35.そうだ、メイドになろう!
いつもの日課の勉強に加えて、ダンスの練習と刺繍が増えた。
何で刺繍かって? ふふふ、それはね。
シリウス様と街へ出掛けた翌日の朝、早速シリウス様の剣の鍛錬を見に行ったの。面と向かって「見に来ました!」とは言いにくかったから、こっそりと壁から覗いて。
シリウス様は木剣を手に素振りをしていた。
懸命に木剣を振るう姿はとても格好良くて、私もダンスの練習を頑張らなくてはと感化される。
夕方、帰宅後もシリウス様の鍛錬をこっそり見に行った。
今度は木の……かかし? みたいなのを相手に木剣を打ち込んでいる。
その姿も格好良かった。
ふいに、あの時のことが思い出される。
あのナンパ? された時、シリウス様は私を守ってくれた。
(何かお礼がしたいな。私に出来ることは何があるだろう?)
そしてジョンから“シリウス様が週末に騎士達と模擬戦を行なっている”と聞いて、これまた、こっそり見に行った。
物陰から見ていたのだけど、騎士達と戦うシリウス様の姿は、それはもう……何というか、格好良くて格好良くて語彙力が失われてしまった。
シリウス様は次々と騎士達の木剣を落としたり、膝を突かせたりしている。
「カッコイイ……」
ほぅっと溜息を吐くように呟いたら
「ですよねー!」
「ひゃあっ!!」
背後からの声にビクッと肩を震わせながら振り向くと、そこにはジョンがいた。
「もう! ビックリさせないでよ」
「いやー、すみません。そこまで驚くとは思わなくて」
ジョンは頬を掻きながら苦笑している。
もう、ジョンってば。
シリウス様にはナイショなのだから……ハッ、気づかれてしまった?
シリウス様の方を見たら、変わらず騎士達と剣を交えていた。
良かったわ、私の存在はバレていないみたい!
ところで
「ジョンは、ここにいていいの?」
彼らと一緒に稽古しないのかな? と思っていると「今、休憩中でーす」と言いながら首に掛けたタオルで額から流れる汗を拭いている。
そのタオルには刺繍が施されていた。その綺麗な装飾に違和感を覚える。
失礼ながら、ジョンのタイプからすると刺繍なんて興味ないだろうに。
「ジョン、そのタオルは貰い物?」
「あぁ、はい。マリーから貰いました」
「え、マリーから?」
ということは、その刺繍はマリーが?
私がジッと刺繍を見ていることに気づいたのか、ジョンもそれを見つめ
「怪我しないようにって刺繍してくれたんです」
と照れくさそうな顔をした。
そうか、そうだよね。ジョンは騎士だから危険な場面に遭遇することもあるだろうし……どんなにして欲しくないと願っても、怪我をすることだってある。
この国では、騎士や大切な人の無事を祈って刺繍を施した物(ハンカチが一般的だけど)を贈る習慣がある。
ジョンはハンカチよりも、こうしてタオルを使うことの方が多いだろうから、マリーはタオルに刺繍をしたのだろう。
日頃「筋肉バカ」とか言っているけれど、マリーもジョンのこと大切に思っているのね。
「まぁ、マリーはそう言った後『アンタが怪我したらお嬢様が悲しむでしょう!』って言いながら、タオルを投げつけてきたんですけどね」
「ふふふ」
マリーの姿が容易く想像できて、私は小さく笑った。
あ、そうだ! シリウス様に刺繍をプレゼントするのはどうかな?
迷惑かしら。あぁ、あと刺繍の道具もハンカチも用意してもらわなければならないから、マリーに相談してみよう。
早速マリーに相談したら、すぐに必要な物を用意してくれた。
シリウス様にもだけど、ジョン達騎士の皆にも、いつもお世話になっているから贈りたいな。あ、そうするとマリー達にもお世話になっているから……と言ったらマリーに止められた。
「まずは大事なシリウス様に」「他の使用人達にもとなると数が多くなってしまうので」と。
確かにそうだよね。
お世話になっている使用人は多いから全員となると、かなり時間がかかってしまう。
それは追々ということで、とりあえずシリウス様の分だけ刺繍をすることにした。
さて、絵柄を何にするか、願いは何を込めるか。
これがまた悩んでしまう。
(願いは、やっぱり健康と幸福と……あっ、貴族なら繁栄もかな)
図案や縁起の本を参考に色々見ていたら、すごい生き物がいた。それはタヌキ。
タヌキは八相縁起と呼ばれているらしくて、ご利益がありそうなのだけど。
シリウス様がタヌキの刺繍のハンカチを手にしているところを想像する。
(ちょっとないかな!)
もっと格好いい、そう鷹とか獅子とかをモチーフにしたい! と悩んで気が付いた。私、動物を表現できる程、刺繍の技術が高くない。もっと簡単なものでないと無理だわ。
なので無難に四葉のクローバーとテントウ虫にすることにした。
四葉のクローバーは健康と幸運と富の意味もあるし、テントウ虫は“神の使い“と言われる幸運の象徴で、成功や財を呼び、病や災い除くという意味もあるのだって! 完璧では!!
というわけで今、張り切って刺繍をしている。
シリウス様の健康と幸福と色々お願いしながら刺したいのだけど、ふと雑念が邪魔をしてきた。それは……
(卒業後、どうするかまだ決められていない)
日頃の授業のための勉強はもちろん、放課後は図書室で経済や司法の勉強もしているし、屋敷へ帰ればシリウス様に勧められたイングリルド国についても学んでいる。
知識は以前に比べて格段に増えたはずなのに―――
「平民になった時のイメージがまったく湧かないわ」
私は呟きながら、針を刺す手を止めて窓の外を眺めた。
「もしかして、もっと実践的なことが必要なのでは?」
そうダンスのように。いくら本で読んでもダンスが踊れるようにはならない。
それと同じなのでは?
そんな風に思いながら、外で庭師のバートが仕事をしている姿を見て、私はハッと閃いた。
「そうよ!」
例えば、バートに草花について教えてもらうのもいいかもしれない。
そうすれば、あの日シリウス様と行った市場にいたお花屋さんで働けるかもしれないわ。
あるいは、ジョナサンに料理を教えてもらうのもいい。
そうすれば、あの日シリウス様と行ったカフェで働けるかもしれないわ。
ん、待って、だとしたら……メイドはどう?
冷遇されて教育も受けていなかったけど、今はフェリシアのおかげで大分知識も増えてきたし、これでも一応貴族なのだから多少は貴族のあれこれも分かる! それは強みになるのでは?
そう思ったら果然やる気が出てきた。
「よし、マリーに聞こう!」
私が声を上げた時「お呼びですか?」とマリーがお茶を持って来た。
「マリー! ちょうど良いところに!」
私は意気揚々と振り返り、マリーにメイドの仕事を教えてもらいたいとお願いした。
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