60.真相解明
シリウス様は本物の王子様でした。
王子様みたいだと思うことが何度かあったけど、本当に本物の王子様でした!
大事なことだから二度言いましたよ!
今、起きたことが信じられない。シリウス様は本当に私のことを?
シリウス様の真摯で情熱的な瞳に真っすぐ見つめられた瞬間、心臓がドキドキ高鳴って息が止まった。
先程のダンスの時は夢心地だと思ったけれど、今はそれ以上の心地。
頭が、心がフワフワして、今にもどこかへ飛んでいってしまうのではないかと思うほど。
シリウス様はまるで王子様のようで、いや実際に王子様なのだけど、女の子なら誰もが憧れるような夢のようなプロポーズだった。
何だか頭がポ~ッとしてきて、クラクラしてしまって、嬉しさでいっぱいで。他のことを考える余裕がなくて、私は自分の望むままに頷いてしまったけど、シリウス様のプロポーズをお受けして本当に良かったのかしら。
良かったのかといえば、キャロラインのことも……あれで良かったのかしら?
(それにしても驚いたわ。キャロラインが噂を流した張本人だったとは)
そこまでして私を学園から追い出したかったの?
まぁキャロラインは私のことを嫌っていたものね。何故かは分からないけど。
でももう、それはどうでもいいことだわ。もうキャロラインに会うことはないのだから。
私は馬車に揺られながら、シリウス様から受け取った花束に視線を落とす。
そう。今、シリウス様と私は二人きりで馬車に乗って帰途についている。
シリウス様のご両親は乗って来た馬車があるので、別々の馬車で移動することになった。
突然のご両親との初対面に、心構えが出来ていなくて戸惑っていたから有難いわ。
チラリとシリウス様を見ると、こちらの視線に気づいたのかニコリと微笑みが返される。
……というか、待って! 考えてみれば色々疑問があるのですが!!
「あの、シリウス様」
そう声を掛けた時、馬車がクロフォード邸に到着したようで扉が開かれる。
えっ、まさか学園から屋敷まで私ずっと惚けていたの?
それは、それで恥ずかしいというか、申し訳ないというか。
私が一人で焦っていると、シリウス様は馬車から降りて、手を差し出しながら微笑を浮かべた。
「あぁ、ちゃんと説明しなくてはね。僕の部屋で話そうか」
「はい」
私は頷きながら、その手を取った。
先に着替えるか聞かれたけど、それより話が聞きたいと言うと、すぐにシリウス様の部屋に通され、私達はソファに腰掛ける。紅茶をテーブルに並べるとジュリアンは退室したので、部屋にはシリウス様と二人きりになった。
初めてシリウス様の部屋に入ったけど、品のある落ち着いた雰囲気でシリウス様にとても合っている。
(それに何だか、とても良い香りが!)
シリウス様に抱きしめられた時や、先程のダンスの時にも香った……何故だか惹かれる香りにドキドキしてしまう。
私は急に落ち着かない気持ちになってしまって、誤魔化すように紅茶を口にした。
シリウス様も紅茶を一口飲み、フゥと息を吐く。
「まずは謝らせて欲しい。僕の素性を隠していて、すまなかった」
「そ、そんな、シリウス様が謝る必要はないです。何か事情があるのですよね?」
下げていた頭を上げたシリウス様は、申し訳なさそうな顔をしていた。
「ありがとう、アリシア。実は、僕の身分を卒業まで明かさないことがメラルージュ学園に通う条件だったんだ」
「そうだったのですね」
まさか身分を隠した入学だったとは。
でもまぁ、そうよね。隣国の王太子が留学しているなんて、ちょっとした騒ぎになってしまうものね? しかもシリウス様は人気者だし! いやシリウス様の人気に身分は関係なかったわ。王族だから警備とか、あれこれが心配だったのかもしれないわね。
「万が一、僕の素性がバレたら即刻帰国するという約束だったから、今日まで明かすことが出来なくて、ごめんね」
「いえ、そんな事情があったとは」
ふと、庭でシリウス様が水魔法を使って手を綺麗にしたことを思い出した。
あ、イングリルド国では幼少期から魔法の訓練をするから、シリウス様は魔法を使えたのね。でも魔法が使えることを明かしてしまうと、身分がバレてしまう可能性があったから内緒だったと!
