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魔力無しですが溺愛されて聖女の力に目覚めました  作者: しろまり


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59.キャロラインの失墜

キャロライン視点になります。(最後、シリウス視点になります)

私が人ゴミをかき分けてシリウス様の前に立つと、アイツはビクッと肩を震わせた。


(間違いは正さなくてはね! アイツは幸せになるべきではないんだから!)


「シリウス様、お待ちになってください。シリウス様は、そいつに騙されているのです」


私は口元に手を添えて、皆が可愛いと言う仕草でシリウス様に訴える。


「何を言っているのかな?」

「そいつは酷い人間なのです。噂をご存じないのですか? そいつはわたくしの大事な物を燃やしたり、おやつを取り上げて、わたくしを何度も罵ったのですよ。そんな酷い人間と結婚なんて」

「知っているよ。でもそれは全て、キャロライン嬢がアリシアにしたことだろう?」

「え?」

「アリシアの大切なぬいぐるみを燃やし、一緒の食事が嫌だと言っておやつも取り上げ、酷い言葉を浴びせていたのは君だろう?」


なっ……何でシリウス様が詳しく知っているの?

アイツね、アイツが言いつけたのね! 私を貶めようとしたのね! 許せない!


「それだけではありませんわ! 教科書を隠したり、人を突き飛ばしたり、食事に悪戯したり……そうだわ、シリウス様に怪我だって負わせたではありませんか」


これは私の流した噂に付いた尾ひれ。

本当かどうか知らないけど、そんなことはどうでもいいのよ。アイツを陥れることが出来れば!


「それは全部、アリシアがされたことだ。それに僕が怪我したのはアリシアを庇ったからで、悪いのは突き飛ばしてきた令嬢だ」


そ、そんな……。

思ってもみない反論に戸惑い、返す言葉が上手く出てこない。


「そ、それでも、そいつは忌み」

「なぁ、キャロライン嬢。そんなことして楽しいか?」


私の言葉を遮って口を挟んだのは、いつの間にか傍まで来ていたライオネル殿下だった。その顔は嘆かわしいと言わんばかりに呆れた表情をしている。


「もう同じ家の人間ではないにしても、実の姉の有りもしない噂を流して何がしたいんだ?」

「な、何をおっしゃっているのですか、殿下」

「調べはついている。シリウスに頼まれて、詳しく調査したからな」


そう言って、殿下は紙の束を私に投げつけてきた。


何の書類かしら? と思い、ざっと目を通す。

そこには私の流した噂について調査された報告が書かれていた。


何で?

何で殿下が知っているの?


先程までの殿下の表情が歪み、今度は眉間に皺を寄せた冷たい目を私に向けてきた。


「一連の噂の出所はキャロライン嬢、君だ」


殿下の言葉に、周りが一気にざわついた。


何で殿下が……私のことを好きなはずなのに、何故こんなことを?

殿下はシリウス様に頼まれたと言っていたけど……分かったわ! アイツね。

アイツがシリウス様を唆して、こんな酷いことをさせたんだわ! 卑怯者!!


私は非難の目をアイツに向けたけど、シリウス様が庇うように前に立ちはだかっているから届かない。苛立ちから私が奥歯を噛むと同時に、周りのざわつきを一喝したのはイングリルド国王の声だった。


「のぅ、先程から聞いていれば……その娘は、大事な我が息子の婚約者をよもや愚弄しているのではあるまいな?」


国王が低い声で静かに問いかける。

その声は会場内によく響き、私は威圧感に圧倒されてしまう。


「これは、我が国の貴族が大変失礼致しました。大国であるイングリルド国の未来の王太子妃を侮辱するなど、王族に対する不敬罪とも受け取れること。如何様にも処罰致しますので、どうかお許しください」


国王の言葉に、ライオネル殿下は頭を下げる。


何で、何で私を突き出すようなことをするの?

王族に対する不敬罪ですって?!


狼狽えている私を余所に、国王はシリウス様に視線を移すと声を掛けた。


「どうする、シリウス」

「そうですね。アリシア、君はどうしたい?」

「えっ、私ですか?」

「うん、被害を受けたのはアリシアだからね」


いきなり話しを振られて、アイツは「えーっと」と戸惑いながらシリウス様に尋ねる。


「あの、私はイングリルド国へ行くことになるのですよね?」

「そうしてもらえると嬉しいけど」

「それなら、もう会うこともないと思うので特にどうとは。あっ今後、私に一切関わらないと……いえ、私と私の周りの人に危害を加えないと約束してくれるのなら、それで十分です」


アイツはシリウス様の影からチラリと私を一瞥すると、罰する必要はないと言った。


「アリシアらしいね」

「ふむ、賢明な判断だな」

「えぇ、利口ですわね」


シリウス様と国王夫妻が頷くと、様子を窺っていた殿下が私とアイツの間に立つ。


「それでは、俺が誓約の証人となりましょう」

「なっ、殿下、何故ですか!」


まるで私は罪人で、殿下は刑の執行人のような言い方に、思わず反論の声を上げた。


「ん?」

「何故、わたくしを守ってくださらないのですか!」

「守る? もしかして俺が君を庇うとでも思っているのか?」


呆気に取られているような顔をする殿下に、私は首を傾げた。


「だって、わたくしと殿下の仲ではありませんか」

「君と俺の仲? 調べるために多少は君に近づいたけど、君とは只のクラスメイトだが」

「そんな! わたくしと殿下は婚約するのでしょう?」

「はぁ? 君は何を言っているんだ?」

「だって、今日は王太子殿下の婚約発表があるって」

「あぁ、イングリルド国の王太子であるシリウスと、アリシア嬢の婚約発表という名の公開プロポーズがな」

「えっ……」


王太子殿下の婚約発表って、ライオネル殿下ではなくてシリウス様の? そしてアイツの? そんな、そんな! そんなことないわ! 何かの間違いよ!


