36.契約結婚では…
シリウス視点になります。
「というわけで、お嬢様が卒業後メイドになろうとしているのですが……」
話があると言って、マリーがフェリシアと共に僕の部屋に訪れ、語られたのは驚くべき内容だった。
困惑しているマリーに、僕も隣に立つジュリアンも同じ表情を浮かべる。
(どうして、そうなっている?! しかも何故メイドに??)
僕は思わず目を閉じると、机の上で組んでいた手に額を押し当てた。
そして暫く考えて小さく溜息を吐いた後、あの日アリシアに告げた言葉を一部抜粋してマリーに伝えた。
「つまり、お嬢様が除籍されると知って、シリウス様が結婚を申し込まれたのを、お嬢様は契約結婚だと思っているのですね」
状況を把握したマリーは、合点がいったという様子で頷いている。
「だからお嬢様は卒業後、平民になると思っていて『メイドになりたい!』だなんて言い出したのですね」
「そう、いう、ことだね」
戸惑いのあまり、言葉が途切れ途切れになってしまった。
あの時アリシアから色よい返事が聞けないから、何とか承諾して欲しくて言葉を重ね、アリシアに『それって契約結婚的なことですか?』と尋ねられて『そんな感じかな?』と曖昧に答えたのだが……まさか本気でそう思っているとは。いや、そんな気はしていたさ。だって……
自問自答していると、フェリシアが「もしや」と鋭い眼光を向けてくる。
「シリウス様、アリシア様に平民を連想させるようなことをおっしゃってはいませんか?」
「うっ……」
その問いに言葉を詰まらせた僕に、フェリシアは圧を感じる笑みを浮かべた。
「お心当たりがあるのですね?」
「その……デートに誘う時『街の様子を知ることも勉強になると思う』と一言添えた」
「それですね。それをアリシア様は“平民になった時のため”と受け取ったのかと」
分かっているよ。イングリルド国について学ぶことを勧めた時なんて、アリシアは『立派な平民になる!』と断言していたから。しかし、これ以上はフェリシアの視線が痛いから黙っておこう。
(でも、このままではマズイよな?)
「ハァ……正式にプロポーズした時、アリシアは『うん』と頷いてくれるだろうか?」
「え、プロポーズ? お嬢様とシリウス様は結婚されているのですよね?」
溜息と共に零れ落ちた僕の独り言に、マリーは「何故、再度プロポーズを?」と不思議そうに聞いてきた。
「ん? 僕とアリシアは、まだ今は婚姻関係にはないよ?」
「えっ?」
「え?」
マリーの疑問の声に僕も同じ声を上げ、顔を見合わせる。
「アリシアのために出したのは、婚姻届けではなくて養子届けだけど。ゴードンから聞いていないのかい?」
「えっ、ゴードンは『お嬢様とクラスメイトのシリウス様が入籍された』としか……あ、確かに“結婚”とは一言も言っていない」
後半部分は独り言のように呟くマリーに、そうなのか? と僕は首を傾げた。
てっきり養子の話をしたと思ったから、クロフォード家に迎える使用人達には口止めするよう、ジュリアンに頼んでおいたのだが。
ジュリアンに視線を送ると、いつもと変わらない笑みを浮かべ「あぁ」と呟いた。
「皆さん誤解しているようなので、そのままにしておきました」
そうか……。
学園では、あえて誤解させるように『クロフォード家に籍を移した』と言った。
そうした方がアリシアを守れると思ったし、彼女には“結婚している”と思わせたかったから。
マリー達には、そういう意図はなかったのだが誤解を与えてしまったようだ。
まぁ、そうだよな。普通“入籍”と聞けば、結婚だと思うだろうな。
どうりで、アリシアを連れてクラディア家を去る時、お祝いムードだったわけだ。
ここは、ちゃんとマリーに説明しておくべきだろう。
「今は事情があって、僕は婚姻を結べる状況にないんだ。だから、アリシアは養子という形でクロフォード家に迎えた。あ、もちろん、ゆくゆくは結婚するつもりだ」
僕の言葉を聞いたマリーは整理するように一瞬考えた後、疑問が湧いたようで問いかけてきた。
「あの。何故、初めから養子をお嬢様に提案なさらなかったのですか?」
「それは……」
それはそう。
本当はあの時「結婚は追々ということで、とりあえずは養子届けを」と言うつもりだった。でも……
「…………から」
「え?」
俯いた僕の口から漏れた声は、あまりにも小さくて聞き返されてしまう。
「少しでも僕を意識して欲しかったから! 養子と聞いたらアリシアのことだ『シリウス様とは兄妹になるのですね!』とか言って、僕のことを恋愛対象に見てくれなくなるかもしれないだろう? 正式にプロポーズした時『兄としてしか見られない』なんて言われたら堪ったものではない」
ガバっと頭を上げて、机に置いた拳を強く握りながら訴えるように言うと、3人は「あー」と頷いた。
「それに養子と知ったら、ますます『卒業したら平民に!』と思いそうで……そうしたらアリシアのことだ、あと3ヵ月で出て行くのだからと、ドレスもアクセサリーもあれもこれも受け取ってくれないだろう!」
苦虫を噛み潰したような僕の顔を見て、またも3人は「あー」と声を上げた後「確かに」と頷いた。
「あと、卒業パーティーのパートナーとか、手を繋いで街を歩くとか、“婚姻”という関係だからアリシアは当たり前だと思ってくれているだけで……」
段々と声が小さくなってしまう。最後、3人は憐れむような眼差しを僕に向け、静かに頷くだけだった。
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