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魔力無しですが溺愛されて聖女の力に目覚めました  作者: しろまり


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76.白馬の王子様

賊やら、魔獣の騒動で行程に遅れが出てしまった。急がなければ日が暮れてしまうと、皆は後処理や安全の確保などで忙しなく動いている。


それに一先ず魔獣は退治したが、いつ魔笛に誘われた魔獣が現れるか分からないという。一刻も早く出発しなければならない。


それなのに、よくよく確認すると私達が乗っていた馬車は横転した際に車輪の一部が壊れてしまっていた。パッと見、破損が見えなかったから気づかなかったのだけど、これでは馬車が使えない。


どうしたものかと、お義父様とランドルフは話し込んでいる。そこに凛とした、良く通る声が響いた。


「馬車が使えないのであれば、馬で行けばいいではありませんか」


(あれ、この台詞どこかで……)


既視感というか、身に覚えがある言葉に振り向くと、そこにはドレスではなく乗馬服を着たお義母様の姿があった。


え、いつの間に? あ、もしかして馬車が使えなくなることを見越して着替えられたのですか? それで姿が見えなかったのですね。


お義母様は「わたくしは、この馬に乗りますわ」と言って、馬車に繋がれていた一頭の馬の手綱を取る。すぐさま、ランドルフは待ったの声を上げた。


「王妃様、お待ちください。それでは安全が」

「ランドルフ達がいるのだから問題ないでしょう。それに、いつまでも此処でボヤボヤしている方が、よほど危険だと思いますわ。今ならアリシアさんの加護もあるはず。それならば、加護が切れる前に移動した方が得策でしょう」

「それは、そうですが」


躯体も大きく屈強なランドルフが、たじたじになっている。日頃の清楚で慎ましい姿からは想像も出来ないお義母様の様相に、私は目をパチクリと瞬かせた。


「母上は活発な方でね。乗馬もするけど、剣を取ったりもするんだ。実はランドルフも顔負けの腕前の持ち主なんだよ」


シリウス様は苦笑いを浮かべている。


そうなのですね!

お義母様は、お強いのですか! 素敵です!


私は、今度は目を輝かせた。


やはり強くなくては、国王の隣に立つ王妃は務まらないのかもしれない。私も強くなれるかしら。シリウス様の隣に立つのに相応しい強さを私も持ちたいわ。


新たな決意を胸にした時、馬の小さい鳴き声が聞こえてきた。


私は誘われるように、声がする方へと向かう。そこには一頭の白い馬が倒れ込んでいた。馬車が横転した際に怪我を負ってしまったようで、足元の白い毛が赤く染まっている。


確か、馬は足を怪我すると生きられない。そう本に書いてあった。それでは、この馬も?


「あぁ、その馬は馬車の横転の際に、近くにあった岩で怪我をしてしまったようでね」

「この馬は、どうなるのですか?」

「うぅん、助けてあげたいのは山々だけど……足を怪我してしまってはね」


歯切れの悪いシリウス様の瞳には哀れみの色が宿っている。

やっぱり、そうなのね。この馬は、もう……でも、どうにか出来ないのかしら。


「ポーションとかは使えないのですか?」

「う~ん、馬への使用例は聞いたことがないかな」

「そうですか……」


あの魔獣がいなければ、馬車が横転することはなかった。その魔獣は、賊がいなければ現れなかった。つまり賊がいなければ、この馬は怪我をしなかったはず。


ここにきて初めて、賊に対して嫌悪感が芽生えた。


私は馬の傍で膝を突くと、目を伏せた。

弱々しく鳴く声が、胸に刺さって痛い。


この子の痛みがなくなればいいのに。

怪我が治れば、また元気に走る事が出来るのに。

そんな事を考えながら、そっと綺麗な白い毛並みを撫でる。


「アリシア、また無自覚かな?」

「えっ」


目を開けると、馬はブルッと震えながら動こうとしていた。シリウス様が“危ないから”と私の肩を引いて立たせてくれる。私が離れると、馬は何事もなかったかのようにスクッと立ち上がった。


えっ、怪我をしていたのではなかったの?


目を丸くしていると、周りから囁く声が聞こえた。


「馬にも心を配られるとは、なんて慈悲深い方だ」

「さすが聖女様ですね」


あれ、もしかして!


