68.ゴードンの思い
クラディア家の家令ゴードン視点になります。
「ゴードン、キャロラインはどこだ!」
卒業パーティーの翌日の夕刻、玄関にて主人の帰宅をお待ちしておりますと、物凄い剣幕で旦那様がお戻りになりました。
「只今、キャロラインお嬢様は奥様とティーサロンでお茶をされております」
私の言葉を聞くなり、旦那様はドタドタと激しく床を踏み鳴らしながらティーサロンへ向かわれます。
そして勢いよく扉を開けるなり
「キャロライン! 昨晩、一体何があったのだ!!」
そう旦那様に問われ、キャロラインお嬢様はキョトンと首を傾げられました。
「あなた、そんなに大きな声を出して、どうなさったのですか?」
旦那様の怒鳴るような声に、奥様も小首を傾けておいでです。
「キャロライン! 昨日の卒業パーティーで何があった!!」
催促するような旦那様の言葉に、キャロラインお嬢様は一瞬顔を歪ませましたが、すぐさまパッと表情を変えると眉を落とされました。
「あぁ、魔獣が出ましたの! とても怖かったですわ」
「まぁ、魔獣が?! それで昨晩は、すぐ部屋に戻ってしまったのですね。あぁ、さぞ怖かったでしょうに。可哀そうなキャロライン」
奥様はそう言って、慰めるようにキャロラインお嬢様を抱きしめられました。
「それは知っておる! そうではなくて、ライオネル殿下との婚約発表はどうなった!!」
「……わたくし、その話はしたくありませんの!」
顔を真っ赤にした旦那様にキャロラインお嬢様は答えると、そっぽを向かれます。
「あら、何があったのかしら?」
言いながら奥様は変わらず、キャロラインお嬢様を宥めておいでです。
「何がだと?! 今日、貴族の集まりに行ってみれば、皆から『おめでとうございます』と声をかけられるから、てっきりキャロラインとライオネル殿下のことだと思っていたら」
そこで旦那様は言葉を区切られました。そして震えながら
「あの若造とアリシアが婚約したと言うではないか!」
ご婚約!
アリシアお嬢様、おめでとうございます!
私は心の中でアリシアお嬢様に祝福の言葉を贈ります。
奥様は「それが何か?」というように興味がないご様子でしたが、旦那様が次に告げた言葉に目を丸くされました。
「しかも、あのシリウスとかいう若造、隣国のリングリルド国の王太子だと言うではないか!」
王太子!
どおりで。あの落ち着き払った態度、そこはかとなく漂う高貴な雰囲気、洗練された立ち振る舞い。そして何より……あの時、旦那様を威圧された気迫。
あの方にならアリシアお嬢様をお任せできる。
そう思った私の目に、狂いはありませんでしたな。ふぉっふぉっふぉ。
「王太子……ということは、アリシアは王太子妃になるのですか?!」
「それだけではない。なんと、アリシアは聖女だと言うではないか!!」
「せ、聖女ですって?!」
旦那様の言葉に、奥様は驚きの声を上げておられます。
おぉ、なんと!
アリシアお嬢様は聖女であられましたか!
思い起こせばアリシアお嬢様がお生まれになった瞬間、それまで仄暗かった屋敷にパッと灯が灯ったかのように、屋敷を包む空気が温かく感じられましたが、きっと聖女の力だったのでしょう。
「それは、本当ですの?」
「卒業パーティーに出席していた親達が見たと言うから間違いないとは思うが……」
奥様に尋ねられた旦那様は、今日あった出来事を話し始めました。
「おや、クラディア伯爵ではありませんか。ご婚約おめでとうございます」
その言葉に、キャロラインお嬢様とライオネル殿下の婚約だと思った旦那様は、意気揚々と満足気に頷いたそうです。そうして何人かに祝いの言葉を掛けられた後、他の貴族から告げられた話に旦那様は首を捻ったと言います。
「あぁ、でもアリシア嬢は除籍され、もうクラディア伯爵家と関係ありませんでしたね」
「そうでしたな。祝福する相手を間違えてしまって申し訳ない」
旦那様が何のことか分からずにいると、また別の貴族がニヤニヤと笑いながら「教えてあげましょう」と勿体ぶるように言ったそうです。
「おや、ご存じないのですか? まぁ、すでに他人なのですから無理もないでしょうけど。アリシア嬢はシリウス殿と婚約されたのですよ」
「しかもシリウス殿は、大国であるイングリルド国の王太子殿下だというではありませんか」
「あぁ、驚きましたな。そうと知っていれば我が娘に、もっとシリウス殿に近づくよう言っておいたのに」
「それにしても残念なことをしましたな、クラディア伯爵」
「本当に。アリシア嬢を除籍などしなければ、かのイングリルド国と繋がることが出来たでしょうに」
「そうですな。アリシア嬢を手放さなければ、これほどない後ろ盾を得られたというのに」
「しかもアリシア嬢は聖女だと言うではありませんか」
「あぁ、聞きましたぞ。聖女の力で魔獣を倒したとか」
「すごいですな。本当にクラディア伯爵は惜しいことを。手元に置いておけば聖女の加護を得られたでしょうに」
「いやいや、それはどうですかな? 聞くところによると、アリシア嬢を冷遇していたそうではありませんか」
「なんと! 聖女を虐げていたと? それでは例え除籍せずとも加護は与えてもらえないですな」
「えぇ、そうでしょうな」
嘲笑うように向けられる視線。とても愉快そうに歪められる口角。
旦那様が言葉を挟む余地もなく続けられる会話。
その全てが『王太子の婚約者を手放した上に、聖女を傷つけた愚か者』と言っているように聞こえ、旦那様は愕然としたと言います。
「あいつら、わしのことを小馬鹿にして笑いおってからに! 絶対に見返してやる!! 我が家の力を思い知るがいい」
「あぁ、アリシアが聖女ということは……わたくしは聖女の母となるのですよね?」
旦那様は大層憤慨され、奥様は喜色を浮かべられ、キャロラインお嬢様は変わらず無言で小鼻を膨らませておいでです。
奥様は、お気づきでしょうか? その聖女はクラディア家を除籍され、戸籍上は親子関係がないということを。
旦那様は、お気づきでしょうか? アリシアお嬢様がお生まれになってから、クラディア家の事業は急成長を遂げて力を付けたことを。
「そうだ、アリシアを呼び戻そう。除籍を撤回すればいいのだ。わしらの子なのだから、喜んで戻ってくるに違いない!」
「そうですわね、アリシアだって親が恋しいに違いありませんもの。きっと戻ってきますわ!」
長年、虐げられてきたアリシアお嬢様が、この家に戻ってくるわけないことすら、お気づきではないご様子。
「おい、アリシアの元へ使いを出せ!」
旦那様のご命令に私は頷き、部屋を後にしました。
窓の外は、アリシアお嬢様を祝福しているかのように雲一つない晴天でございます。
あぁ、アリシアお嬢様がいなくなったこのクラディア家は、これからどうなるのでしょうか。
しかし私の心にあるのは、ただ一つでございます。
(アリシアお嬢様、いえアリシア王太子妃殿下。どうかお幸せになってくださいませ)
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