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魔力無しですが溺愛されて聖女の力に目覚めました  作者: しろまり


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74.国宝、大量生産

お義父様は今後についてランドルフ達と話し合い、お義母様は血で汚れてしまったドレスを着変えに行った。シリウス様と私は近くの倒木に腰かける。


「母上は流石にダメだと思ったよ」

「そうですね、お義母様の怪我は重症でしたから」

「あ、いや。それもあるけど、そういう意味ではなくてね」

「?」

「ほら、アリシアは僕の怪我を治してくれたし、魔獣騒ぎの時は僕に力を授けてくれたけど、その場で倒れていた兵士達には傷を治すとか、聖女の力は発動しなかっただろう?」

「そう言われると……」


確かに。あの場には何人もの兵士が傷ついて倒れていたというのに、シリウス様の時のように治って欲しいと思わなかったというか、そんな風に思う余裕もなかったというか。今思えば、とても薄情なのでは? 私達を守ろうとしてくれた人達だったというのに。


私は自分の思いやりのなさに胸が重くなった。


「アリシアの力には“発動条件”とまでは言わなくても、何かキッカケになるもの、例えば“僕”とかがあるのではないかなと思っていたんだ」


確かに。思い起こしてみれば、シリウス様にしか聖女の力を発揮していない。というか、シリウス様が相手だから“何とかしなくては!”という焦る気持ちがいっぱいで、必死になっている内に力を使っているような気がする。


「だから、母上には聖女の力が発動しないのではないかと思ってね」

「それで『ダメだ』と思われたのですね」

「うん、でもアリシアは母上を救ってくれた。本当にありがとう、感謝してもしきれないよ」

「そんな! 先程も言いましたけど、私は無我夢中だっただけで」

「父上も言っていたけど、その気持ちが嬉しいんだよ」


シリウス様は、ふわりと顔を綻ばせた。それだけで私の心は満たされていく。


「それにしても、発動条件は何なんだろうね?」

「そうですね……多分、必死さだと思います」

「必死さ?」

「はい。相手を助けたい、何とかしたいって思ったら力を発動している……ような気がします」

「それは父上のことも、母上のことも大切に思ってくれているということ?」

「もちろんです!」


私が元気に答えると、シリウス様は「ありがとう、アリシア」と言って、頭を撫でてくれた。あぁ、シリウス様に撫でてもらうの好き。胸がポカポカと暖かくなる。


暫くして、シリウス様は考えるように呟いた。


「しかし何故、魔獣が出没したのか……」


山は危険だからではないのですか?

この国境の山には魔獣が出ると本に書いてありましたよ?


「魔獣除けの鈴は、ちゃんと効果を発揮していたはずだし」


『魔獣除けの鈴』? 鈴の音なんて聞こえていなかったのだけど。

初めて聞く単語に、私は首を傾げた。


「シリウス様、魔獣除けの鈴とは何ですか? 何となく、魔獣を忌避するのだろうとは思うのですが」

「あぁ、ダノン国にはない物だったね。察しの通りだよ。人には聞こえない周波数だけど、魔獣が嫌う音が出る鈴で、半径2km以内の魔獣に効力があるんだ」

「そのような物がイングリルド国にはあるのですね」


さすが魔獣が多く、その対策をしっかり施している国。でも、だとすると謎は益々深まるばかりだわ。そんな便利な道具を使っていたにも関わらず、何故? 魔獣が出没したの?


そこにジュリアンが慌てた様子でやってきた。


「捕らえた賊の一人が魔笛を使ったようです」

「何!」


ジュリアンの言葉に、お義父様達もシリウス様もランドルフもガバッと振り向いた。


『魔笛』って何かしら?

皆の緊迫した雰囲気から、聞いていいタイミングか迷うところだけど。


「あの、シリウス様。魔笛とは?」

「あぁ、魔獣を誘き寄せる笛だよ。普通は魔獣を罠に掛ける時に使うんだけど、恐らく混乱に乗じて逃走するために使用したのだろう」

「あ、それで先程の魔獣が?」

「うん。こちらは魔獣除けの鈴を装備していたとはいえ、賊の騒ぎで停車していたから効力が薄らいでしまったんだと思う」


えっ。それは、かなり危険な状況なのでは?