「あの、私また無自覚に力を使ってしまいましたか?」

「うん」


シリウス様は苦笑いを浮かべながら頷く。


「あ、あの、すみません。そこまで祈っていないのですよ。怪我が治ればいいのにと思っただけなのです。本当に、少し思っただけなのですが」

「謝ることはないよ。むしろ治療してくれて感謝している。ありがとう、アリシア。僕も、この子を気に入っていたから嬉しいよ」


必死に弁明していると、シリウス様の苦笑は微笑みに変わる。

始めから怪我などしていないように、馬は足を動かして私の元へ来ると頬を寄せた。


「ふふふっ、くすぐったいわ」


くすぐったい。けれど私は馬が元気になったことが嬉しくて、ギュッと首筋を抱きしめた。シリウス様も馬の肩辺りを楽しげに撫でている。


良かった。シリウス様も喜んでくれているし、この子も死なずに済んだ。これからも元気に走れるわね。


怪我が治った白馬を騎士に託して、私達はお義父様の元へと戻った。


「馬で行くことになりましたよ」


どうやらランドルフは説得に失敗して、お義母様が勝ったようだ。やはり、お義母様は強い。


お義母様の決定を聞いたお義父様は、笑みを浮かべながら馬を選びに行く。馬車に繋がれていた馬達はハーネスが外され、鞍が付けられていた。


「なら私は、この馬にしよう。懐かしいな。昔は二人で遠乗りをしたものだ」


お義父様は懐かしむように、お義母様を見つめている。


きっと素敵な思い出があるのね。シリウス様と私の思い出と同じように、お義父様とお義母様の思い出も宝物に違いないわ。


「では僕は、こちらを」


手綱を手にするお義父様に、シリウス様も続いた。


あ、これは私も馬を選ぶ流れね!

でも大丈夫かしら。一応、馬には乗れるけど、路面の整っていない山の中を走ったことはないから少し不安がある。


そう思いつつ、シリウス様の後ろから馬を選ぼうとしたら


「アリシアは僕と一緒だよ」

「えっ」

「君が馬に乗れることは知っているけど、山道を走ったことはないだろう? 万が一、落馬でもしたら大変だからね。僕と二人乗りだよ」


そう言いながら、シリウス様は選んだ馬の首元を撫でつつ手綱を引く。その馬は先程の白馬だった。既に鞍などの装備が整えられている。


(は、白馬!とシリウス様が並んだ光景は、とても眩しいわ!!)


さっき私はシリウス様と馬の間に挟まれていたから気づかなかったけど、二人(一人と一頭?)が並ぶと輝きがすごい。


煌めく光景に目が眩んでいると、優しく呼ばれた。


「アリシア、おいで」


すでに騎乗したシリウス様は手を差し出している。


えっと。これは、どう乗ればいいのですか?

本来なら鐙に足を掛けるのだけど、そこには既にシリウス様の足がある。しかし他に台もない。一体どうすれば?


どうしたものかと戸惑っていると、いつの間か背後に立っていたジョンが私をヒョイッと持ち上げた。一瞬何が起きたか分からずにいたら、ジョンは「じゃ、俺はこれで!」と持ち場に戻って行く。気づけば、私の身体はシリウス様の腕の中に納まっていた。


(こ、こここ、これは!!!)


白馬に乗った王子様に抱きかかえられているお姫様的な!!!

(私はお姫様ではないけれどね)


お伽噺で何度も見た、あの光景。

それが今ここに!!!


その昔、幼心に憧れていた“お姫様を迎えに来る白馬の王子様”の一場面。それが叶ってしまったわ。


あぁ、シリウス様と一緒なら何でも叶う気がする。あの頃、夢見ていた様々なことが叶えられる気がするわ。だってシリウス様は本当に私を迎えに来てくれたのだもの。


(クラディア家へ迎えに来てくれた時は、白馬ではなく普通の馬車だったけれどね)


お姫様がピンチの時に颯爽と現れて助け出す王子様。

シリウス様は物語の王子様そのものだわ。まぁ、実際に王子様ですしね。


何だか可笑しくて、思わず笑みが零れてしまう。


「ふふふっ」

「どうしたの? アリシア」

「あ、えっと。シリウス様が物語に出てくる白馬の王子様みたいだなと思いまして」

「そう思ってもらえると嬉しいな。僕はアリシアの王子様だからね」


“アリシアの王子様”という甘い単語に、思わず顔を上げた。そこには愛おしそうに私を見つめるシリウス様の端正な顔が。肌のキメの細かさや長い睫毛がよく見える。いつもより近い距離に私の鼓動は早くなって、思わず視線を逸らしてしまう。


あぁ、顔が熱いわ。

お読みいただき、ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)⁾⁾

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