96.聖女の役割
ところで、先程の話で分かったのだけど聖女には価値があるのよね?
さっきシリウス様は言ったわ。
聖女の祈りには『魔獣を退ける結界を張ったり、川や海の汚れを浄化したり、土地を豊かにして作物の収穫量を増やしたり』と国を繁栄させることが出来ると。
それって素晴らしいことよね。
魔獣の所為で人が傷つくことを、川や海の汚れで生態系や生活水に悪影響を与えることを、不作で食糧難に陥ることを取り除けるのだもの。
そんな力が私にあるなんて嬉しいわ!
だから私は意気揚々とシリウス様に尋ねた。
「あの、聖女としてシリウス様のために、この国のために何をしたら良いでしょうか?」
「聖女としては特にないかな」
でも予想外の即答が返ってくる。
私でも役に立てることがあるのだと期待したのに、何もないの?
聖女の力があれば、困っている人を助けられるのに?
「ない、ですか? 結界を張ったり、土壌を豊かにしたりは?」
「う~ん、アリシアが何かしたいというのなら止めはしないけどね。でも僕はアリシアを妻にしたんだ。聖女と結婚したわけじゃない。たまたまアリシアには聖女の力があったというだけ。王太子妃としての役割は求めることになるけど、あの手紙を送ってきた厚顔な彼らと違って、聖女として何かしてもらおうとは思っていないよ」
意外な返事と『厚顔』と少し棘のあるシリウス様に私は驚きつつも、どうして聖女の力を利用しないのか首を傾げる。
「でも、聖女の力があれば魔獣の危険がなくなるし、国が豊かになって発展するのですよね?」
「そうだけど、それは国王の仕事、将来の僕の仕事だからね。自分の力で、この国を発展させてみせるよ」
そう力強く答えるシリウス様の瞳には、自信と情熱が見て取れた。
「それに、聖女の力に頼ってしまったら将来、国が成り立たなくなるからね」
「成り立たなくなってしまうのですか?」
国が豊かになるのに成り立たなくなるとは、どういうことなのかしら?
「そうだよ。確かに、聖女の力で国は発展するかもしれない。でも、その恩恵に甘んじて人々は自力で向上することを止めてしまうだろう。例えば、聖女が祈りを捧げれば荒地にも作物は育つようになる。けれど、祈りを捧げなくなれば、また元の不毛な土地に戻ってしまう。魔獣を退ける結界も同じだよ。祈りが途切れれば、いずれ結界は消滅してしまう。こういう言い方はなんだけど、いつかは僕もアリシアも死ぬ。いくらアリシアの聖女の力が絶大だったとしても、祈りを捧げる人がいなくなれば徐々に効力は衰える。聖女の祈りは半永久的ではないからね。そうなれば後々の代、つまり僕らの子孫が困ることになるだろう? 先の例えで言うなら、必要なのは魔獣の脅威を排除する対策を立てること。魔獣討伐のために武力や軍事力を上げたり、魔獣に攻め込まれないよう防護壁を作ったりしてね。それから、荒地なら土壌改良や作物の品種改良をして作物を収穫できるようにすることだ。僕らは民のため、聖女の力に頼らなくても自分達の力で外敵から身を守り、国を豊かにする術を確立していかなければならない。それが、この国が後々まで豊かで在り続けられる一番の方法だ。国の未来を考えるというのは、こういうことだと僕は思っているよ」
真剣に語るシリウス様に、思わず見惚れてしまった。
シリウス様はしっかりと、この国のことを考えているのね。
確かにシリウス様の言う通りだわ。聖女の力を使っても、それが発揮されるのは私が生きている間から効力が消えるまで。
結局のところ、一時しのぎにしか過ぎないのよ。
だから効力がなくなった後も、この国が豊かであり続けるためには、加護に頼らない発展方法を見つけ出していかなければならないのね。
それが、この国の未来のために私達が出来ること。
もしかして、そこで力を発揮するのは聖女の力ではなくて知識なのでは?
『知識は裏切らない』
やっぱりライラの言っていたことは正しいわ。
もっと勉強しましょう!
王太子妃としてシリウス様の横に立っても恥ずかしくないように。
この国のことをきちんと考えているシリウス様の支えになれるように。
シリウス様と共に、この国を平和で安全で皆が幸福に包まれる豊かな国に出来るように。私が出来ることは何でもしよう。
もっと沢山の知識を身に着けて、シリウス様の役に立てるように頑張らなくてはね!
「実際、聖女の恩恵を受けた国が加護を失った後、立ち行かなくなって衰退したという記録も残っているよ」
「そうなのですね」
「まぁ、緊急事態の時はアリシアの聖女の力を借りることになるかもしれないけど。けれど、間違いないでね。僕は“聖女のアリシア”を好きになったわけじゃない。ただ、そのままのアリシアを好きになったことを」
「はい」
シリウス様は聖女ではない私を好きだと言ってくれる。
聖女という肩書ではなく、私の本質を好きだと。
以前シリウス様が言っていた“王太子と言う肩書ではなく、自分自身を見て欲しい”というのは、こういう事なのね。
『王子様だ!』なんて憧れのように見られるのではなく、自分という個人を見て欲しいというシリウス様の気持ちが、ようやく私にも分かった。
私も『聖女』としてではなく、私自身を見て評価して欲しいもの。
クラディア家や学園の人々とは違ってね。
本に書いてあったけど、権力や力は人の見る目を曇らせるというのは本当だわ。
きっとシリウス様は今まで、本質を見てもらえず歯痒い思いもしてきたのでしょうね。シリウス様は『王子様』ではなくても素敵な人なのに。
(『王子様』という肩書きがなくても、シリウス様は私の王子様だわ)
私が見つめながら微笑むと、シリウス様も笑みを返してくれた。
シリウスが熱く語っている所、長くなってしまって読みづらいですよね…やっぱり改行するべきだったでしょうか…(。。)




