34.ダンスの練習
早速、翌日からフェリシアにダンスを教えてもらうことになった。
「アリシア様、ダンスをご覧になったことはございますか?」
「……ないです」
「それでは、まず手本を見ていただきましょう。ジュリアン」
そう言って、フェリシアがジュリアンを呼ぶ。
スッとジュリアンはフェリシアの前に立つと、片手を背に、もう片手をフェリシアに差し出して少しお辞儀をしながら「私と踊っていただけますか?」と綺麗な所作でダンスの“お誘い“をする。
「そういうのは必要ありません」
それに対してフェリシアは眉ひとつ動かさないまま、ジュリアンの手に自身の手を重ねた。
無表情に見えるけど、少し嬉しそうにも見える。
日頃フェリシアが表情を崩すことはあまりないけど、極稀に僅かながら嬉しそうな顔をすることに私は最近気づいた。それはジュリアンと一緒にいる時が多い気がする。
(あ、たまにシリウス様のことをジトッと見ていたり、何やら表情で語り合っているように見えることはあるけどね)
音楽に合わせて、フェリシアとジュリアンがステップを踏む。
とても華麗な動きで、曲の流れと一体化しているように見えた。
そして音楽が終わると同時に二人の動きも止まり、スッと礼をして離れていく。
「すごいわ! 二人とも素敵!」
私は感激して、思わず手を叩いてしまった。
もしかして観劇とかってこういう感じなのかしら。
何やら興奮したように胸に熱を感じる。
「今のが初歩的なダンスです。あとは」
そう言いながら、フェリシア達は2、3曲踊ってくれた。
自分が覚えて踊るはずなのだけど、そんなことすっかり忘れて二人の優雅な雰囲気に見入ってしまう。ダンスが終わる度に、私は二人に拍手を送った。
「それではアリシア様、まずは基本的なステップから」
もっと見ていたかったけど、本来の目的を忘れてはいけないよね。
フェリシアは見やすいようにと、メイド服の裾をたくし上げてくれる。
日頃は隠れている足元が露になって“大丈夫?!”と焦ったけれど、その時にはジュリアンは退出していて、部屋に残っていたのは私とフェリシアとマリーだけだった。
(ジュリアンの気遣い、すごい!)
その日からフェリシアのダンスのレッスンが始まった。
お手本にと何度かジュリアンも踊って見せてくれたのだけど、これがなかなか難しい。どうしても足が縺れてしまう。
(頑張って! 私の運動神経!)
このままではシリウス様の足を引っ張って……いや、実際に踏んでしまう!
気持ちばかりが焦り、逆に自信を無くしてしまっているとジュリアンが“大丈夫ですよ”と励ますように声を掛けてくれた。
「シリウス様はダンスもお上手ですから、いざとなればシリウス様に身を任せれば何とかしてくださいますよ」
「ダンスが上手……それなら尚更、シリウス様に迷惑を掛けないように頑張らなくてはですね!」
私は気を引き締めてダンスの練習に打ち込んだ。
気づいたのだけど、普通の令嬢はもっと幼い頃からダンスを習い、身につけているのであって、2ヵ月という短期間でマスターしようと思うなら、もっと効率的に且つ身体に覚え込ませなくては難しいのでは?
私はどうしたら、より早く身に着くか思案した。
まずはステップを覚えなくては。ステップを身体に叩きこむには……あ、そうだ。こんなのはどうかな?
私はマリーにお願いして、ある物を用意してもらった。
「アリシア、少しいいかい?」
ダンスの練習をしていたら、シリウス様が訪ねてきた。
私は慌てて靴を履きながら「どうぞ」と声を掛ける。
「さっき図書館で借りた本だけど、これはアリシアのではないかな? 僕のところに紛れ込んでいたけど」
「あ、本当だ! ありがとうございます、シリウス様!」
「ところでアリシア……これは?」
シリウス様は不思議そうな表情で指を差している。そこにはシーツが何枚も並べられていた。
身体に覚えさせるために私が編み出したのは、これ!
まず家具を少し移動して、大きなスペースを作る。
元々、広すぎる部屋なので全く問題ない。
そこに、絨毯が薄色合いだから目立つように赤や青など色の濃いハンカチを足型に合わせて配置し、その上からシーツを敷く。
こうすると白いシーツにハンカチの色が薄っすらと透けるから、その上を踏んでいくという手法だ。
ハンカチだから踏んでも痛くはないけれど、踏めば分かるから足元を見ずにステップを踏めるというわけ。
(まぁ、それでも始めは足元を見ていたけどね)
何となく覚えてきたら、顔を上げて踏んでいく。もちろんカウントも忘れずに。
カウントしながらステップを覚えるといいとジュリアンが教えてくれたから。
私が説明すると「へぇ、そういうやり方もあるのか」とシリウス様は成程と頷いた。
「少し息が上がっているようだけど、今も練習していたの?」
「はい」
「本を片手に?」
「はい!」
ずっとダンスの練習だけをしているわけにもいかない。勉強もしなくては。
でも時間は有限。そこで気づいた。足は使うけど目は使ってない。
それなら本を読めばいいじゃない!
ステップを踏みながら、姿勢を正して本を真っすぐ持つ。
ちょうどダンス相手の手と背中に手を添える高さに。
これならダンスと勉強の両方が出来るから、一石二鳥!!
それに、こうしてステップを覚えるだけなら、フェリシアの手を煩わせてなくて済むしね。
(まぁ、これの難点は酔いそうになることだけど)
文字だけに集中するようにしたら徐々に平気になってきたから、何とかなっている。
それを聞いたシリウス様は感心しながら「アリシアは努力家だね」と言って頭を撫でてくれた。
(わぁぁぁ!)
嬉しいけど、こそばゆくて私は照れながら微笑んだ。
鼓動が少し早くなったのは、さっきまで動いていた所為。きっとそう。
「でも無理はしないでね」
シリウス様は優しい笑顔を浮かべると、フェリシアと共に部屋を出て行った。
アリシアの部屋の外で僕はフェリシアに尋ねた。
「フェリシア、アリシアのダンスはどんな様子だ?」
「そうですね、上達は早いかと。すでにワルツの初級のステップはマスターされています」
「えっ、ダンスのレッスン始めたのは数日前だったはずだけど?」
「えぇ、先程シリウス様もおっしゃられていましたが、アリシア様は努力家ですので。それに」
「それに?」
「シリウス様はダンスが上手だと知って、シリウス様の負担にならないように自分も踊れるようにならなければと思っていらっしゃるようです」
「え、何で僕が上手だって教えたの?」
(そんなことを言ったら、アリシアは気にしてしまうだろう)
「それは……上手く踊れるかアリシア様が不安そうにしていらしたので、ジュリアンが“心配されなくても大丈夫ですよ”という意味で言ったのですが」
「あー、そうか。うん、アリシアはそれを聞いて安心するどころか、躍起になってしまったと」
「はい」
アリシアらしい。
本来なら甘えていいところなのに。アリシアの場合、そうはならないんだよなぁ。
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