79.愛は愛で返す
今日もまた朝早くから出立するのだと思って、早く起きたけどマリーもフェリシアも部屋に来ない。
何故かしら?と思いつつも、自分で支度を始めたところでマリー達が部屋にやってきて驚かれてしまった。
「いえ、ほら自分で身支度ぐらい出来るからね。別に、これがマリー達の仕事だという事を忘れたわけでないのよ。皆が忙しいなら、手を煩わせる事もないかなと思っただけで。決して自分の立場を忘れたわけではなくてね。えっ、違う? そういう方向の驚きではない? 今日はゆっくりして良かったのに、もう起きているから吃驚したの? あら、そう」
なんと、今日はゆっくりして良かったらしい。
なんでも「今日は、お疲れでしょうから、このまま一泊する予定になっております」と。
正直なところ身体が痛くなってきていたので、のんびり羽が伸ばせるのは助かったわ。
朝食を終えた後、シリウス様は鍛錬をすると言っていたので見に行こうと思い(今度はコソコソ隠れずに、堂々と見学するわ!)外に出ると、中庭でお義父様達が食後のお茶をしていた。
「あのシリウスに伴侶がな……」
「えぇ、本当に」
立ち聞きするつもりはなかったのだけど、声が聞こえてしまった。
“あの”シリウスとは、どういう意味かしら?と思ったところで、お義母様と目が合う。
あ、見つかってしまったわ!!
「アリシアさん」
「す、すみません。立ち聞きするつもりはなかったのですが……」
おずおずと近づきながら謝罪すると、お義母様達は顔を見合わせて笑った。
「ふふふっ、いいのですよ。それより、こちらにいらっしゃいな」
「あぁ、一緒にお茶をしよう」
誘われたけど、仲睦まじい様子からして“お邪魔では?”と気が引けてしまう。
「え、でも……お邪魔ではないですか?」
「はははっ、そんなことはない。むしろ私らはアリシアちゃんと、もっと話がしたいのだが」
「そうですよ、遠慮は要りません」
「そ、そうですか? それなら、失礼します」
促された席に座ると、私の分の紅茶がスッとテーブルに置かれた。
それから他愛もない話をしていると、急にお義母様が私を見つめる。
「アリシアさん、シリウスに望むことは何かありますか? あれば遠慮なく言うのですよ」
「シリウス様に望むことですか?」
「そうだぞ。アリシアちゃんは、もっとシリウスに我儘を言って甘えたらいい」
「我儘ですか? そんな、とんでもない。シリウス様は十分良くしてくれています。これ以上、何かを望んだらバチが当たってしまうかと」
「アリシアちゃんは欲がないのだな」
「えぇ、本当に」
お義父様も、お義母様も感心したように頷いている。
私に欲がない?
いいえ、そんなことはないのですよ、お義父様、お義母様。
「いいえ。私は、とても欲深い人間です。シリウス様の傍にいたいと、離れたくないと思っていますし、シリウス様から頂いたものは何一つ手放したくないのです」
以前は”シリウス様から頂いたものは全てお返ししよう”なんて思っていたのに、今では逆のことを願っている。昔に比べて私は欲張りになったわ。
私の言葉を聞いたお二人は一瞬、瞠目してから目を細めた。
「それは当たり前のことではないか?」
「えぇ、そうですとも。好きな人の傍にいたいと願うのは、愛する想いがあればこそのこと。それに好きな人から貰ったものは、どんなものでも宝物ですから手放したくないと思って当然ですよ」
「えっ! これは、この願いは当たり前のことなのですか?」
「あぁ、そうだ」
「えぇ、そうですよ」
普通の事だと、お二人は揃って首を縦に振る。
え、えぇ!
そうなのですか? 当たり前なのですか?
今まで、そんな風に思うことがなかったので欲が湧いたのだと、貪欲な人間になってしまったのだと思っていたのですが、これは普通のことなの?
「その程度で欲深いとは、アリシアちゃんは可愛いなぁ」
「本当にアリシアさんは無欲なのですね」
「むしろアリシアちゃんは、もっと欲深くなるといい」
「そうですわ。もっと欲張っていいのですよ」
お二人は、もっと欲を出していいと言うけれど、これ以上は本当にバチが当たってしまいます。それに―――
「私は、いつもシリウス様からいただいてばかりで……お返しもしたいのに、ちゃんと出来ていないですし。そもそも私がシリウス様にお返し出来ることなんて、何があるのか分からないのですが」
そう、お返しすら出来ていないのだ。私に何が出来るのだろうかと、いつも考えるけど答えは出ない。ただ思っているだけではダメなのに、気づけばシリウス様に甘えてしまっている。
「アリシアさんが幸福を感じ、シリウスに笑顔を向けること。それが、お返しになるのではないかしら?」
「あぁ、その通りだ。シリウスの隣でアリシアちゃんが喜び、幸せでいること。それがシリウスにとっての幸福であり、何よりも心が満たされることだろう」
「そ、そうなのですか?」
そんなことで、お返しになるのですか?
私が幸せでいることが、シリウス様の幸せなのですか?
あぁ、でも逆を考えると、その通りだと思う。
シリウス様が幸せなら、私も幸せだもの。
「えぇ、そうですよ。だから、もっとシリウスを頼って甘えなさい」
「そうだぞ、もっとシリウスに我儘を言うといい。きっと喜ぶぞ」
お二人は温かい笑みを向けてくる。
我儘を言われて喜ぶ人がいるなんて思ってもみなかった。
けれど、また私は逆の立場を考えてみる。
シリウス様が我儘を言ってくれたら嬉しいかもしれない。頼られた感じがするもの。それに、それを叶えることが出来たら、もっと嬉しくなる気がする。
だってシリウス様は、きっと喜んでくれるでしょう?
それは嬉しいわ。
あぁ、そうか。お義父様達が言っているのは、そういうことなのね。
「それに、わたくしにも甘えていいのですよ」
「お、ズルイぞ。アリシアちゃん、私にも我儘を言っていいからな」
お義父様は、お義母様に張り合うようにズイッと身を乗り出した。
それは、つまり……
私は微笑みながら頷いた。
互いの幸福が、互いを満たす。
なんて素敵なことでしょう。これが愛なのですね。
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