なるほどと納得していると、また別の疑問が湧いてくる。
ん、シリウス様は王族なのよね? ということは、このクロフォード家とはどういう関係? というか私は今、どういう状況にあるのかしら?
「あの、このクロフォード家とシリウス様は」
「あぁ、クロフォード家とは遠い親戚でね。身分を隠すのに丁度いいと、クロフォードの名を借りることになったんだ。ただ僕は家名を借りただけだけど、アリシアは正式にクロフォード家の人間となるように手続してあるよ」
んんん? あれ?
私はシリウス様と結婚していたはずだけど、そのシリウス様はクロフォードの家名を借りていただけで、でも私は正式にクロフォードの人間で……そうすると私は誰と結婚していたことになるのかしら???
「あ、言ってなかったよね。アリシアの為の手続きは婚姻ではなく、養子だったんだ」
「えっ……」
えぇぇ!!!!
そ、そうだったのですか???
え、でもシリウス様は学園で『籍を移した』と言っていたし、その後に事情を説明してくれた時も確か『クロフォード家に入籍した』『入籍届を出した』と……んんん、待って。思い起こしてみると、シリウス様は一言も「結婚した」とは言ってないわ。周りが勝手に結婚したと思っただけで……えぇぇ、そういうこと?! 入籍と聞いたら普通、結婚だと思いませんか??
えっ、でもでもクラディア家を出る時は皆お祝いムードで……え、皆も勘違いしていたの?
わざと学園では誤解させるように言ったけど、クラディア家の使用人達も誤解させてしまっていたとシリウス様は言っている。えぇぇ! 待って、というか何故……
「あの、シリウス様。何故、最初に養子届けを出したと言ってくださらなかったのですか?」
「それは……アリシアに僕を意識して欲しかったから。養子と聞いたらアリシアは僕と兄妹になると思って、男として意識してくれなくなりそうで」
うっ、あの時の私なら間違いなくそう思ったでしょうから、反論出来ないわ。
「それに養子と知れば、卒業したら平民になるのだからとドレスもアクセサリーも遠慮して受け取ってくれないと思ってね」
それは、ちょっと……今もそうですけどね!
シリウス様の贈り物は時々過剰なのですよ。ハッ、もしかして街へ出掛けた時に何を見ても「買う?」と聞いてきたり、ぬいぐるみを買い占めようとしたのは王族特有の金銭感覚の所為?!
「それにデートにも行ってくれないと思ったから」
「デート?」
「ほら、市場へ出掛けたり、温室植物園に行っただろう?」
「あれ、デートだったのですか?!」
「え、何だと思っていたの?!」
二人揃って、それぞれ別の驚きの声を上げた。
「だって市場の時は『街の様子を知ることも勉強になる』とシリウス様が言うので、てっきり」
「それは! アリシアがいつものように休日の勉強を優先しそうだったから」
うっ、確かに。あの時は勉強を取るか、かなり悩んだわ。
でも、だからってシリウス様の言い方では……うぅ。
それに温室植物園は興味があったし、誘われたから行ったけど……あれはデートだったの?! そうと知っていれば……いや、知っていても何も変わらなかったわね、きっと。あの時の私は、勉強やダンスのことで頭がいっぱいだったもの。
(でも、そう……そうだったのね)
初めから私は結婚していたわけではなくて養子だったのね。
だから婚約期間とか結婚式の話とか、“結婚”に纏わるあれこれの問題が出てこなかったと。
それに別れることになっても『綺麗さっぱり処理できるから』と言われたのは、結婚ではなかったからなのね。
全容が解明されると絡まっていた糸が解けるように、不自然と思われた色々なことがスッキリと消えていく。
点と点が線で繋がるというのは、こういうことかしら? と思うぐらい綺麗に納得出来た。
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11月22日、数話後に加えるため、一部削除しました。




