38.穏やかな日々
学園の昼食は、あの東屋でいただくようになった。
ここは本当に誰も来ないので、とても寛げている。
それに生徒も使用人もいない、誰の目も気にすることのない、シリウス様と二人だけの時間というのも何だか心地良かった。
「シリウス様は、どうして此処を知っていたのですか?」
「あぁ、入学前にジュリアンに学園の設備について調べさせたからだよ」
「そうなのですね」
普通は調べるものなのかしら。
私は普通とは違ったから、知らなかっただけかもしれない。
んん?
それなら他の生徒達も此処を知っていることになるから、誰かしらと遭遇してもおかしくはないのでは?
「普通は、そこまで調べないからね。此処を知っているのは、ごく一部の人間だけだと思うよ」
「そうなのですね」
シリウス様には、私の心が見えているのかもしれない。
こうして私の考えを読み取られることが、今までも何度かあったもの。
だとしたら、ちょっと……いや、かなり恥ずかしいのですが!
「ふふふっ。アリシアは、すぐ顔に出るから分かりやすいね」
「そ、そうなのですね?!」
シリウス様は口元に手を当てクスクスと笑っている。
私、さっきから「そうなのですね」しか言っていないわ!
そんなに私って分かりやすいの? 顔に出てしまうの?
それはそれで、やっぱり恥ずかしいのですけど!
私は思わず顔を手で覆った。
そして昼食の後は、そのまま東屋で読書をしている。
木々の囁くような葉擦れ、鳥のさえずり、爽やかに吹く風、そのどれもに安らぎを感じた。
本を読んでいたのだけど、満腹の所為か安心して気が抜けてしまったのか、私の瞼は段々と重くなっていく。
(ね、眠い……ダメダメ、目を開けて!)
「アリシア、眠いのかな?」
「……ぃ、え」
「眠そうな声だけど?」
「ん……」
「少し寝るといい。時間になったら起こしてあげるから」
「……でも」
頑張って睡魔に抵抗していたのだけど、シリウス様の柔らかい声が耳に響いて、私を微睡の中へと誘う。
もうダメだと目を閉じたところで私の頭は引き寄せられ、シリウス様がフッと笑った気がした。
こうして私は、とても穏やかな日々を過ごしている。
ここ、シリウス様の傍はとても温かくて幸せで……シリウス様が、皆が、優しくてズルズルと甘えたくなってしまう。
卒業後は平民になるのだから、しっかりしなくては!
******
そんな心休まる日々を過ごして迎えた、ある朝。
身支度を整えた私はソファに腰かけて、登校時間まで待った。
何だか今日は少し暑い?
あと、少し頭がボーッとするような?
(まぁ、そんなことは置いておいて、今日の予定は)
授業内容はあれとこれ、放課後は図書館で昨日の続きを、屋敷に戻ったらダンスの練習とイングリルド国の歴史の勉強を―――と、するべきことを考える。
イングリルド国の勉強といえば、イングリルド国は我がダノン国とは違うことも多かった。当然といえば、当然なのだけど。
国土はダノン国の優に2倍はあり、また内陸国のダノン国とは違って、海に面しているイングリルド国は港での貿易が盛んで海産物もよく獲れるそうだ。
(海産物と言うと、ロブスターも?)
