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魔力無しですが溺愛されて聖女の力に目覚めました  作者: しろまり


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89/105

89.私の部屋の隣はシリウス様の部屋

「あの、シリウス様。先程の、ご令嬢……レイチェル様は、もしかして」


私が言い掛けると、シリウス様は気まずそうに「あっ」と声を漏らした。


シリウス様は、エモンド公爵令嬢と言っていたわ。エモンド公爵は先々代の国王の弟君が賜った爵位。つまり―――


「シリウス様と、ご親戚なのですか?」

「えっ? あぁ、そうだよ」


シリウス様は一瞬、戸惑ったような声を上げた後、安堵したように頷いた。


やっぱり!

イングリルド国の貴族について学んでおいて良かったわ。


何も道中、寄り道ばかりしていたわけではないのよ。

移動中の馬車の中で、貴族名鑑を読んでいたの。


それを知っているシリウス様は「よく覚えていたね。偉いよ、アリシア」と言いながら、繋いだ手とは反対の手で私の頭を撫でてくれた。


ふふふっ。シリウス様に撫でてもらうと、頭だけではなく胸もホワッと温かくなるから好きだわ。


「あ、でも良かったのですか? 折角シリウス様に会いにいらしたのに」

「あぁ、問題ないよ。そこまで親しい間柄でもないしね」

「そうなのですか?」


レイチェル様の様子だと仲が良さそうに見えたのだけど、シリウス様としては違うみたい。


そうよね。

あんな表情を、あんな他人行儀な態度をとっていたのだから。


私に話しかける時とレイチェル様に話す時の声の温度差に驚いたけど、前にシリウス様が言っていた『自国では、令嬢に冷たい王子なんて言われていたりするんだよ』というのが分かった気がしたわ。


「うん。年が近いこともあって幼い頃は一緒に遊んだりしたけど、それも物心がつく前までだよ。まぁレイチェル嬢は度々、王城を訪れているけどね。僕は会うことがないから、遠い親戚以上の親しみはないかな」


声色から、シリウス様にとってレイチェル様は“単なる親戚”という位置づけでしかないことが分かるわ。


でもレイチェル様は、どうなのかしら?

シリウス様と違って、親しみを持っているように感じたのだけど。




暫く歩くと、建物の雰囲気が僅かに変わった。


「さぁ、ここからが僕らの住居エリアだよ。これから先は、さっきみたいな部外者は入れないから安心してね」


シリウス様は私に微笑んだ後、入口に配置された兵士に目配せしながら「こうして警備兵がいるのが目印だよ」と教えてくれた。


それから、また少し歩いて一つの扉の前でシリウス様は立ち止まる。


「ここがアリシアの部屋だよ」


シリウス様の言葉に、フェリシアが扉を開ける。

中に足を踏み入れた私は思わず声を上げた。


「わぁ!」


壁紙や家具は白を基調としており、カーテンや絨毯などの布物は赤やピンクと女性らしく可愛い色合いで纏められている。


シンプルでありながら洗練されており、上品な雰囲気の中に可愛らしさを感じる絶妙な部屋だった。


しかも広い。

クロフォード家で過ごした部屋の2倍は優にある。


初めてクロフォード家の私の部屋に案内された時、シリウス様に『ちょっと狭いかもしれないけど』と言われて驚いたけど、これが普通の感覚でいたから出た言葉だったのね。


部屋の中を見ると、真ん中に置かれたテーブルには花瓶が置かれていた。そこには、ここに来るまでの道中、シリウス様がくれた花が纏められて活けてある。それから、ソファの上にはシリーとアリーが仲良く並べられていた。


部屋の規模に戸惑ってしまったけど、シリー達を見たら何だか心が落ち着いてきたわ。


「素敵な部屋ですね」


シリー達は、どこに置くか迷ったので一先ずソファに置いたとマリーが説明してくれた。


そうね、どこに置こうかしら?