「キャロライン嬢、何を勘違いしているのか知らないが、万に一つも俺と君が婚約することはない。それに俺には心に決めた女性がいるんだ。変な妄言は止してくれ、迷惑だ」

「そ、そんな……」


ひどく眩暈がした。

足に力が入らなくて、私はその場に座り込んでしまう。

小刻みに震える手が……異様に冷たかった。


「話しは終わったようだな。私らは帰るとしよう」


イングリルド国王の「この有様では、もう卒業パーティーどころではないだろう」という言葉に、国王夫妻はアイツを連れて出口へ向かって歩き出す。


ふとシリウス様が振り返り、小声で話し掛けてきた。


「キャロライン嬢。アリシアに何故あそこまで酷い仕打ちをしたんだ? アリシアは君に何もしていないだろう?」


不思議そうに、シリウス様は「ずっと気になっていた」と言う。

何を言っているのかしら? そんな当たり前のこと。


「そんなの決まってますわ。お父様とお母様がアイツを嫌っているからですわ」

「そ、そんな理由で? そんな理由でアリシアを傷つけたのか?!」


私が答えると、眉間に皺を寄せたシリウス様は驚きの声を上げた。


(当然のことでしょう? 何を驚くことがあるのかしら?)


お父様もお母様もアイツを嫌っている。だから私も嫌いよ。


それにアイツが嫌われているから、お父様達の愛は私のもの。私だけのもの。

アイツが好かれたら、私に向けられる愛が減ってしまうじゃない! だからアイツは私にとって邪魔な存在。


(アイツなんて、いなくなればいいのよ)


そしてアイツが虐げられれば虐げられる程、私は嬉しい気持ちになる。

だからアイツは幸せになってはいけないの。不幸せであるべきなの。


(それなのに、アイツが愛されているなんて! 許せない!)


唖然としていたシリウス様は、ハァと溜息を吐いて「もういい」と首を振る。横にいた殿下は励ますように、シリウス様の肩に手を置いた。


「シリウス、もう行こう」

「あぁ」


殿下は兵士達に何か指示を出しに行き、シリウス様はアイツの後を追いかけて行った。


残された私の周りからはヒソヒソと、それでいてハッキリ聞こえる音量で話す声がする。


「なぁ、今の話し聞いたか?」

「あの噂はアリシア嬢がしたことじゃなくて、されていたことだったのか」

「それじゃあ、暴力を振るっていたのはキャロライン嬢なんだな」

「教科書やドレスを破ったというのもキャロライン嬢か」


そこかしこから『とんだ悪女だ』『なんて非道な』と声がする。


違う、違う!

私はそんな噂は流してない!


それは噂を聞いた人達が勝手に大袈裟にしていっただけで、私はそこまで言ってはいないわ!


「ねぇ、あれ見ました?」

「えぇ、まるで自分が主役だと言わんばかりの派手なドレス。場違いですこと」

「ライオネル殿下のお眼鏡にかなうと思っていたようですけど。とんだ恥知らずですわね」

「成績もアリシア様とは比べものにならないほど悪いとか。痴れ者ではありませんか」

「あり得ませんわ。あんな醜い人が王太子妃になれると思っていたとは。思い上がりも甚だしい」


冷やかな視線が向けられ、口々に罵る言葉が漏れる。


やめて、やめて! それ以上、何も言わないで! 私を嘲笑わないで! 侮辱しないで! 私は愛される人間なのよ! そんな目で私を見ないで!


私は目を閉じて、耳を塞いだ。



******



先程、キャロライン嬢の登場にアリシアの肩が僅かに震えた。

やはりキャロライン嬢に対して思うところがあるのだろう。当然だ、酷いことをされてきたのだから。


だから疑問を解消したくてキャロライン嬢に問うたのだが……首を傾げ、さも当たり前だと言い切るように返ってきた答えには心底驚いた。あまりの短絡的で、低劣さに呆れて言葉が出てこない。


まぁいい、彼女の罪は皆の知るところとなり、公になった。

今後、この国の社交界において生きづらくなるに違いないが、それも自業自得だろう。


まぁ、僕にもアリシアにも関係ないことだ。あの誓約があればアリシアは二度と危害を加えられることはないし、もう関わることもないのだから。

何というか、キャロラインがしたことは全部自分に返ってきましたね。

そもそもおバカなキャロラインは発想力が乏しかったから、自分が“したこと”を“されたこと”として噂に流します。尾ひれがついてイイ気味と思ったら、してないことも自分の仕業になってしまいました。

そしてアリシアを貶めるために噂を流したキャロラインは、どこからか流れてきた婚約の噂を信じて恥ずかしい結果になる。噂に翻弄される様は、まさに因果応報かなと思います。

それに加え、アリシアが受けてきた蔑む視線や侮る言葉を今度は自分が受ける羽目になったキャロライン。でも反応が全然違うのは、心根の違いですねぇ。


ちなみに、婚約の噂を流したのはライオネルです。こうなると見越して流しました(笑

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