33.卒業に向けた準備
今、私はバートと庭でお花の手入れをしている。
(実は、こうして土いじりをしてみたいと前から思っていたの!)
クラディア家にいた時、屋敷の敷地内全体で遊んでいたと言ったけど、例外もあって……それは屋敷の窓から見える部分。
父達に見られては、また何かお咎めがあるかもしれない。
そう思って、庭に出るのは母とキャロラインがいない時に限られていた。
そして滅多に庭を見ない父だけど、それでも見つかってしまったらと不安で、庭をゆっくり散策することも出来なかった。
あれほど大きな庭だったのに、私はいつも同じ場所……あの大好きな薔薇のアーチで遊んでいた。
だから、こうして何に気兼ねすることなく、じっくりとバートと話しながら土をいじることが出来るのはとても嬉しい。
「ねぇ、バート。本では“新芽が出たら間引く“と書いてあったけれど、どれを間引いたらいいの?」
「そうですな、まぁ適当で良いのですよ」
「でも、取ってしまったものが綺麗な花を咲かせる芽だったら? 残した方が育たない芽だったら?」
「さすがお嬢様、良いところに気づきましたな。そういう時は、植物の声を聞くのです。私は元気に咲くと、立派な大輪を咲かせると、小さな声が聞こえるのですよ」
私の質問にバートは、よく気づいたと嬉しそうに答えてくれたけど、植物の声……目の前の芽にジッと耳を傾けてみたものの、何も聞こえない。
「う~ん、私は難しいかも」
「まぁ、これは経験がものを言いますからなぁ」
「それなら、バートならこの中からどれを間引く?」
私が指差した先には、4つほど新芽が集まっている。
「そうですなぁ……コレとコレですな」
「では、この中なら?」
「ふむ……」
そうして私は5、6カ所指差して、バートの意見を聞いた。
聞いている内に、少し分かって来た気がする。何となくだけど、大きくて元気そうで、発色が良いのがいいみたい?
「そうしたら……この中では、これを間引く?」
「おぉ、そうです、そうです。お嬢様も植物の声を聞けるようになりましたな」
「えへへ、ありがとう」
嬉しくて思わず顔が綻ぶ。
この花は開花するまでに3ヶ月かかると言う。その分、長く花を楽しむことが出来るのだとか。
卒業まで2ヵ月あまり、私は花開くのを見ることが出来ない。
それでも綺麗に咲き誇って欲しいと願わずにはいられなかった。
「アリシア」
シリウス様が私を呼ぶ声が背後から聞こえる。
おぉぅ! 普通、令嬢はこんなことしないと聞くからマズイのでは! と私は慌てて立ち上がった。
「あぁ、続けてくれていいけど」
「あ、いえ、もう終わるところですから」
シリウス様は続けてと言ってくれているけど、さすがにね?
私は笑みを浮かべたまま、間引くはずの最後の一カ所に目を向けた。
バートは私達を見てニコニコしながら、新芽を抜いていく。
「それなら、庭を散歩しないかい?」
「はい!」
軍手を受け取ろうとフェリシアが手を差し出すので、私はサッと渡すとシリウス様と二人で庭の散歩へ出掛けた。
ここの庭は本当に素敵で、どこを見ても飽きない。
それに、隣にシリウス様がいるだけで、何だか心が満たされる気がする。
「ねぇ、アリシア」
「はい」
「卒業パーティーについてなんだけど」
「はい」
「よかったら僕と揃いのドレスを用意してもいいかな?」
「揃い」
「うん、君のパートナーは僕だろう?」
まさか他に誰かいたりしないよね? とシリウス様は言う。
卒業パーティー……ドレス……あぁぁ、すっかり忘れていた!
そうだった、卒業=卒業パーティーなのだった。
そしてパーティーと言えば同伴者、つまりパートナーと共に行くもので。
普通は親兄弟や親戚だけど、今の私はシリウス様と結婚しているわけだから、当然パートナーはシリウス様だ。
そしてドレスはマリーに手直しし続けてもらっている、一着しかない例のドレスを着る予定だったけど。婚約者がいる場合は、色や柄を合わせて揃いにするのが一般的だ。
「あっ、あ! そうですね。お願いします!」
「良かった。では手配するね」
焦りながらも、すっかり忘れていたことは伏せてお願いすると、シリウス様の顔は嬉しそうに明るくなった。
ん、でも卒業まであと2ヵ月ぐらいだよね。ドレスって間に合うのかな?
「僕のはすでに用意出来ているから、それに合わせたデザインにしようかと思うけど、何か希望はある?」
「え? いえ、特には」
正直、着られれば何でもいいと思っているけど。
ハッ、待ってシリウス様のことだから
「豪華すぎたり、派手すぎなければ何でもいいです」
「…………分かったよ」
もしやと思ったけど、今の間は? 何?
私が訝し気に顔を見ると、シリウス様はハハハッと誤魔化すように笑っていた。
「あぁ、あと確認なんだけど、ダンスは踊れる?」
「…………あ」
そのことも、すっかり忘れていた!
卒業パーティーでは最後の締めにダンスがある。でも絶対参加しなければならないわけではない。
(元の予定ではダンスの時間は壁の花になって無難に過ごそうと思っていたし、“魔力無し”と分かってからはダンスに誘われることもないだろうと思っていたから‥‥…)
当然のことながら、クラディア家でダンスのレッスンは受けていない。
刺繍みたいに学園の授業であれば良かったのだけど、それもなかったので私のダンス経験値はゼロだ。
「お、踊れません」
パートナーがいるのなら、踊るのは必須。
それなのに私ときたら……こればっかりは本を読んでも、どうにもならない。
「そっか、それならダンスの講師を雇おうか」
「えっ! いえ、それは」
そんなの申し訳なさすぎる。今でも十分お世話になっているのに、これ以上は……でも、習わなくては私が困る。
どうしたものかと思案に暮れていると、シリウス様は「それなら」と提案してきた。
「それでは、フェリシアに習うといいよ」
「フェリシアに?」
「うん、彼女は男役も女役もどちらも出来るから」
シリウス様は「それにレッスンとは言え、他の男がアリシアと踊るのはちょっとイヤだから」と苦笑気味に笑った。
「あぁ、それからイングリルド国についても学ばないかい?」
「イングリルド国についてですか?」
「うん、勉強になると思うんだけど」
イングリルド国は、お隣の国だ。
確か、あのチューリップをよく見掛けるって言っていたよね。
このダノン国と違ってイングリルド国は大国……あ、分かったわ!
この国で上手くいかなかった時は、隣国に行くという手もあるということね!!
大国ということは、それだけ職があるということだし、労働者が必要ということだもの。
「はい! ぜひ学びたいです!」
「よかった。ではフェリシアに伝えておくね」
私が前のめりで答えると、シリウス様は安心したように微笑んだ。
シリウス様は本当に優しいし、物事を考える明晰な頭脳を持っている。
本来なら除籍されて、あのまま何も出来ず屋敷を追い出されてしまうところだったのに……シリウス様のおかげで卒業までの間に備えることが出来るわ。
「シリウス様、卒業までの猶予をくださってありがとうございます! 卒業したら立派な平民になれるように、頑張って勉強します!!」
「んんん???」
私が意気込んで宣言すると、シリウス様は目を丸くして何やら呟いた。
「どうやら猶予をもらったのは僕の方らしい」
でも、その声はとても小さくて聞き取れなかった。
いつもより大きな私の声に、シリウス様は驚いたのかもしれない。
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