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魔力無しですが溺愛されて聖女の力に目覚めました  作者: しろまり


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31/105

31.賞品:アリシアの護衛権

「おかえりなさいませ、お嬢様」


帰宅するとマリーが出迎えてくれた。

部屋に向かっている途中、マリーは私の手元を見て目を細める。


「お嬢様、その花は?」

「あ、シリウス様がくれたの!」

「そうですか、それは良かったですね。そのネックレスもですか?」

「うん、いらないって言ったのだけど……シリウス様がプレゼントしたいって」


マリーは私の手元から首元へと視線を移している。


私はネックレスに込められた意味と、それを聞いたシリウス様が即買いしたことを伝えた。それを聞いたマリーは悲しそうな、それでいて嬉しそうな、複雑な表情を浮かべる。


「それはシリウス様のお気持ちなのですから、遠慮なく受け取られると良いかと」

「気持ち?」

「えぇ、お嬢様をお守りしたいと、お嬢様の心が癒されるようにと願われたのでしょう」


心が癒される? 私に癒しが必要なの?

心当たりはないのだけど。今は幸せだし。


それにマリーはそう言うけど、私には返せるものなんて何もないのに、こんなに貰っていいのかな? 今は手元にないけど、シリウス様(仮)も貰ってしまっている。


「それで、どうでしたか? お出掛けは」

「とっても楽しかったわ!」


マリーの問いに、ついテンションが高い声が出てしまう。


「市場は思っていた以上に賑やかだったわ。そうそう、試食もしたの! あ、そうだ、オレンジとブールドネージュも買ってもらったから、後で皆にも食べて欲しいな」

「私達がいただいてよろしいのですか?」

「もちろん! 朝摘みのオレンジで、とても美味しかったし。お菓子はホロホロ、サクサクで美味しかったから、皆にも食べて欲しくて……あ、ダメだった?」


私は言いながらハッとした。シリウス様が買ってくれたのに、誰かにあげたらいけなかったかも。シリウス様の厚意を無にしてしまうかな?


マリーを見ると、微笑んで


「お嬢様達の夕食のデザートに出しましょう。その後で、少しだけ私達もいただきますね」


そう言ってくれた。


そうだよね。沢山あるから、私とシリウス様だけで食べ切れる量ではないし、美味しいものは皆で分かち合いたい。

その気持ちを汲み取ってくれたマリーに嬉しくなった。


「他は如何でしたか?」

「えーっとね、屋台の食事もとても美味しくて! 特にロブスターがね! それから、それから」


私は、はしゃぐ子どものように今日あったことをマリーに話していた。

それをマリーは嬉しそうに聞いてくれる。


「楽しかったようで、何よりです」

「ナンパもされてましたしねー」


突如、背後からジョンが顔を出した。

ひゃっ、ビックリした!

マリーも「え?!」と驚きの声を上げている。

だよね、ビックリしたよね?

ところでナンパ? って何? と私が首を傾げると、ジョンが「ほら」と言う。


「男達に『良いことしよう』って声を掛けられていたでしょ?」


あぁ、あのことか!

というか、何でジョンが知っているの?


「俺も、お嬢様の護衛としてついて行っていたんで」

「あ、そうだったんだ」


疑問が顔に出ていたのか、ジョンが答えてくれたけど、マリーの様子がおかしい。とても慌てた様子だ。


「お嬢様、ジョンが言っていることは本当なのですか?!」

「う、うん。でも、すぐシリウス様が駆け付けてくれたから、大丈夫だったよ」

「何事もなかったのなら、いいのですが。ジョン、貴方がついておきながら何故そのようなことに!!」


マリーは安心したような表情をしたのに、次の瞬間にはキッとジョンを睨んでいた。


「いや、しばらく様子を見るようにって指示があってさ」

「どなたの指示ですか?」

「え? あぁ、フェ……いや、それ聞いてどうするんだよ? ほら、結果的に無事だったんだからいいだろう?」


何やらマリーはとても怒っている。

いつもと違って冷静ではなくなっているような?


ジョンは答えるとマズイと思ったのか、何とか誤魔化そうとしているけど、マリーはそんな言葉で引き下がらないと思う。


「そういう問題ではないの! 何かあってからでは遅いのよ! さぁ、誰なの! 言いなさい!」

「まぁまぁ、マリー。私は大丈夫だったのだから気にしないで」


やはりマリーは追及の手を緩めることなく、ジリジリとジョンに詰め寄っている。

実際、物理的にも。徐々にジョンは壁に追い詰められていた。


私は宥めつつ、話題を変えようと思考を巡らせて、気になっていたことを思い出す。


「あ、ジョンが前に言っていた“キャロラインの護衛は大変”って、あぁいうことだったんだね」

「へ?」

「あんな風に、知らない人に声を掛けられることだったんでしょう?」

「いやいや、違いますよ。キャロラインお嬢、じゃなくて……えーと、あの人は我儘過ぎて護衛が大変って意味ですよ。“あっちに行きたい、こっちに行きたい”と俺達を振り回すし。買い物すれば“あれ持って、これ持って”と俺達のこと荷物持ちのように扱うし。俺達が言うこと聞かなかったり、危険だからと注意すると癇癪起こすし。そりゃ、もう大変で……」

「そ、そうだったんだ」


てっきり危険な方の“大変”だと思っていた私は少し拍子抜けしたけど、キャロラインならそういう態度もあるかもと納得してしまった。


「それもあって、アリシアお嬢様の護衛に就きたいって騎士が多くて。いつも争奪戦だったんですよ」

「え、そうなの?」


初耳のことに私はキョトンとしてしまう。

父かゴードンが指示しているものだと思っていたけど違ったんだ?


