47.この胸の中にある感情
一人になった静かな部屋で、私はベッドの天井を見つめる。
あの時は衝動的に窓から飛び降りてしまったけど、自分でも意識しないところで何かに追い詰められていたみたい。
家族から見放され、友達も居場所も失い、将来の不安ばかりが募って……
(本当にそれだけ?)
何かがグッと胸に押し寄せてくる。
それに気づかないよう無視したいのに、それが何なのか知りたい。
胸の中の矛盾に翻弄されている時、先程の職員室前での出来事が頭を過った。
(してもいないことの罪を問われそうになったことは初めてだったけど、意地悪をされることも悪口を言われることも、よくあることだったから別にそこまでショックではなかったわ)
でもシリウス様の、あの衝撃を受けたような表情に……あの冷たい目に、胸が苦しくなった。
シリウス様に嫌われたくないって思ったの。
シリウス様まで失いたくないって思ったの。
私を捨てた父と同じ冷たい目をしたシリウス様が、“魔力無し”と分かった途端に私を嫌悪したクラスメイトと同じようになってしまうと思って怖かった。
(でもどうして、そんなに怖いの?)
今まで家族から冷遇されても、ここまで苦しくはなかったのに。
まぁ、辛かったけど。
……あぁ、そうか。
私は今まで知らなかったんだ。
こんなにも心穏やかな生活があることを、誰も私のことを険しい目つきで見ない心休まる屋敷での暮らしがあることを。
それにクラスメイトから蔑まれても、これ程までに悲しくなかったのは“両親や妹のように私を嫌うのでは”という気持ちが、いつも心のどこかにあったからかもしれない。
友達だと思っていても、信頼していると思っていても、どこか一線を引いていた気がする。
本当は、私は誰にも心を許していなかったのかもしれない。
でも今は違う。
きっと私の心は、シリウス様を受け入れてしまった。
シリウス様と、この屋敷で過ごす温かい日々を知ってしまったから、もう知らなかった頃には戻れない。
戻るのが、失うのが、怖くて怖くて堪らない。
(私、こんなにも憶病な人間だったのね)
涙が頬を伝って、ポロポロと零れ落ちていく。
その時ノックの音がしてマリーが入ってきたから、私は慌てて布団を被った。
「お嬢様、具合はいかが……泣いているのですか?」
「な、泣いてないよ」
こんな鼻声では、すぐにバレてしまう。マリーは勘がいいから。
それでも私は何とか誤魔化そうとして、身体を丸めると涙を拭う。
「それなら顔をお見せください」
「…………」
無言でいたら、ガバッと布団を取り上げられてしまった。
「ほら、やっぱり泣いてる」
「うぅ……」
「どうしたの? 何があったの?」
マリーは子どもの頃のように、ハンカチで私の頬を撫でながら諭すように聞いてくる。
「わ、私……シリウス様に、嫌われてしまった……」
「え?」
私は今日の学園での出来事を話した。
窓から飛び降りたことは伏せて。
何だか後ろめたくて言いたくなかったし、言えばマリーは絶対に心配するから。いや、怒られるわね。
「お嬢様……お嬢様は、シリウス様が事情も聞かずに一方的にお嬢様が悪いと判断される方だとお思いですか?」
マリーの言葉は、シリウス様のことを信じていないのかと言っているように聞こえて、私はハッとした。
そして、そんなことはないと首をブンブンと横に振る。
「違う……シリウス様はそんな方ではないわ」
「そうですね、私もそう思います」
そうよ、シリウス様はそんな人ではない。
私、何故そんな大事なことを忘れてしまっていたのかしら。
いつだってシリウス様は公平で、表面的なことに惑わされることなく、ちゃんと本質を見ている。
「直接シリウス様に聞いてみてはいかがですか?」
俯く私に提案しながらマリーは「大方、周りの方々に向けた視線だとは思いますが」と言う。
「直接、聞くの?」
「お嬢様、ちゃんと話さないと分からないことは沢山あるのですよ」
そうか、ちゃんと話さないと。
人の心の中は分からないものだから。
怖いけど……聞かなければ、この気持ちを抱えたままになるし、何よりシリウス様を誤解したままになってしまう。
「……分かった」
「今からでも、お呼びしましょうか?」
「ううん、今は……ちょっと無理」
私の顔は涙で、ぐちゃぐちゃだもの。
マリー以外の誰かに会える状態ではないわ。
それに何をどう聞いたらいいのか、考えも纏まっていない。
「そうですね、明日にでもお話しされると良いかと思います」
「うん、そうする」
「ところでお嬢様。何故、泣くほどシリウス様に嫌われたくないと思ったのですか?」
「え?」
そう言われると……シリウス様に嫌われるのが、何故こんなにも悲しいのだろう? 辛いのだろう?
「どうしてかしら?」
マリーは「そのことも、よくお考えになってください」と言うと部屋を出て行った。
答えを知っているようだけど、マリーは教えてくれない。きっと自分で見つけなくてはいけないのね。
マリーが去った後、私はベッドに横になって言われたことを考えてみた。
どうしてシリウス様に嫌われたくないのか、失いたくないのか。
この心の奥底に、何かある。
それは、マリー達に抱く感情とは少し違う。
もっと特別で大きくて強くて、優しいほど温かいのに……酷く苦しい。
(あぁ、あぁ……そうか、私……シリウス様が好きなんだ)
きっと、これが誰かを心から好きになるという感情なのね。
生まれて初めて抱いた感情。
再び私の瞳から涙が溢れ、ポタポタと枕を濡らしていく。
私、いつの間にかにシリウス様が大切な人になっていたのね。
そしてシリウス様の傍に自分の居場所を求めてしまったのね。
(怖いのは、この生活を失うことだけではなくて……シリウス様を失うことが、何よりも怖いわ)
枕元には、シリーとアリーが仲良く寄り添っていた。
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