95.愛するシリウス様に特別な加護を
「当然だよね、聖女も人なのだから」
そう、極々当たり前のことのようにシリウス様は言う。
特別な力を持った聖女である前に一人の人だと、能力に関係なく個人を尊重すべきだと言っているように聞こえた。
「心身をすり減らすような酷い扱いを受けてれば、力が発揮できなくなるのは分かり切ったことだよ。精神が安定しなければ、心に余裕も持てない。そうなれば力が失われていくのは必然だよね」
シリウス様は「魔法だって精神的に切羽詰まったりしていると、失敗したり効力が弱まったりするから」と付け足す。
「だから、今までアリシアが聖女の力を使えなかったのは当然のことだと思うよ」
シリウス様は私を見つめながら、そっと手を取った。
「あの日、君が涙ながらに話してくれたことを僕は忘れない」
それは除籍を言い渡された翌日、令息に突き飛ばされた私をシリウス様が助けてくれて、思わず自分の置かれた状況を吐露してしまった、あの話のこと。
シリウス様の話を聞いて、その聖女と自分が重なる。
あの家で私は家族からの愛を望んで、何よりも欲していた。
けれど、与えられたのは冷たい視線と態度。
自分でも気づかない内に心が擦り切れていたのね。
ずっと前、あれはシリウス様と初めて街へ出掛けた日。
シリウス様がくれた、このネックレスについてマリーと話した時
『お嬢様の心が癒されるようにと願われたのでしょう』と言われて、私は
“心が癒される? 私に癒しが必要なの? 心当たりはないのだけど。今は幸せだし”
なんて思ったけれど、今なら分かるわ。私の心は疲れ切っていたのね。
マリーから見ても分かるほどに。いえ、マリーだからこそ分かったのよ。
自分では気付けなかったけど、ずっとそばにいてくれたマリーは、それだけ私を見てくれていたということね。
私は無意識に首元のネックレスへと手を伸ばした。
そこにあるのは願いが込められたスターサファイア。それがキラリと光る。
「ただ、アリシアは生まれた時から聖女の力を無意識に使っていたはずだよ」
「え?」
「聖女はね、自分の身を守るために無意識に力を使うことがあるんだ。たとえば、家が貧しくて食べるものにも困る有様だったら、飢えで死んでしまう可能性があるだろう? だから生活に困らないように、聖女の家は裕福になる傾向がある。実際、クラディア家もアリシアが生まれてから事業が急成長しているんだよ」
シリウス様の説明を聞いて、私は目を丸くした。
そうだったの?
知らなかったわ。
でも確かに……これで家が貧しかったら私は、どんな扱いをされていたか分からなかったわね。
食事を与えてもらえなかったかもしれない。
もしかしたら沢山の使用人を雇えないからと、私にも労働させたかもしれない。
お金があるから、あの人達は心に余裕があったのかもしれない。
だから、あの程度で済んだのかもしれない。
そんな“かもしれない”が沢山、頭に浮かんできた。
私が聖女だったから、あれ以上ひどい目に遭うことなく普通に生活が出来ていたのね。
「ふふふっ」
唐突にシリウス様が笑ったので、どうしたのかと私は首を傾げた。
「シリウス様?」
「アリシアが聖女の力を使えるようになったということは、今を幸せだと思ってくれているってことだろう? 嬉しいなと思って」
穏やかに微笑んだシリウス様は、優しく私の髪を撫でる。
ここで、ようやく私はシリウス様の『心が満たされず疲弊していたから』という言葉の意味を理解した。
あの家で冷遇されていたから聖女の力を発揮できなかった私は、シリウス様が助けてくれたから心の平穏を得られて力を使えるようになった。
クラィデア家でのことや学園でのことを忘れてしまうぐらい、穏やかな生活をシリウス様が与えてくれた。私が欲しかったもの、望んでいたもの全てをシリウス様がくれた。
思えば、私が初めて聖女の力を使ったのはシリウス様に対してだったわ。
その次も、シリウス様のために力を使った。
シリウス様が私の心を満たしてくれたから、私を愛してくれたから、私を大切にしてくれたから、そのおかげで私は聖女の力に目覚められた。
(つまり“魔力無し”と蔑まれていた私は、シリウス様の愛で聖女の力に目覚めたのね)
私は大量の手紙へ視線を向ける。
この力を早く使えていれば……なんて思ってしまったけど、それは無意味なことね。クラディア家の人達も、学園の人達も、彼らの本質は変わらないのだから。
私に価値があるから愛してくれて、慕ってくれて、評価してくれるだけ。
そのことが、この手紙達で鮮明に浮き彫りとなったわ。
(そんな人達に親しまれても虚しく悲しいだけね)
でもシリウス様は違う。
私に聖女の力がなくても愛してくれて、大事にしてくれる。
私もシリウス様を大事にしたい、守りたい。そして誰よりも愛している。
「シリウス様」
「ん?」
私はシリウス様の手を取って、そっと額に当てた。
フワッと瞼の向こうが眩しくなった気がする。
「ア、アリシア。今、何をしたんだい?」
「え?」
目を開けると、驚いた表情のシリウス様がいた。
「今、何を思っていたの?」
「えーっと、大事なシリウス様を守りたいと」
「それでか……アリシア、前にも言ったけど不用意に聖女の力を使わないよう気を付けようね」
「え、えっ! 今……私、聖女の力を使ったのですか?!」
「う~ん、やっぱり無自覚か」
初めて聖女の力を間近で見たマリー達は「これが聖女の力」と目を瞬かせている。また私は無自覚に聖女の力を使ってしまったみたい。
でも後悔はしていないわ。
だって、大事なシリウス様を守りたいの。
この加護がシリウス様の生涯まで続きますように。
「これは、今までとは違う加護だね」
「分かるのですか?」
「うん。学園での魔獣退治の時とも、山越えの時とも違う感じがするよ」
「あの、ごめんなさい。勝手に」
「どうして謝るの? 僕のことを想ってくれたんでしょう? 嬉しいよ。ありがとう、アリシア」
私は許可なく勝手に加護を与えてしまったことを僅かに悔いたけれど、シリウス様は笑みを浮かべて許してくれた。
やっぱりシリウス様は優しいわ。
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