「そうですよ~。まぁ騎士なんで、ジャンケンとかじゃなくて剣で決めるんですけど」

「剣?!」


危なくないの?! と思ったら、ジョンは付け加えるように言う。


「あ、木刀ですけどね。模擬戦で勝った者だけが、アリシアお嬢様の護衛を務める権利を得られるんです!」


大層に言われてしまった。

私の知らないところで、戦いが繰り広げられていたらしい。しかも私の護衛権が賞品に?! 驚きが隠せないよ??


「でも、大抵いつもジョンが護衛してくれていたよね?」

「そりゃ、いつも俺が勝っていましたから」


えっ、そうなの? いつも?

サラッと言われたけど、それって結構すごいことなのでは?

クラディア家の騎士は、父の見栄もあってか強者が揃っていると言われていたし、そこそこ人数いたはずだけど。


「それって、騎士全員で戦うの?」

「んー、下っ端とか実力がないやつは参加しないですね。負けるって分かっていて、わざわざ挑戦しないでしょ」


ジョンはケラケラと笑っている。

つまり実力がある騎士達が戦うわけで、そこでいつも勝っているということは―――


「お嬢様、こう見えてジョンは騎士として優秀なのですよ。筋肉バカのくせに」

「なっ、こう見えてとは何だよ! 筋肉バカとは何だよ!」


先程まで冷静さを欠いていた様子だったマリーは、もういつも通りのマリーに戻っていた。


そのマリーの言葉に、ジョンは抗議の声を上げる。

あ、あっ、喧嘩になってしまう?

私は慌てて二人の間に割って入るように言葉を挟んだ。


「ジョンって強かったんだね!」

「知らなかったんですか~! 俺は強いんですよ~!」


ジョンは自信満々に笑いながら、腕の力こぶを見せてくれる。

マリーが「そういうところが筋肉バカ……」と小声で呟いたけど、ジョンには聞こえてないみたい。良かった。

ホッとしたところで、疑問が一つ湧く。


「たまにジョン以外の騎士が、私の護衛をしてくれていたよね?」

「そりゃ、いつもいつも勝てるわけじゃないというか、あいつらも勝ちたくて腕を磨いてきますからね」


つまり彼らも模擬戦で勝っていたと。ということは


「皆、強いんだ?」

「そうですよ。クラディア家の騎士の中でトップの猛者達……その中で、お嬢様の護衛権を勝ち取っていた俺、すごくないですか?」

「うん、すごい! そんなジョンに守ってもらえるなら安心だね」


ニコリと微笑みながら率直に言うと、ジョンは嬉しそうにしていた。


実はクラディア家から、こちらに来た騎士達は私の護衛をしてくれていた人達だ。

つまりクラディア家の、その“猛者達”の一部がここに。クラディア家の警護は大丈夫なのかな?


「あ、ところでナンパって何?」

「「えっ!」」

「あと“良いこと”って何?」

「「えぇっ!」」


私の疑問に、マリーとジョンは揃って声を上げた。


「お嬢様……その、ナンパというのは下衆な男共がする下劣な行為ですので、絶対相手にしてはいけません。それから、そんな輩が言う“良いこと”は絶対“良いこと”ではないので、絶対信じてはいけません。いいですか、声を掛けられても絶対に! 誘いに! 乗ってはいけません!」

「わ、分かったわ」


私はマリーの気迫に押されながらも頷いた。


やっぱり、そうだよね。あの言葉には信憑性ないよね! あの時の私の判断は間違っていなかった!! と自信を持ったけど、あれ? それで結局“良いこと”って何なのか、教えてもらえていない。でも何だか聞ける雰囲気ではなくなってしまったね。




~~~おまけ~~~

夜になるとフェリシアが、ほのかに洗剤の香りが漂うシリウス様(仮)を持ってきてくれた。

私は「ありがとう」と言って受け取ると、枕元に置く。

その横のサイドテーブルには、あの花束が花瓶に生けられていて、見ているだけで自然と顔が綻んでしまう。

(この子の名前を考えなくては……)

いつまでもシリウス様(仮)というわけにもいかない。

何がいいかな? やっぱり“シリウス”から捩りたいかな。

(シリー? シーリ?)

う~ん、と悩みながら私は白金の毛並みを撫でた。

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