40.熱に浮かされて
最後、シリウス視点になります。
「ん……」
何だろう、身体が熱い。それに何だかフワフワする。
あれ? 私どうしたんだっけ?
よく思い出せないけど、今ベッドで横になっているのは分かる。とっても柔らかいもの。
そして誰かが頭を撫でている。
(誰だろう?)
目を開けて確かめたいのに瞼が重い。
(もっと撫でて欲しい)
瞼は開かないけど、身体は少し動かせるみたい。僅かに頭を動かして、その大きくて優しい手に擦り寄る。
一瞬、ピタリと手が止まったけれど、またすぐ髪を梳くように動き出した。
(えへへ、嬉しい)
そういえば、前にもこんなことがあったなぁ。
あれは熱を出して寝込んだ時―――苦しくて堪らなくて、泣きながらベッドで横になっていた。子どもだったから、自分の身に起きていることがよく分からなかった所為か、とにかく怖かったのを覚えている。でもその時ニーナが看病してくれて、熱が下がるまで、そばにいてくれて優しく頭を撫でてくれた。
こう身体が弱っている時は、心も弱ってしまうのね。
「……ニーナ」
私は小さく呟いて、目尻に涙を溜めたまま眠りに落ちた。
******
「……ん」
今度はパチッと目を開けられた。視界の先は、見慣れた天井。
(やっぱりベッドで寝ていたのね)
部屋には灯りが灯っている……え、今は何時?
窓を見たら、外は日も落ちかけているようで薄暗くなっていた。
(あれ? いつの間に帰宅していたのだろう?)
……いや、違う。もしかして私、学園に行ってない?!
えーっと、何がどうなったのだっけ? 思い出して、私!
「あ、お嬢様! 目が覚められました?」
一生懸命、記憶を辿ろうとしながら窓と反対の方を見ると、そこには心配そうな顔で私を見るマリーの姿が。
「ん……私……」
「覚えていますか? 鼻血を出されて倒れられたのを」
あ、そうか、そうだった。
霧のかかっていた記憶が鮮明になってくる。
そうそう鼻血を出して慌てたところに、マリーが呼びに来て倒れて……えっ? まさか、それからずっと寝ているの?
「起きられますか? 何か召し上がられますか?」
食べる? お腹空いていないよ?
あぁ、でも……
「お水、飲みたい」
「はい。ついでに熱冷ましの薬もお飲みになってください」
すぐマリーがグラスに水を注いで差し出してくれる。
ベッド横に水差しが置かれていたようだ。
私は起き上がると、薬と共に水を一気に飲み干した。
薬の苦さに思わず眉間に皺が寄ってしまう。
そこに水分補給と口直しを兼ねて、フェリシアが果物を差し出してくれた。
空腹は感じていないけれど、果実の甘さが苦味を消してくれたおかげで少し気分は良くなる。
けれど身体が重くて、ぐったりとベッドに横になった。
熱を出してしまったのね。
暑いと思ったのは気温ではなくて私自身だったというわけだ。
今日の授業はどうだったのかしら。
休んでしまった分も勉強しなくては……あとダンスの練習も、それから刺繍も……そう思ったところで、また意識が途切れた。
******
あぁ、また誰かが私の頭を撫でている。
ニーナと同じような優しい撫で方。でもニーナではない。
知っている。この大きくて優しい手。とても安心する。
「ん……」
身体が重い。瞼も。
それでも私は無理やり押し開ける。
目の前には思っていた通りの人物がいた。
その姿に私の顔はフニャリと緩んでしまう。
「……シリウス様」
「あ、起こしてしまったかな?」
私は小さく首を横に振った。
ベッドに腰かけたシリウス様は心配そうな顔で、私をジッと見ている。
やっぱり撫でてくれていたのはシリウス様だったんだ。
私は、いつの間にか手にしていたシリーの手をキュッと握った。
「具合はどう?」
どうと聞かれても、大丈夫とはとても言い難い。
けれど大丈夫ではないと言ったら、シリウス様がもっと心配してしまうかも。
何て答えたらいいのか、頭がボーっとしてよく分からない。
目を開けるので精一杯だったみたいで、困ったことに考えが纏まらない。
あれ、何を聞かれたのだっけ? えーっと、あぁそうだ。
「喉、乾いた……」
「あぁ」
呟くとシリウス様はグラスを片手に、身体が重くて上手く起き上がれないでいる私を抱き起して、冷たい水を飲ませてくれた。
私の体温が高い所為か、シリウス様が少しひんやりと感じられて心地がいい。
水を飲み干して、シリウス様に寄りかかる。一瞬シリウス様の身体が強張った気がしたけど、何も言わずにそのまま抱き留めてくれた。
「アリシア、他にして欲しいことは?」
して欲しいこと?
えーっと、えーっと。
「ん……頭、撫でて……さっきみたいに……」
「…………あぁ、お安い御用だ」
少し間が空いたけど、シリウス様の手がゆっくりと私の髪に触れる。
いつも温かいその手が今日は少し冷たくて、私は夢心地で目を閉じた。
朦朧としている所為か、すぐにも意識が夢の中へ旅立ってしまいそう。
私はシリーを引き寄せるとギュッと抱きしめた。
「そのぬいぐるみ、気に入っているんだね」
「シリーのこと?」
「シリー?」
「うん、シリーは私の宝物……私の、大切な」
段々声を出すのも億劫になっていき、ついには微睡の中へ。
******
「眠ったか」
僅かに眉間に皺を寄せ、少し浅い呼吸で寝息を立てるアリシアを見つめる。
いつも、どこか気を張っている様子で僕や他の人間に一線を引いているアリシア。
そんなアリシアが熱に浮かされているとはいえ、甘えてくれることが、こんなにも嬉しいとは。
「シリ……」
「それは、ぬいぐるみのことかな? それとも僕?」
寝言を聞きながら、アリシアの頬をチョンチョンと指でつつく。
アリシアにそこまで大事にされているとは。
ぬいぐるみ相手とはいえ、少し嫉妬してしまうな。
(僕のことをアリシアはどう思っているのだろうか)
唯一の味方ぐらいにしか思っていないのかもしれない。
いや、マリー達がいるから唯一ではないだろうけど。
でも僕が望んでいるのは、それ以上。
気づいてくれるだろうか、僕の気持ちに。
「もっともっと、いっぱい甘やかしてあげるから、いつの日か僕をその一線の中に入れてくれないかい?」
そう呟きながら頭を撫で、そっと髪に口付けると、熱を帯びたその身体を優しく抱きしめた。
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