49.穴があったら入りたい!
あれから数日間、私は部屋に引き籠った。
ご飯も部屋で食べ、外には一歩も出ないで過ごす。
あの日シリウス様は、帰宅後その日の授業内容を教えてくれたけど、それ以降は察してか部屋を訪ねてくることはなかった。
(自分の気持ちを整理したかったから有難いことだわ)
そして週明けの今日、学園に行くため身支度を整えて、朝食のため食堂へと向かったのだけど……
「おはよう、アリシア」
「お、はようございます、シリウス様」
あれ? 何だろう? どうしたのだろう?
急に心臓が苦しくなって、身体が固くなる。
私はギクシャクしながら、シリウス様の横に腰かけた。
学園に向かう時も、いつもの東屋で昼食をいただいている時も、帰宅の馬車の中でも、ずっと私は変な感じだった。
自分でも理由が分からない。
ただ、シリウス様と一緒にいると頭がボーっとするというか、何を話したのかすら覚えていないというか。そして時折ドキドキと鼓動が早くなり、息苦しくて堪らなくなる。
(あれ? 今まで、どう接していたかしら? 今まで、どんな話をしていたのだっけ?)
シリウス様の顔を直視することが出来ず、自分がどんな表情をしたらいいのかも分からなくて俯いてしまう。
一緒にいると思考がぐちゃぐちゃになってしまうからと、気づけばシリウス様を避けてしまうようになっていた。
シリウス様に会いたいのに、会いたくない。
触れて欲しい、声を聞きたい。
そう思うけど……会うと思っただけで、胸が苦しくなって怖くなる。窓から見ているぐらいがちょうどいい。
そんな風に思い始めて迎えた週末。
週末といえばシリウス様は模擬戦をしているので、またもコソコソと物陰から見に行った。
騎士達と戦う姿は、相変わらず格好良くて胸が熱くなる。
そこに中高年ぐらいの恰幅のいい騎士がやって来た。
「熱が入っておりますな、シリウス様」
「あぁ、来たのか。ランドルフ」
「はい、一足先にこちらへ。お元気そうで何よりです」
「ランドルフもな。久しぶりに手合わせ願おうかな」
「おや、自分を負かす自信がおありですかな?」
「ハハハ、まさか。一本でも取れれば良いほうだと思っているよ」
シリウス様と親しそうだけど誰だろう? と思っていると
「あの人は指南役ですよ」
背後からの声に「ひゃあ!」と悲鳴が出そうなところを、咄嗟に口を押えて何とか留まった。
もうジョン! 驚かさないで!
というか、何故いつも背後から現れるのかしら?!
そんな私の驚きなんて気にする素振りもないジョン。
まぁ、いつものことだから慣れてしまったのね。
「何でも、どこかの王室騎士団の団長をしていたとか」
「王室の?!」
頬杖を突きながら隣にしゃがんだジョンからの情報に、私は驚きの声を上げた。
それはかなりの猛者。
え、シリウス様はその方と試合を?
「ねぇ、ジョン。シリウス様はお強いの?」
「強いですねぇ」
「ジョンと比べたら?」
「俺よりも強いですよ」
「えっ!」
ジョンはクラディア家の騎士の中でもトップなのに、それよりも強いの? 普通の伯爵令息が?
「おそらく幼少期から訓練していたんでしょうね。でも、あの指南役もかなり強いですよ」
「分かるの?」
「そりゃ一目瞭然ですね。隙ないし、殺気も上手く隠しているし、纏うオーラが違いますからね」
「そ、そうなのね」
それではシリウス様は負けてしまうの?
指南役と言うぐらいなのだから、シリウス様より強いとは分かっているけれど、それでもやっぱり勝って欲しいと思ってしまう。
私はランドルフと呼ばれた指南役とシリウス様の方へ目線を向ける。
立ち合う騎士の合図で、二人は木刀を構えた。
「始め!」
と開始の言葉が掛けられたが二人は動くことなく、辺りはシンと静まり返る。
(もしかして、これが本で読んだ“相手の出方を窺って微動だにしない”というやつかしら!)
猛者同士の戦いでは、いきなり剣を打ち合うことはないようなことが書いてあったけど本当なのね!
そこにフッと一陣の風が吹いた時、シリウス様が動いた。
けれどシリウス様の一太刀は、あっさりと受け流されてしまい、反撃が返って来る。それをシリウス様も剣で受け止め、すぐさま攻撃に転じる。
お互い一振り一振りを躱したり受け止め、いなしたりと木刀のぶつかり合う音が響く。隙を見て隙を与えず、両者とも一歩も引かないといった感じで攻防戦が繰り広げられていた。
しかし相手は指南役、シリウス様の方が若干劣勢に見える。そして次に受けた一撃が重かったのか、シリウス様が体制を崩してしまう。
でも咄嗟に地面に手を突き、すぐさま立て直しつつ砂を蹴り上げて目眩まし!
そこから見事、シリウス様は一本取った。
(す、すごい、シリウス様!!)
手に汗握るハラハラドキドキの展開に、気づけば私は胸の前でギュッと手を握っていた。
剣術のことはよく分からないけど、今のは凄かったのだと思う。
だって王室騎士団の団長をしていた人物に見事一撃を入れたのだもの!
ジョンが「おー、さすがシリウス様。強いですね」と言う隣で、私は無音の拍手を送った。
「シリウス様、お強くなられましたね」
「あぁ、守りたい人がいるからね」
「それは、あそこにいるご令嬢のことですかな」
そう言って、ランドルフはこちらを指差した。
「え……?」
視点1、視点2、視点3と様々な視点でお送りしたい。
この驚きを。
(な、なっ、何故、気づかれて……?!)
「ランドルフ、アリシアは隠れているのだから、あまり意地悪しないでくれ」
「おぉ、そうでしたか」
言われて、ランドルフは頭を掻きながらハハハと笑っている。
ななな、何故! 嘘でしょう?
シリウス様にも気づかれているの?! 何故?!
ハッ、もしかして大柄のジョンが隣にいるから?
それともジョンが合図とか何かしたの?
そう思って、ジョンを見たら「何か?」という顔をしていた。
(ダメだわ、何も伝わっていない!)
どうしよう、非常に居た堪れない。穴があったら入りたい。
この状況どうしたらいいの?!
私はしゃがみ込んだまま思わず両手で顔を覆った。
それなのに、木刀を片付けたシリウス様は私の方へと歩いてくる。
あぁぁ、どんな顔をすればいいの?
というかシリウス様は、いつから気づいて……。
「アリシア、良かったら庭を散歩しないかい?」
「ひぁ! あ、はい……」
私は変な声を出しつつ立ち上がると、おずおずと茂みから出てシリウス様の元へと移動した。
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