やっぱりベッド横のサイドテーブルに並べて置きたいかも。


そこまで考えて私は気づいた。この部屋にベッドがないことに。


「あぁ、寝室は隣の部屋だよ」


私が首を傾げたので察したのか、シリウス様は一つの扉の方へと歩く。その扉には鍵が二つ付いていた。上には鍵穴が、下にはサムターンが設置されている。


「フェリシア」


呼ばれたフェリシアは、一つの鍵を取り出してシリウス様に渡す。鍵を受け取ったシリウス様は上の鍵穴に差して開錠すると、サムターンのつまみも回した。


随分と厳重なのね。

あ、寝ている時は無防備だから、用心のためね。寝込みを襲われたら危険だもの。


でも今は平和だと思うし、入口には警備兵がいたから安全だわ。そこまで警戒する必要があるとは思えないのだけど……あ、分かったわ! きっと、これは古い時代の名残なのね。王族は大変なのだわ。


私が一人で納得していると、シリウス様が先程の鍵を差し出してきた。


「これはアリシア側の鍵だから、君が持っていてね」

「はい」


シリウス様から鍵を受け取ったところで、扉が開かれる。


そこはダークブラウンの木目と、深い青色を基調とした落ち着いた雰囲気の部屋だった。部屋の中央には大きなベッドが置かれている。それは、クロフォード家の自室のベッドの2倍近い大きさであった。


「落ち着いていて、リラックス出来そうな部屋ですね」


感想を言いながら部屋を見回していると、ふと一つの扉が目に入った。

それは先程の扉と同じように鍵が二つ付いている。


「あの扉の先は何の部屋なのですか?」

「あ、えっと……」


疑問を尋ねると、シリウス様は口籠らせた。


どうしたのかしら?


「その、僕の部屋に繋がっているんだ」

「シリウス様の部屋に?」

「う、うん」

「それは、つまり私の部屋の隣がシリウス様の部屋ということですか?」

「うん……そうだよ」


シリウス様は扉の前に行くと、懐から鍵を取り出し鍵穴に差した。

そしてサムターンも回して両方の鍵を開錠する。


開かれた扉の先は、白い壁紙、濃い青色のカーテンと絨毯、ダークブラウンの家具とシリウス様らしい内装の部屋だった。


ふと見ると、シリウス様は身の置き場がない様子でソワソワしている。


「寝室がシリウス様の部屋に繋がっている……それは」

「っ……」

「とても安心ですね」

「えっ」


判決を待つような表情をしていたシリウス様はキョトンと目を丸くした。


「この広くて迷子になりそうな初めての場所で、マリー達はいるけど知らない人が多い中、隣にシリウス様がいると思うと心強くて安心です」

「あぁ、そういう意味か……うん。何かあれば、いつでもおいで。僕側の鍵は開けておくから」


言いながら、シリウス様は扉を閉めると上の鍵は掛けずに下のサムターン鍵だけ施錠した。ちゃんと閉まっているかガチャガチャとドアノブを回して何度も確認するぐらい、しっかりと。


「さて、疲れただろう? 王城内を案内したいけど何日もかかるから、また明日ね。今は、ゆっくり休んで」


シリウス様は私の頭を一撫ですると、部屋を出た。私はシリウス様に言われた通り、休むためソファに座る。シリーとアリーを横に置いて。


今日から、ここが私の部屋。

私の新しい生活が始まるのね。


感慨深くソファを一撫でして、改めて部屋を見渡す。とても愛着が沸く気がした。


ところで何故、寝室の扉がシリウス様の部屋に繋がっているのかしら?

私、何だか大事なことを教わっていない気がするのだけど?



******



アリシアの部屋を出た後、僕はフェリシアを呼び止めた。


「フェリシア、その……あの、何だ、アリシアに……あれについては」

「“あれ”とは何のことでしょうか?」

「だから、その……夜のことだ」


何のことだか分かっているだろうに知らぬふりをするフェリシアに、言葉を濁しながら小声で告げる。


「まだ何も、お教えしておりません」

「そうか」

「お二人には、まだ早いのでしょう?」

「なっ!」


意地悪そうな声色のフェリシア。日頃、表情が動かないフェリシアだが僕には分かる。口角が僅かに上がっていることを。


確かにキスしそうになった時『まだ僕達には早い』とは思ったけど、それを口に出してはいないはずなんだが。


「乳姉弟の考えていることぐらい分かります」

「そうか」


まぁ、フェリシアの言う通りだ。書類上は夫婦とはいえ、まだ式も挙げていないし、アリシアの心の準備も整っていないだろう。キスも、まだな僕達に夜のことは早すぎる。やはり、自室で寝ることにして正解だったな。


「ジュリアン、簡易ベッドの用意は出来ているか?」

「はい。すでに設置しております」

「よし」


僕は頷いて、自室へと向かった。

皆様はお気づきですよね。そうです、あれはアリシア”だけ”の寝室ではなく、夫婦の寝室です(笑

寝込みを襲われる意味~!!(*>ω<)


あと、これは私の純然たる好みなのですが、シリウスの『いつでもおいで』って言葉、大変自分に刺さってます。好きです。

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