には、離宮で療養中の本物の殿下のために、授業内容を影武者のテイラムが持ち帰る毎日だ。


「最低でも男子学生を一人、側近として取り立てていただかないと俺の頭じゃ授業についてけませんって。成績優秀で秘密を守れる人材、選んで付けてくれるって話だったじゃないですかー。必死にノート取りしてたら、姿勢保てませんって」


「それについては、人選が終わったそうだ。殿下から直接話があると思うぞ」

「ほんとですか。やったぁ」


 テイラムが背もたれから身を起こした。


「どんな方かしらね。わたくしも楽しみだわ」


 新しい共犯者候補に、リアーチェも興味津々だった。









 テイラム君、素が出てます。緊張しっぱなしじゃやってられません。


 次話、エザール兄貴の出番かな。


 お星さまとブックマーク、よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 王太子の側近に取り立てられると言えば聞こえは良いけど、下手すると「地獄までも共をせい」って話になりそう。 親である当主とすれば王家に取り入る絶好の機会を逃す訳…
[一言] テイラム君 素がこんなんで大丈夫かと思ったが、そういやこの国の高位貴族・王族は舞台裏では皆こんなだったな
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