51.マリーの想い
マリー視点になります。
お嬢様の笑顔はいつも、どこか影が差していた。
もちろん、初めからではない。
そう、小さい頃のお嬢様は明るく笑顔の絶えない人だった。
それが失われたのはニーナが解雇されてから。
お嬢様の笑顔の奥に暗いものが見えるようになった。
そして使用人達から距離を置き、時折一緒に遊んでいた私にすら壁を作るようになる。
母が伯爵を説得してからは、少し以前のような気を置けない距離感に戻ったけれど、お嬢様の満面の笑みをもはや見ることは出来なかった。
私が正式に使用人となると、お嬢様は再び距離を取り始めた。
他の使用人よりは、まだマシな距離だけど。
徐々に減っていくお嬢様の笑顔。
それを食い止めたかったけれど、一使用人の私では出来ることに限りがある。
それでも少しでもお嬢様を守りたいと、お嬢様を気に掛けている他の使用人達と力を合わせた。
お嬢様が庭を散歩している時は、その姿を見られないように伯爵達を誘導したり、食事内容も見られないようにしつつお嬢様の好物を用意したり、私達の動きが伯爵達の目に留まらない程度に行動した。
お嬢様は何よりも私達を失うことを恐れていたから。
お嬢様のために行動して、お嬢様を悲しませては意味がない。
当然それでは伯爵達のお嬢様に対する悪行の全てを防げない。
力が及ばない時、私は自分の無力さを痛感した。
そんな時、お嬢様は学園への入学を許可された。
ゴードン曰く、お嬢様は伯爵を言葉巧みに説得されたと。
母の影響ならば嬉しい限りだ。
そこから、お嬢様は少し明るくなった。
きっと友達が出来たのだろうし、勉強という刺激も受け、屋敷の外で存分に羽を伸ばしているのだろう。
しかし、それは卒業間際で打ち砕かれてしまう。
まさか除籍されるとは……。
でも、いつしかそんな日が来るだろうと思っていた。
あの伯爵のことだから、いつかお嬢様を追い出すだろうと。
そうなったら、私もお嬢様と共にクラディア家を去ろうと思っていた。
ジョンや他の使用人達のことは少し気がかりだけど、私には身寄りがないから未練はないし、何よりお嬢様の方が大事。お嬢様は私にとって妹のような存在なのだから。
(お嬢様は私がお守りしなくては)
来たる日に備えて、私はコツコツと給金を貯めていた。
メイド達の中で流行りのあれこれには一切手を出さず、お洒落もせず、休日も少なくしてもらって出来るだけ働いた。
いざとなれば、一時的でもお嬢様を養えるぐらい蓄えておかなくてはと、その一心で。
お嬢様に贅沢はさせてあげられないけれど、お嬢様も贅を好むタイプではないし、人並みな生活が出来るぐらいに貯金は貯まった。それに住む場所の目星もつけている。屋敷を出る準備は万全だ。
そう思った矢先、シリウス様がお嬢様を迎えに来た。
突然のことで戸惑ったけれど、あのゴードンも『シリウス様になら、お嬢様を任せられる』と言っていたから信じた。
それならと、お嬢様が幸せになれるのならと笑顔で送り出した数十分後……まさかシリウス様の執事が戻って来て、お嬢様と共にクロフォード家に来ないかと勧誘されるとは。当然のことながら、私は迷うことなく頷いた。
(お嬢様のお傍には私がいなくては)
それに気になることもある。
お嬢様の口から一度もシリウス様の名が出たことはなかった。
いや、令嬢達の人気トップにいると聞いたことはあったのだけど。
一体いつから、お嬢様とシリウス様は結婚するまでの間柄になったのだろうかと不思議に思った。
いつからシリウス様と交際を?
お嬢様がそんな重大なことを私に隠し通せるはずがない。
その疑問は暫くしてから解明された。
まさかの結婚ではなく、養子だったのだ。
ゴードンも知っていたのならハッキリと言ってくれればいいものを。
まぁ、でもそのおかげで私達はお嬢様を祝福して送り出せたのだけど。
しかしお嬢様は契約結婚だと思っているという。
これで謎はハッキリした。
お嬢様がシリウス様に対して一線を引いているのも、何やら日々焦るように追われている様子なのも、メイドになろうとしていることも!
シリウス様は何故自分の気持ちが伝わっていないのかと嘆いていたけれど、それは当然だと思う。
お嬢様は愛されることを知らないし、愛される自信もない。
ついでに言うと恋心さえ持ったことがない。
長年、傍にいた私にすらお嬢様は線を引き、完全には心を開いてくれていないのに。シリウス様とはいえ、同じ学園に通うクラスメイト如きがあっさりと受け入れてもらえるわけないでしょう。姉妹のように育った私とお嬢様の関係を甘くみてもらっては困る。
けれど、シリウス様には期待している。
クロフォード家に来てから、お嬢様は変わられた。
とても明るくなって笑顔も増えたし、健康的な顔色になり、髪も肌も艶やかで貴族令嬢らしい生活を送っている。
それらは全てシリウス様のおかげだ。
それにシリウス様は、お嬢様のために籍を入れ、私達使用人を雇い、お嬢様に寄り添ってくれた。お嬢様を気にかけて、気を遣い、沢山の心配りをしている。
これ程までにお嬢様を想い、私が出来なかったことをお嬢様にしてくださっている。
まるで強力な仲間を見つけた心境だ。
(きっとシリウス様なら、お嬢様の頑なになってしまった心を解かしてくれる)
問題は、お嬢様の方だ。
シリウス様の愛を受け入れる心と、シリウス様を想う気持ちが揃うのか。
少し心配していたけれど、それは杞憂だったみたいだ。
いつからだろうか、シリウス様を見るお嬢様の目には僅かに熱が帯びるようになった。お嬢様自身、おそらく気づいてはいないだろうけど。
そして進展があったようだ。
あのびしょ濡れで帰ってきた日、学園で何かあったのだろう。
お嬢様は今まで見たことないぐらい落ち込んでいた。魔力診断や除籍の時だって、これ程ではなかったのに。
(あの様子だと、お嬢様は自分の気持ちを自覚された)
あとはシリウス様の気持ちを受け取るだけ。
お嬢様はシリウス様が優しいだけだと思っているようだけど、ジョンから聞いた話だとそれだけではない。
登下校の際、時折シリウス様は生徒の誰かを睨んでいるようだとジョンは言っていた。大方、お嬢様を侮辱した“誰か“を牽制しているのだろう。
優しさだけではなく、強さも持っているし、お嬢様を守ろうという気持ちも、代わりに怒る気持ちも持っている。お嬢様には必要な人だ。ゴードンが言っていた通り、シリウス様にならお嬢様を任せられる。
(シリウス様、頼みますよ!)
もうすぐでクライマックスですー! 次回から、ついに卒業式を迎えます!!
ふふふっ、シリウス様の正体が明かされますよ(`・ω′・)+
(お気づきの方いらっしゃいますかね?)
ですが……一区切りだなぁというところが66話になりそうです……そういう意味ではクライマックスはまだ先かもしれません(。。*)




