64.新しい家族
アリシア視点ですが、最後は国王視点になります。
頭の中で大謝罪会を開催していたところ、予想外の言葉が耳に届いた。
「アリシアちゃんは、もう私らの家族だろう?」
「え?」
国王陛下の言葉に戸惑いながらも顔上げると、今度は王妃様が穏やかな声で話し掛けてくる。
「アリシアさんは、わたくし達の息子であるシリウスの妻。つまり、わたくし達の娘になるのですから家族でしょう? 違いますか?」
「ち、違いません」
けど……えっ、そんな簡単に家族になれるのですか?
そんな容易に家族の中に入れるものなのですか?
「わたくし、娘が欲しかったので嬉しいですわ」
「私もだ。娘が出来たら可愛がりたいと思っておった」
「アリシアは僕の妻ですから、ほどほどにお願いします」
お二人の言葉に、シリウス様は牽制するように言う。
『僕の妻』その言葉の威力たるや。
いや、そんなことを考えている場合ではなくてね。
「あの……どうして会ったばかりの私を、そんな簡単に受け入れてくださるのですか?」
純粋な疑問だった。
知り合ったばかりの人間を、こうも簡単に疑うことなく信じられるのだろうか。
「伴侶を見つけてこそ一人前。シリウスが伴侶と決めた人を受け入れるのは当然だろう?」
ん、一人前? どういうことかしら? あぁ、結婚するから? と疑問に思っていると、察したシリウス様が「アリシアは知らないかもしれないけど」と教えてくれた。
「イングリルド国では、自分で伴侶を見つけてこそ一人前と言われているんだ」
「そうなのですか?」
「うん。家門の結びつきより、心の結びつきを重んじるだよ」
イングリルド国について学んではいたけど、そういうことは習っていなかったわ。
普通の貴族は逆なのでは? と思っていると、国王陛下が詳しく話してくださった。
「まぁ、普通は家門の結びつきやら、勢力を拡大することを望むからな。でも我が国では、それはあまり重要視されていない。大事なのは『自分で伴侶を見つける』こと。それは何物にも代え難い絆となって、唯一無二の愛を育む。そして固い絆は家門よりも強い結びつきとなり、その本物の愛は困難に打ち勝つ力となる。それが強さというものだ」
なるほど? 先程も『愛の力』とおっしゃっていたけど、そういうのを重んじているのですね。
「だから、シリウスが伴侶と決めた相手を否定するわけなかろう」
「えぇ、シリウスが選んだのですから間違いありませんわ」
その言葉から、お二人がシリウス様の判断を、シリウス様自身を信頼していることがよく分かる。
でも、私のことを知らないのに……シリウス様の判断だけで信じられるの?
「それに、私は国王として色々な人間を見てきたからなぁ。一目見れば、どんな人間なのか分かるものだ。アリシアちゃんは正しい心を持った誠実な人間だろう」
「えぇ、それに純粋で聡明で心根の優しい人ですわ」
お二人の私への評価。
褒められて嬉しい気持ちになるものの、私はそんなに立派な人間ではないし、過剰評価されていると感じてしまう。
「あと、まぁアリシアちゃんと会うのは初めてだが、シリウスから色々聞いていたから初対面な気がしないな」
「えぇ、こちらが勝手に親近感を持ってしまっていますわね」
え、シリウス様が私のこと話していた?
ななな、何を……どこまで話しているのでしょうか、シリウス様!
思わずシリウス様を見るが、微笑んでいるだけで特に何も応えてはくれない。
いや、だから何をどこまで? せめて打ち合わせを!
「アリシアは、もう僕らの家族だよ」
ダメだわ、察してもらえていない! 先程みたいに察して欲しいのですが!
いつもの心を読む程の勘の良さは何処へ?
私の戸惑いをどう受け取られたのか分からないけれど、三人とも私に微笑みを向けている。
「えぇ、ですから私のことは、お義母様と呼んでくださいな」
「なっ、ずるいぞ。それなら私のことも、お義父様と呼んでくれ」
優しい口調の王妃様に、何かを張り合うような様子で国王陛下も呼び方を提案している。
「え、でも……まだ正式に結婚したわけではないですよね?」
「まぁ手続き上は、まだね」
私の疑問にシリウス様が答えてくれる。
そうですよね? まだ婚約者という立場ですよね?
それなのに……お義母様、お義父様とお呼びするのは気が早いと思うのですが。
「それなら心配いらないぞ。ダノン国王から婚姻の許可は得た。というか、アリシアちゃんをダノン国民から外し、イングリルド国民とする許可を得たから、後はこちらの手続き次第だ」
「さすが父上、抜かりないですね」
シリウス様は賞賛するように頷いている。
え、国籍も変わったということですか? 私が知らない間に?
