31.賞品:アリシアの護衛権
「おかえりなさいませ、お嬢様」
帰宅するとマリーが出迎えてくれた。
部屋に向かっている途中、マリーは私の手元を見て目を細める。
「お嬢様、その花は?」
「あ、シリウス様がくれたの!」
「そうですか、それは良かったですね。そのネックレスもですか?」
「うん、いらないって言ったのだけど……シリウス様がプレゼントしたいって」
マリーは私の手元から首元へと視線を移している。
私はネックレスに込められた意味と、それを聞いたシリウス様が即買いしたことを伝えた。それを聞いたマリーは悲しそうな、それでいて嬉しそうな、複雑な表情を浮かべる。
「それはシリウス様のお気持ちなのですから、遠慮なく受け取られると良いかと」
「気持ち?」
「えぇ、お嬢様をお守りしたいと、お嬢様の心が癒されるようにと願われたのでしょう」
心が癒される? 私に癒しが必要なの?
心当たりはないのだけど。今は幸せだし。
それにマリーはそう言うけど、私には返せるものなんて何もないのに、こんなに貰っていいのかな? 今は手元にないけど、シリウス様(仮)も貰ってしまっている。
「それで、どうでしたか? お出掛けは」
「とっても楽しかったわ!」
マリーの問いに、ついテンションが高い声が出てしまう。
「市場は思っていた以上に賑やかだったわ。そうそう、試食もしたの! あ、そうだ、オレンジとブールドネージュも買ってもらったから、後で皆にも食べて欲しいな」
「私達がいただいてよろしいのですか?」
「もちろん! 朝摘みのオレンジで、とても美味しかったし。お菓子はホロホロ、サクサクで美味しかったから、皆にも食べて欲しくて……あ、ダメだった?」
私は言いながらハッとした。シリウス様が買ってくれたのに、誰かにあげたらいけなかったかも。シリウス様の厚意を無にしてしまうかな?
マリーを見ると、微笑んで
「お嬢様達の夕食のデザートに出しましょう。その後で、少しだけ私達もいただきますね」
そう言ってくれた。
そうだよね。沢山あるから、私とシリウス様だけで食べ切れる量ではないし、美味しいものは皆で分かち合いたい。
その気持ちを汲み取ってくれたマリーに嬉しくなった。
「他は如何でしたか?」
「えーっとね、屋台の食事もとても美味しくて! 特にロブスターがね! それから、それから」
私は、はしゃぐ子どものように今日あったことをマリーに話していた。
それをマリーは嬉しそうに聞いてくれる。
「楽しかったようで、何よりです」
「ナンパもされてましたしねー」
突如、背後からジョンが顔を出した。
ひゃっ、ビックリした!
マリーも「え?!」と驚きの声を上げている。
だよね、ビックリしたよね?
ところでナンパ? って何? と私が首を傾げると、ジョンが「ほら」と言う。
「男達に『良いことしよう』って声を掛けられていたでしょ?」
あぁ、あのことか!
というか、何でジョンが知っているの?
「俺も、お嬢様の護衛としてついて行っていたんで」
「あ、そうだったんだ」
疑問が顔に出ていたのか、ジョンが答えてくれたけど、マリーの様子がおかしい。とても慌てた様子だ。
「お嬢様、ジョンが言っていることは本当なのですか?!」
「う、うん。でも、すぐシリウス様が駆け付けてくれたから、大丈夫だったよ」
「何事もなかったのなら、いいのですが。ジョン、貴方がついておきながら何故そのようなことに!!」
マリーは安心したような表情をしたのに、次の瞬間にはキッとジョンを睨んでいた。
「いや、しばらく様子を見るようにって指示があってさ」
「どなたの指示ですか?」
「え? あぁ、フェ……いや、それ聞いてどうするんだよ? ほら、結果的に無事だったんだからいいだろう?」
何やらマリーはとても怒っている。
いつもと違って冷静ではなくなっているような?
ジョンは答えるとマズイと思ったのか、何とか誤魔化そうとしているけど、マリーはそんな言葉で引き下がらないと思う。
「そういう問題ではないの! 何かあってからでは遅いのよ! さぁ、誰なの! 言いなさい!」
「まぁまぁ、マリー。私は大丈夫だったのだから気にしないで」
やはりマリーは追及の手を緩めることなく、ジリジリとジョンに詰め寄っている。
実際、物理的にも。徐々にジョンは壁に追い詰められていた。
私は宥めつつ、話題を変えようと思考を巡らせて、気になっていたことを思い出す。
「あ、ジョンが前に言っていた“キャロラインの護衛は大変”って、あぁいうことだったんだね」
「へ?」
「あんな風に、知らない人に声を掛けられることだったんでしょう?」
「いやいや、違いますよ。キャロラインお嬢、じゃなくて……えーと、あの人は我儘過ぎて護衛が大変って意味ですよ。“あっちに行きたい、こっちに行きたい”と俺達を振り回すし。買い物すれば“あれ持って、これ持って”と俺達のこと荷物持ちのように扱うし。俺達が言うこと聞かなかったり、危険だからと注意すると癇癪起こすし。そりゃ、もう大変で……」
「そ、そうだったんだ」
てっきり危険な方の“大変”だと思っていた私は少し拍子抜けしたけど、キャロラインならそういう態度もあるかもと納得してしまった。
「それもあって、アリシアお嬢様の護衛に就きたいって騎士が多くて。いつも争奪戦だったんですよ」
「え、そうなの?」
初耳のことに私はキョトンとしてしまう。
父かゴードンが指示しているものだと思っていたけど違ったんだ?