あの時、街の屋台で食べたロブスターはとっても美味しかった。
あれが食べられるのなら……んん、話が脱線しましたね。
あとイングリルド国は軍事力が高い。それは魔獣が生息する地域に国境が近い所為で国内に出没する魔獣を、迅速に討伐するためだ。
魔獣とは、その言葉の通り魔力を持った獣。
でも普通の獣と違って魔法を使う。火を吹いたり、風で切りつけてきたりと人々を襲うから、とても危険な存在だ。
だからイングリルド国は軍備にも力を入れていて、魔獣を倒すための専用武器の製造も特化しているらしい。なんでも魔獣に傷を負わせられるのは、特別な魔法を付与した武器だけなのだとか。
そして幼い頃から魔法も学ぶそうだ。
小さい時から訓練して、いざという時に自分の身を守るためでもあるとか。
ダノン国は幸い魔獣の出没は少ないので、そこまで軍備には積極的ではないし、魔法についても早い段階で学ぶとトラブルになるからと学園卒業後でしか学べない。
(そのために学園最後の年で魔力検査があるのよね)
ちなみに、このトラブルというのが何と言うか……嫉妬とか妬みとか、そういう類だというから自国ながら恥ずかしい。
(きっと、子どもは精神が未熟だから、稚拙な問題を起こすのね)
でも大人の方が、より大きなトラブルを起こしそうなのだけど。
ふと高慢でプライドが高い父が頭を過っていった。
まぁ、大人なら法律できっちり罰せられるから良いということかしら?
こうして学べば学ぶほど、我が国との違いが分かってくる。
何よりも“魔力無し”への偏見がないのだとか。
というか魔力云々に左右されないのだそうで。
もしかしたらシリウス様は、このことを知っていたからイングリルド国について学ぶことを勧めてきたのかもしれない。
それなら!
いざとならなくても卒業したら、すぐイングリルド国に行くのも悪くないかも! なんて思ってしまう。
うん、この国で上手く仕事が見つからなかったら隣国へ行きましょう!
待ってて、ロブスター!!
「ところで、今日はメイドの仕事を手伝わせてもらえるかしら」
マリーにメイドの仕事を教えて欲しいとお願いしたあの日。
色々とマリーは言葉を並べて結局、有耶無耶になってしまった。
上手いこと丸め込まれた感は否めない。さすがライラの娘、マリー。言葉巧みだわ。
でも私も諦めずにお願いした。当惑するマリーに、本当はシリウス様とは契約結婚なのだと打ち明けて、何度かお願いしていたら、一応は了承してもらえた。
けれど、それはメイド達の仕事の邪魔をしてはいけないから忙しくない時だけ。
マリーが“今なら時間があるから大丈夫”、“この内容なら良いだろう”と声を掛けてくれる時だけに限ると言われてしまった。
制限はあるものの、全く教えてもらえないわけではないから、妥協点としてはまずまずと言ったところでしょう。
でも、それならば図書館の勉強をやめて早く屋敷に戻れば、それだけ仕事を教えてもらえるチャンスも増えるのでは? と思ったのだけど、マリーから『図書館は学園を卒業するまでしか利用出来ないのですから、今の内に勉強しておくべきではないですか?』と言われた。確かにその通りだと思い、放課後は図書館での勉強の時間に当てている。
本を借りて帰ればいいのではと思わなくもないけど、分からないところがあった時、すぐに必要な本を探せる利点は図書館にしかない。
(もしかしたら……いいえ、もしかしなくてもマリーの仕事を増やしてしまっているのではないかしら?)
だとしたら、それはそれで申し訳ない。
でも私も死活問題なので、ここは心苦しくもマリーを頼るしかない。
「さてと、そろそろマリーか誰かが呼びに来る頃ね」
そう言って立ち上がった瞬間、鼻から熱いものが垂れる感じがした。
まさか鼻水?!
そう思って鼻に手を当てると、確かに湿り気が。
ポタポタッ
「え?」
鼻に当てた手を見たら、赤く染まっていた。
鼻血……???
ど、どうしましょう!? 制服が、高級な絨毯が汚れてしまう! と思った時、タイミングよくマリーが部屋に入ってきた。
「お嬢様、そろそろ登校のお時間です」
「マリー」
助けを求める私の声に、マリーはこちらを見た。
「お、お嬢様!!!」
そしてオロオロと狼狽しながら血が流れる鼻を手で押さえる私を見ると、弾かれるように駆けてきた。そこで私の意識は朧気となって―――
「あ、れ……?」
最後に感じたのは身体が重力に負けて床へとぶつかる感触。
咄嗟に手を突きながら“あぁ、倒れたのだ”そう思った。
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