「国に帰って書類さえ出してしまえば、正式な夫婦になるぞ」
国王陛下の言葉に、シリウス様は私を見て「良かったね」と笑みを浮かべている。
あの……他に、私の知らないところで勝手に手続きが行われていたりしませんよね? 私に言っていないこと、ありませんよね?
あぁ、外堀を埋められるというのは、こういうことを言うのね、きっと。
私が何だか諦めの境地にいると、王妃様が嗜めるように国王陛下に声を掛けた。
「ところで“アリシアちゃん”とは慣れ慣れし過ぎませんか?」
「そうか? アリシアちゃんは可愛いからな。嫌だったか?」
「え! 嫌なんて、そんなことはありません」
「ほれ、本人が良いと言っているのだから良かろう」
「全く……アリシアさん、嫌なことは嫌だとハッキリ言って良いのですからね」
王妃様は「今後のためにも」と言う。こういうことは始めが肝心だと。
確かにそうかもしれませんが、嫌だと言えるわけがないですよね? まぁ嫌だなんて思っていませんけど。
「シリウスは、私らのことを大して話していなかったのだろう? まぁ、追々呼んでくれればいいぞ」
「そうですわね。アリシアさんの心の準備が出来たら、そう呼んでくださいな」
あぁ、さすがシリウス様のご両親。
シリウス様と同じように否定しないし、強制もしない。私のことを尊重してくれる。それだけで大事に思われていると伝わってくる。
失礼に当たらないだろうかとフェリシア達を見ても、シリウス様を見ても大丈夫だと頷いていた。
「ありがとうございます……お義父様、お義母様」
それなら私は素直に受け取ろうと、勇気を持って声に出した。
それこそ始めが肝心。
後から呼ぼうと思ったらタイミングが分からず、いつまでも呼べないかもしれない。それに折角、私を受け入れてくださったのだから、私も拒否せず受け入れたい。
お二人は……いや、シリウス様も穏やかな笑みを浮かべてくれた。
******
和やかに食事が終わると、シリウスとアリシアちゃんは荷造りのため部屋を後にした。
その直前『もう用は済んだから、明日シリウス達と共に出立する』と告げると、アリシアちゃんは『来たばかりなのに直ぐ帰国するのは、お疲れでは?』と心配してくれたが、私としては早々に帰国したいと思っていた。
「アリシアちゃんは聞いていた通り良い子だな」
「えぇ、本当に」
「あんな良い子を虐げるとは、クラディア伯爵は何を考えているのか」
「それは伯爵だけではないでしょう」
「あぁ、まったく……」
思い出されるのは、昼間に行われたダノン国王との会合での出来事―――
主要な議案を話し合った後、ついでというように「こちらの国にいるアリシア・クロフォードを我が息子の嫁として迎えたいのだが」と切り出し、アリシアちゃんの国籍をイングリルド国へ移したいと提案した。
ダノン国王が「アリシア?」と首を傾げたところ、近くにいた大臣の一人が心当たりがあると声を上げる。
「あぁ、あれですよ。クラディア家を除籍されて、クロフォード家の養子となった“魔力無し”の令嬢ですよ」
「“魔力無し”の無能か。それならば特に問題はないな。ご自由にされるとよい」
その言葉に、こめかみを引き攣らせながらも私は表情を崩さず「では、こちらに署名を」と必要書類を差し出した。
―――という、やり取りがあったのだが、今思い返しても腹立たしい。
「まったく! 王太子の嫁として迎えると言っている私の目の前で、不躾に無能と言うとは!」
「国王ですら、そのような無能なのですよ」
「シリウスの提案通り、婚姻の許可だけではなく、アリシアちゃんの国籍を完全に移す手続きをして正解だったな」
「えぇ、このような国とアリシアさんはキッパリ縁を切るべきですわ。しかし、アリシアさんは……」
「あぁ、気づいたか。アリシアちゃんは自己肯定力が低いな」
「それに自己評価もです」
「まぁ、アリシアちゃんの育った環境を考えると当然だとは思うが」
「後はシリウスが何とかするでしょう」
「愛の力だな」
「えぇ、愛の力です」
私は妻の手を取り、互いに微笑み見つめ合った。
お読みいただき、ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)⁾⁾
また、ブックマーク・いいね・評価もありがとうございます!
とっても嬉しいです!!励みになります♪
(☆☆☆☆☆を★★★★★にポチっとしていただけると泣いて喜びます!!)
今後とも応援いただけますと幸いです。宜しくお願い致します٩(´ᗜˋ*)