「そうですよ~。まぁ騎士なんで、ジャンケンとかじゃなくて剣で決めるんですけど」
「剣?!」
危なくないの?! と思ったら、ジョンは付け加えるように言う。
「あ、木刀ですけどね。模擬戦で勝った者だけが、アリシアお嬢様の護衛を務める権利を得られるんです!」
大層に言われてしまった。
私の知らないところで、戦いが繰り広げられていたらしい。しかも私の護衛権が賞品に?! 驚きが隠せないよ??
「でも、大抵いつもジョンが護衛してくれていたよね?」
「そりゃ、いつも俺が勝っていましたから」
えっ、そうなの? いつも?
サラッと言われたけど、それって結構すごいことなのでは?
クラディア家の騎士は、父の見栄もあってか強者が揃っていると言われていたし、そこそこ人数いたはずだけど。
「それって、騎士全員で戦うの?」
「んー、下っ端とか実力がないやつは参加しないですね。負けるって分かっていて、わざわざ挑戦しないでしょ」
ジョンはケラケラと笑っている。
つまり実力がある騎士達が戦うわけで、そこでいつも勝っているということは―――
「お嬢様、こう見えてジョンは騎士として優秀なのですよ。筋肉バカのくせに」
「なっ、こう見えてとは何だよ! 筋肉バカとは何だよ!」
先程まで冷静さを欠いていた様子だったマリーは、もういつも通りのマリーに戻っていた。
そのマリーの言葉に、ジョンは抗議の声を上げる。
あ、あっ、喧嘩になってしまう?
私は慌てて二人の間に割って入るように言葉を挟んだ。
「ジョンって強かったんだね!」
「知らなかったんですか~! 俺は強いんですよ~!」
ジョンは自信満々に笑いながら、腕の力こぶを見せてくれる。
マリーが「そういうところが筋肉バカ……」と小声で呟いたけど、ジョンには聞こえてないみたい。良かった。
ホッとしたところで、疑問が一つ湧く。
「たまにジョン以外の騎士が、私の護衛をしてくれていたよね?」
「そりゃ、いつもいつも勝てるわけじゃないというか、あいつらも勝ちたくて腕を磨いてきますからね」
つまり彼らも模擬戦で勝っていたと。ということは
「皆、強いんだ?」
「そうですよ。クラディア家の騎士の中でトップの猛者達……その中で、お嬢様の護衛権を勝ち取っていた俺、すごくないですか?」
「うん、すごい! そんなジョンに守ってもらえるなら安心だね」
ニコリと微笑みながら率直に言うと、ジョンは嬉しそうにしていた。
実はクラディア家から、こちらに来た騎士達は私の護衛をしてくれていた人達だ。
つまりクラディア家の、その“猛者達”の一部がここに。クラディア家の警護は大丈夫なのかな?
「あ、ところでナンパって何?」
「「えっ!」」
「あと“良いこと”って何?」
「「えぇっ!」」
私の疑問に、マリーとジョンは揃って声を上げた。
「お嬢様……その、ナンパというのは下衆な男共がする下劣な行為ですので、絶対相手にしてはいけません。それから、そんな輩が言う“良いこと”は絶対“良いこと”ではないので、絶対信じてはいけません。いいですか、声を掛けられても絶対に! 誘いに! 乗ってはいけません!」
「わ、分かったわ」
私はマリーの気迫に押されながらも頷いた。
やっぱり、そうだよね。あの言葉には信憑性ないよね! あの時の私の判断は間違っていなかった!! と自信を持ったけど、あれ? それで結局“良いこと”って何なのか、教えてもらえていない。でも何だか聞ける雰囲気ではなくなってしまったね。
~~~おまけ~~~
夜になるとフェリシアが、ほのかに洗剤の香りが漂うシリウス様(仮)を持ってきてくれた。
私は「ありがとう」と言って受け取ると、枕元に置く。
その横のサイドテーブルには、あの花束が花瓶に生けられていて、見ているだけで自然と顔が綻んでしまう。
(この子の名前を考えなくては……)
いつまでもシリウス様(仮)というわけにもいかない。
何がいいかな? やっぱり“シリウス”から捩りたいかな。
(シリー? シーリ?)
う~ん、と悩みながら私は白金の毛並みを撫でた。
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