63.緊張の晩餐
食堂に入ると、国王夫妻は既に食前酒を召し上がっていた。
「おぉ、来たか」
「お待たせしました」
国王陛下の言葉に、微笑を浮かべたシリウス様は軽く頭を傾け、席へと向かう。
……ハッ、私はちゃんと挨拶した方がいいのでは!
あぁ、えっと……こういう時は「国王陛下と王妃様に、ご挨拶申し上げます」って言うのだったかしら……本には、そう書いてあったはず。あれ? こういう大事な挨拶をフェリシアから、しっかりと教わっていないのだけど……何故?!
フェリシアはシリウス様の使用人なのだから、シリウス様が王太子だと知っていたのよね? いずれ、こういう対面の場面が訪れることは想定していたはず。
それなのに教わっていないのは、どういうこと?! と目線を送ったけど、フェリシアは俯き加減のままで……ダメだわ、全然目が合わない!!
どうしようか戸惑っている私に「アリシア」と小さく呼ぶ声がした。
そちらに目を向けると、シリウス様が椅子を引いてくれている。そして「大丈夫だよ」というように、ニコリと笑った。
あ、えっ、正式な挨拶をしなくても大丈夫なのですか?
あぁでも、このまま固まっているわけにもいかないですね?
ちゃんと挨拶をするべきなら、フェリシアかマリーか、何ならシリウス様が促してくれるはず!
そう信じて、私はシリウス様と同じように微笑みながら、軽く会釈して椅子に腰かける。隣にシリウス様も座ったところで料理が運ばれてきた。
眼前の国王陛下は、何やら少し厳しい表情を浮かべている。先程キャロラインに対峙した時も思ったけど、さすが王様。貫禄がすごい……威圧されてしまう。
「いやー。あのシリウスも、やっと相手と巡り会えたようだな」
「えぇ、本当に。ちゃんと自分で見つけられたのですね」
「ありがとうございます。父上、母上」
あれ? 急に表情が穏やかに?
纏っていた凄みも、どこかへ行ってしまっている。
私が不思議に思っていると、シリウス様が小声で「父上が怖いのは外でだけだから」と言う。
え、あっ、そうなのですね?
戦々恐々としていた私は拍子抜けしたというか……胸を撫でおろした。
「しかも、こんな可愛いお嬢さんを妻に迎えるとは、隅に置けないな」
「素敵な伴侶を迎えましたね、シリウス」
「はい、アリシアは素晴らしい女性です」
ね、アリシア! とシリウス様は微笑みながら私を見る。
えっ、話の矛先が私に?!
しかも内容が非常に照れてしまうというか、恥ずかしいのですが! えっと、こういう時は何と返事するのが正解なのでしょうか?!
私は一瞬悩んで、こういう時は“笑って誤魔化す“の出番ね! と”全肯定していないですよ“という気持ちを込めて微笑みながら少~しだけ頷いた。
と、次の瞬間、国王夫妻が驚いたように目を見開きながら、こちらを見つめる。
あぁぁ!! 今の反応はダメでしたか?! やはり何か言わないとダメでしたか? それともマナーの方ですか?
いや、マナーは問題ないはず。普通にサラダを食べているだけだもの。サラダは、そんなに難しいマナーなどない料理よ。
「シリウス、お前……野菜を」
「今、野菜を食べたのですか、シリウス」
お二人は驚嘆の声を上げて……え、野菜?
シリウス様を見ると、いつも通り普通にサラダを口に運んでいるだけだった。
んんん? 何が驚くことなのかしら?
「あぁ、アリシアのおかげで食べるようになりました」
サラッと言ったシリウス様の言葉に、視線が私に集まる。
「そうだったのか。いやー、あの野菜嫌いのシリウスに野菜を食べさせることが出来るとは」
「えぇ、えぇ。どんなに言っても食べてはくれなかったのに」
国王夫妻……もといシリウス様のご両親は、とても感心している。
“国王陛下“と身分を意識して恐れ多い気持ちになっていたけど、シリウス様のご両親だと思うと少し肩の力が抜ける気がした。
それにしても、そこまで驚くとは。
ふと、私がクロフォード家に来た日の夕食のことを思い出した。
そういえば、あの時シリウス様は『野菜が好きではなくて』と言っていたけど、ご両親の反応を見る限り“好きでない”レベルではなく、大嫌いって感じみたい。
あ、もしかして! シリウス様がサラダを食べ切ったあの時、食堂での場の空気が変わった気がしたのは、野菜嫌いのシリウス様が全部食べたからだったの?
「愛の力だな」
「愛の力ですわね」
「愛の力だというのは認めますけど、僕の野菜嫌いについては、あまり言わないでください。父上だって、ピーマンが嫌いではありませんか」
「ぐむぅ。私はピーマンが嫌いなだけで、他の野菜は食べられるからな」
シリウス様に指摘され、国王陛下は口を尖らせている。
というか、愛の力の部分は認めるのですね、シリウス様。何だか顔が熱くなってしまうのですが。
「二人とも、野菜が嫌いな時点で同じです。全く情けない」
王妃様がピシャリと言い切ると、注意された二人は少し項垂れた。
「ともあれ野菜を食べるようになって、母として嬉しい限りです。野菜嫌いを克服して偉いですね、シリウス」
「あぁ、あぁ。野菜をちゃんと食べるなんて偉いな、シリウス」
「子ども扱いしないでください。もう僕は子どもではないのですから」
「ハハハッ、そうは言ってもシリウスは私の子だからなぁ」
「えぇ、いつまで経っても子は子です」
家族らしい会話を微笑ましく思ってしまう。
シリウス様が、ご両親から愛されて育ったのがよく分かる。
立場上、忙しいだろうし、普通の貴族の家庭と同じようには出来なかっただろうけど、それでもシリウス様を大切に思い、注げるだけ愛情を注いだのだと感じた。
家族の愛とは、こういうものなのではないだろうか。
少し、羨ましく思えた……私も、その中に入りたいと。
「アリシア?」
ふいにシリウス様に声を掛けられてハッとした。
どうかしたの? と顔を覗き込まれて、皆が私の反応を窺っていることが分かる。何か言わないと!
「あ、えっと。シリウス様は愛されているのだなと思いまして、羨ましいなと」
あぁぁ、最後に余計な一言を口走ってしまった!
慌てた所為か、つい胸の内が漏れてしまったわ。
「何を言っているのだ」
国王陛下の声が驚きに満ちているようにも、呆れているようにも聞こえる。
(すみません、すみません……烏滸がましいことを思いました!)
私は心の中で盛大に謝罪した。
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