54.初めてのダンスと炭酸ジュース
ペアを組んだ男女がホールの中央に集まる。
私も手を引かれ、シリウス様と共にゆっくり歩いて行く。
大丈夫かしら? 上手く踊れるかしら?
シリウス様の足を踏まないように気をつけなくては!
そんな緊張を感じている私の腰に手を添え、身を寄せたシリウス様。
いつもと違う密着度にドキドキして、より鼓動が早くなる。
「アリシア、大丈夫だよ。僕に任せて」
シリウス様の言葉と同時に音楽が流れ始めた。
私の不安は不要だったようで、無事シリウス様の足を踏むことなく踊れている。
それは練習したおかげでもあるけど、何よりシリウス様が上手いからだと思う。
自然と身体が動いていく。
シリウス様は聞いていた通り、ダンスが上手で拙い私をリードしてくれる。
(あぁ、これがリードされるということなのね)
そのことに男性を意識してしまって、顔が熱くなる。
それを誤魔化すように私は意識をダンスに向けた。
シリウス様の言っていた通り、身を任せればいい。
下手に意識せず、力を抜いて身を委ねた方が軽やかに動けた。
ステップはちゃんと身体が覚えてくれている。
ターンに合わせてクルッと回れば、ドレスの裾と下ろした髪がふわりとなびく。
(楽しいわ!)
ダンスがこんなにも楽しいものだなんて知らなかった。気分が高揚して心が弾む。
私がニッコリと笑みを浮かべてシリウス様を見たら、同じように笑みを返してくれた。
「アリシア、楽しそうだね」
「はい、とっても!」
「それでは、もう少し踊ろうか」
シリウス様の素敵な提案に、私は迷うことなく頷いた。
煌めくシャンデリア、楽器が奏でるハーモニー。
それに合わせて踊るシリウス様と私。
私の視界にはシリウス様だけが映り、きっとシリウス様の視界にも私しかいない。まるで二人だけの世界にいるようで、互いだけを感じる夢のような時間。
私の最初で最後のダンス。
このまま時が止まればいいのに……魔法が解けないように。
そう願わずにはいられなかった。
「少し休憩しようか」
2、3曲踊ったところで、シリウス様が問いかけてきた。
気持ちは踊り続けたかったのだけれど、身体は疲れを感じている。
今日は練習と違って、ドレスという装備品がある所為ね。
名残惜しく感じながらも頷くと、シリウス様は私の手を取ったままダンスの輪から外れた。そして近くのテーブルに置かれていたグラスを2つ手に取ると、1つを私に渡してテラスへと向かう。
会場の熱気から逃れた外の風は少しひんやりしていて、火照った身体には心地よかった。
気付けば、連続で踊った所為か少し喉が渇いている。
それはシリウス様もだったようで、グラスに口を付けたから私も同じ動作をした
「んん?!」
思わず手で口を押えてしまった。吐き出さなかった私、えらいわ。
「えっ、アリシア、どうしたの?」
「く、口の中が……痛いです」
「えぇ??」
シリウス様は何事かと慌てている。私も何が起きたのか、よく分からない。
「まさか毒が!」
ハッとした様子のシリウス様は、私のグラスを攫うように取り一口飲んだ。
えっ、毒?! まさか!!
というか、毒だったら飲んではいけませんよ、シリウス様!! 何で飲んでしまったのですか?!
ななな何てことをしているんですか! と慌てる私を余所に、シリウス様は涼しい顔で
「いや、毒は入っていないな。ただの炭酸ジュースだ」
と不思議そうにしている。
良かった、毒が入っていなくて。
私はともかく、シリウス様に何かあったら大変よ。
というか、待って。
シリウス様は今、何と言った?
「炭酸ジュース?」
「もしかして……炭酸入りの飲み物を飲むのは初めて? これ、炭酸入りのブドウジュースなんだけど」
シリウス様は私にグラスを返しながら、自身のグラスを少し掲げた。明かりに照らされたグラスの中には小さな気泡が、いくつも立ち上がっているのが見える。
炭酸?
あっ、あー! これが、あの炭酸ジュース?
「は、初めて飲みました」
「そうか。うちでも出して、慣れておいたら良かったね」
シリウス様は大事なくて良かったと笑っている。
お騒がせしてしまって申し訳ないです……でも、そう、これが炭酸ジュースなのね。もう一口飲んでみた。口の中や喉がピリピリする。
炭酸ジュースというのは、日常で飲むことはあまりない。
こういうパーティーの際、シャンパンの代わりに出されるものだから。
だから、これを飲めるのは今日だけだろう。
そう思うと何やら惜しい気がして、私はグラスを傾け二度三度と口に運んだ。慣れてくると、結構美味しいわ!
「シュワシュワして、刺激が新鮮です」
弾んだ声で感想を述べたら、シリウス様は楽しそうに笑って「それなら食事の時にも出してもらおうか」なんて言っている。
その機会は、もうないと思うのです……。
「どうだった? 初めてのダンスは?」
「楽しかったです。あのまま、ずっと踊っていたかったです!」
「ふふっ、それは良かった」
感想を聞かれ、素直に思ったままを答えると、シリウス様は嬉しそうに目を細めた。
「ねぇアリシア、君が望むなら叶えられるんだよ」
「え?」
「アリシア、君がどう思っているのか分かるよ。除籍されそうになっている君を助けるために、僕が同情して契約結婚を持ち掛けたと思っているんだろう? でも違うんだ。あの時はアリシアに『うん』と頷いて欲しくて、あんな風に言ってしまったけど……誤解させてすまなかった。僕は、僕のために行動したんだ。あの時、君に言った僕の気持ちは同情なんかじゃない、嘘偽りのない本心なんだよ。本当の」
え? 同情ではない? 本心?
えっと、あの時シリウス様は何と言ったのだっけ? 確か―――
『君のことが好きなんだ』
え、シリウス様が本当に私を? そんな、まさか。
そんな、私に都合の良いことがあるわけ……。
ダンスで興奮している所為か、思考が上手く仕事をしてくれなかった。
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1月31日、加筆して二話に分割しました。




