65.愛されていた私
食事が終わった後、シリウス様と私は準備があるから先に失礼して、それぞれ自室に戻り只今絶賛荷造り中!
いつの間にか、私の荷物は増えていたようで、皆バタバタを忙しなく動いている。
マリー達に指示しながら、私もするべきことをして、やっと全ての荷物が纏まった。
運び出しは明日ということで寝る準備を整える。
ベッドに行こうとして窓の外を見た私はストールを羽織ると、そっと夜の庭に出た。
(明日は早朝に出発するから、早く寝なくてはならないのに……何だか落ち着かないわ)
バートと一緒に世話をした花を通り過ぎ、新芽を抜いた花の前で私は立ち止まる。
そこはちょうど庭が見渡せる位置で……昨日シリウス様が言っていた通り、今日は満月でいつもの庭が、より幻想的に見えた。
「この景色を見られるのも、今夜で最後なのね」
「そうだね」
思わず漏れた独り言に返事が返ってきたものだから、私は驚いて振り向いた。
そこにはシリウス様が立っていて「少し歩こうか」と腕を少し上げるので、私は「はい」と頷きながら手を添えてエスコートしてもらう。
あの時……シリウス様にプロポーズされた時、私は自分の望みを叶えたくて頷いたけど、本当に私でいいのかしら?
私は嬉しいけれど、本当にシリウス様は……今更だけど、自分に自信が持てなくて確認したくなった。
「シリウス様、本当に私と結婚していいのですか?」
「ねぇ、アリシアは僕のこと信じている?」
「それは、もちろん」
「それなら『君を愛している』という僕の言葉も信じてくれるよね?」
「あ……」
その言葉を聞いて私はハッとした。
そうよ、シリウス様は信頼に値する人で、その言葉も信じられる。
そしてシリウス様は嘘や冗談で、愛しているなんて言う人ではないわ。だから、その言葉は本心のはず。
私ってば、そんな簡単なことに今まで気づかなかったなんて。
いや、違う。本当は心のどこかでは分かっていたけど、自分に自信がなくて気づかない振りをしていたのだわ。
なんて私は不誠実な人間なのだろうか。
ネックレスをくれた時の優しい笑顔も、アリーをくれた時の『ずっと一緒にいたい』という言葉も、全部本心で……ちゃんとシリウス様は私に示してくれていたのに。
「ごめんなさい」
「え?」
私の突然の謝罪に、シリウス様は「何が?」と首を傾げる。
「今までシリウス様は嘘を言うことなく、ちゃんと本心を告げてくれていたのに……私、ちゃんと受け取っていませんでした」
「アリシア……」
「誰かが私を愛してくれるだなんて、思いもしなかったのです」
そう、愛されたいと願っておきながら、私なんて愛されるはずがないという気持ちが心の中にあった。
「きっと……それは仕方ないことだよ」
「え?」
俯いていた私は思わず顔を上げて、シリウス様を見た。
その顔は少し辛そうで、悲しげだった。
「本来なら無条件で愛情を与えてくれるはずの家族からの愛に恵まれなかったようだし、信頼していた友人達からも裏切られて……信じられるものがなかったのだろう?」
そうなのかしら?
言われてみれば、そうなのかもしれない。
家族から愛されず、信頼していた友人達からも掌を返されて、人を信じられなくなっていたのかも。
いや、信じるのが怖かったんだわ。また裏切られるのが怖かったのよ。
だから気づかない振りをして、思考を止めて考えないようにして、期待しないようにと自分を誤魔化した。
もしかしたらライラのぬいぐるみのように、失うのが怖かったのかもしれない。
「まぁ、一番の原因は家族だろうけど。愛情を示すどころか否定されていたのだから、自分が愛されるはずないと思ってしまうのも無理もないことだと思うよ。でもね……アリシア、君は愛される人間だよ。僕だけじゃない、父上も母上もアリシアのことを気に入ったみたいだし、何より君を慕ってきた使用人達はアリシアのことを大事に思っているよ」
腕に添えた手に触れながら紡がれるシリウス様の言葉に、私は大事なことを見落としていたのだと気づいた。
そうよ、マリー達からも……そう、私は愛情をもらっていたのだわ。
甘えてはいけないと一線を引いたのは私。私、ちゃんと愛されていたのね。
「アリシア、好きだよ」
シリウス様の慈しむような顔、その表情に胸がキュッと締め付けられて痛いのに目が離せない。
以前にも何度か見た表情。
アリーをくれた時、私の瞳を褒めてくれた時、他にも沢山……その度に、私の心は何かを感じていた。
あぁ、そうか、あの顔を……あの顔で私を見てもらいたかったのよ、両親から。
(あの表情を向けられて育ったのなら、なんて幸せなことだっただろう)
両親が与えてくれなかったもの、その全てをシリウス様がくれた。
急に切ない気持ちになって、胸が押しつぶされそうに苦しいのに、温かい何かで満たされる不思議な感覚。
気付けば、目の奥が熱くて涙が溢れていた。
それを見たシリウス様は慌てて私の頬に触れる。
「どうしたの? 何かイヤだった? それとも、どこか痛い?」
心配するシリウス様に、私は小さく首を横に振る。
痛いとしたら、それは心ね。
「シリウス様が、私が欲しかったもの全てを与えてくれたから……嬉しくて。今の表情が、とても素敵で」
「え、表情? どんな顔をしているのかな?」
「幼子を愛でるような慈愛に満ちた優しい顔です」
「あぁ、それは……アリシアのことが好きだから……顔に出てしまうんだね」
シリウス様は「だらしない顔になっていないかな?」と恥ずかしそうに笑う。
「いいえ、私は好きです、その表情。両親から向けられたかった表情」
最後に漏れた私の本音。それを聞いたシリウス様は飲み込むように息を詰まらせ、そっと私の身体を抱きしめた。
「これからは僕がいるから。ずっと一緒にいるからね」
「シリウス様……」
シリウス様の言葉が胸に沁み込んでいって、その腕の中はとても温かくて……
月明かりが優しく私達を包む中、なかなか涙は止まってくれなかった。
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