プロローグ
初めましての方、こんにちは。
シリーズ『彼は男爵家の後継者に成りたいだけだった 伯爵? 公爵? 無理無理無理!』をお読みの方、お待たせしました。
リアーチェ・デイネルス侯爵令嬢を主人公にしたサイドストーリー、始まります。
「よく来てくれたね、リアーチェ嬢」
王族の住まいである内宮の一室でベッドに横たわるのは、第三王子レイモンド・デルスパニア。
「どういう事ですの。学園に入学なさらないなんて。一緒に行きましょうねって、お約束しましたのに」
生まれた時からの婚約者であるリアーチェ・デイネルス侯爵令嬢が、ツンと唇を尖らせた。
「ご免ね。約束、守れそうにないや。ほら、これだから」
王子が持ち上げたのは、筋肉が落ちて、侯爵令嬢より華奢になってしまった腕だった。
二人は同い年の十四歳。
半年後に王立中央高等学園への入学を控えた秋だった。
「よろしくお願いいたします。この度、第三王子殿下の影武者を務めることになりましたテイラムと申します。父は貴族院の紋章官を務めております。幼少時より貴族名簿の暗唱を嗜んでおりますので、伯爵家以上の家名と紋章は諳んじております。入学までには学園に通う下位貴族についても網羅しますので、その点につきましては、ご安心ください」
ガチガチに緊張しながら頭を下げたのは、平民の少年だった。
背格好、何より髪色がレイモンド王子と良く似ていた。多少の違いは光の当たり具合で充分誤魔化せる程度だ。
目の色はまじまじと覗き込めば違いが分かるが、王子相手にそんな無礼を働く者はまずいない。
何より、育ち盛りの年齢という条件が決め手となって、少年が選ばれた。
「どう、彼は僕に似てるかな」
クスクス笑うレイモンド王子とテイラムは、遠目からは判別できないくらい似ている。
いや、似ていた。かつて健康だった王子に。
二人を見比べることでレイモンド王子の窶れっぷりをはっきり意識させられて、リアーチェ・デイネルスは不機嫌になった。
「レイモンド様と通えないなら、わたくしも学園へは入学いたしません。ずっとお傍に居ます」
「リアーチェ、リアーチェ、駄目だよ。学園卒業は貴族の義務だ。もちろん、王族もね。そのために彼に影武者を務めてもらうんだよ。君が入学しなかったら、全てが無駄になってしまう」
「だって」
「大丈夫。僕は学園近くの離宮で療養してるから。放課後になったら、彼と一緒に帰って来て欲しい。その日の授業内容を教えておくれ。学園へは通えないけど、一緒に勉強しよう」
弱弱しい笑顔が幼き日の姿と重なって、彼女はきゅっと唇を噛み締めた。
まずは無難に船出しました。
お冨が書くんですから、斜め上のストーリー展開、ご期待ください。
ちょこちょこアレンジが入りますので、シリーズ本編との間違い探しをお楽しみいただければ幸いです。
当分、『マーク君の学園生活 義父は英雄 義妹は聖女 叔父は宰相やってます』と同時連載します。カメの更新ですが、お許しください。
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