「それで、その賊はどうした?」

「魔笛を取り上げ、気絶させておきました」


尋ねたお義父様はジュリアンの返事を聞いて、よくやったと頷いている。


「しかし魔笛を使われたとなると」

「急いで、この場から離れた方が良いでしょうな」

「うむ」


ジュリアンの言葉にランドルフが続き、お義父様は先程より深く頷いた。そこに着替え終わったお義母様が戻ってくる。お義母様の準備も整ったことを確認したランドルフが騎士達に指示を出した。


「早急に、この場から立ち去るぞ!」


その時、少し離れた木々の向こうに何かの影が動いたので、何かしら? と目を凝らすと、狼のような魔獣がこちらへ駆けて来るのが見えた。しかも複数頭。


実際の狼を見たことはないけど、普通の狼と違うのは分かる。今まで遭遇した魔獣と同じ、禍々しさがあるから。


「シリウス様。向こうの方から狼に似た魔獣が複数頭、こちらへ向かってきます」

「何だって?! どこから?」


私がランドルフの背後を指差すと、シリウス様をはじめ一同が凝視した。彼らには見えていないのか「どこだ?」「何もないぞ?」と疑問の声が上がる。が、暫くすると誰かが「おい、待て」と言った。


僅かに草木が揺れているのに気づいたのか、はたまた隙間から姿が見えたのか。皆に緊張が走り、一瞬シンと静まり返る。


「総員、戦闘態勢!!」


ランドルフの怒号のような掛け声が響く。

騎士達が整列すると同時に、魔獣が一斉に襲い掛かってきた。

すぐさま騎士達は魔獣と対峙して……もちろん、シリウス様もその中に。


「アリシア、危ないから父上達から離れないでね。ジュリアン、頼んだぞ」


魔獣が見えたと同時に、シリウス様は言い残すと行ってしまった。

皆、危なげなく魔獣を倒しているけれど、どう見ても数が多い。体高が低く、素早い動きと圧倒的な数に、こちらが不利に見える。


(シリウス様が戦っている。私も何か出来ないかしら? でも戦えない私に出来ることなんて……いいえ、あるわ)


私が聖女だと言うのなら。卒業パーティーのあの時、私がシリウス様に魔獣を倒す力を授けたと言うのなら。今だって出来るはず!


(シリウス様だけではなく、戦っている騎士の皆にも力を。魔獣を退ける力を!)


私は手を組み、目を閉じる。そして、あの時と同じように強く祈った。

ふわっと暖かい風が吹き抜ける。次の瞬間、そこかしこで騎士達の声が上がった。


「こ、これは……剣が!」

「おい、魔獣の動きが鈍くなったぞ」

「今だ!!」


目を開けた時には、騎士達が素早い動きで魔獣を仕留め終わった後だった。


「殲滅を確認しました」

「うむ。被害状況は?」

「軽傷のみです。それより……」


ランドルフは、お義父様に報告している。それを横目に、シリウス様は私の元に戻って来た。ふと見れば、その腰元に携えられている剣が淡い光りを帯びている。馬車の中では、普通の剣だったのに。


「アリシア。今、祈った?」

「はい」

「何て祈ったの?」

「“シリウス様と騎士の皆さんに魔獣を退ける力を”と」

「そうか、それで……」


シリウス様は頬を掻きながら、辺りを見回した。正確には騎士達と、彼らが手にしている剣を。


私もシリウス様の視線を辿って気が付いた。騎士達の剣もシリウス様の剣と同様、薄っすらと輝いていることに。それは卒業パーティーで、シリウス様が魔獣を倒した剣と同じ光だった。


「どうしたものか」


背後からのお義父様の声に、シリウス様もランドルフもチラリと私を見た後、頭を抱えるようにしている。


え、えっ? あれ? も、もしかして。


「私、何かいけない事をしてしまったのでしょうか?!」


慌てる私に、シリウス様は少し困った様子で顔を上げる。


「いや、いけない事ではないけどね。ただ……そう、騎士達の剣が全て国宝級になったというだけだよ」


国宝級? 何故そんなことに?


「アリシアの祈りで聖女の加護が宿ったからね」


それが何故、国宝級ということになってしまうのかしら?


「祈りの内容にもよるけれど、人に与えた加護は願いが叶うと大抵の場合は数時間で消えてしまう」


ほうほう、そうなのですね。


「でも物に対する加護の効力は半永久的なんだ。効果は徐々に弱くなっていくけどね」


ふむふむ、なるほど。


「だから聖女の加護が宿る物は貴重なんだよ。そもそも希少でもあるしね」


うんうん。ん…………???

シリウス様は、説明は終わったという雰囲気を醸し出している。


「え、それで騎士達の剣が国宝級に?」

「うん」

「では、シリウス様の剣も?」

「うん」

「もしかして、卒業パーティーでシリウス様が魔獣を倒した剣も?」

「うん」


あれはシリウス様がライオネル殿下に託していたけれど、あれも国宝級に?

つまり聖女の加護が宿ると、貴重で希少だから国宝扱いになるということですか?!


「一部の騎士の剣は対魔獣用ではなかったから“魔獣を退ける力”を与えるにあたり、無差別に全ての剣に加護が宿ったんだと思うよ」

「なるほど?」

「国宝を大量生産してしまったね」


シリウス様は苦笑している。ランドルフや他の騎士達は自身の剣を見て、戸惑っている様子だ。お義父様は変わらず頭を抱えていた。

無自覚聖女爆誕です(笑

実はシリウス以外にも聖女の力を使っているんですけど、お気づきでしょうか!

それについては最終話辺りで、ちゃんと出てきますので、ご安心ください(?)

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