30.願いを込めたネックレス
ビックリした。あんなことが起きるなんて。
ジョンが言っていた“キャロラインの護衛は大変”と言うのは、こういうことだったんだね。キャロラインは可愛いから、あんなことが沢山あったに違いない。
でも何で私なんかに?
あの人達は『可愛い』と言っていたけど、私なんて可愛くはない。
あ、今日はマリー達のおかげで、いつもよりは可愛いんだった。その所為かな?
それとも、ぬいぐるみのことだったのかな?
そして、驚いたのはそれだけではない。
あんなシリウス様の低い声は初めて聞いた。
何か怒っていた様子だったけど……それもそうか、自分が買った物を奪われたのだから。
ん、私、シリウス様が買ってくれた物を奪われて……あぁぁ、シリウス様、私にも怒っていたのでは?!
あ、でも、大丈夫かと心配していたみたいだから、私は許されているのかな?
そんな自問自答しながら、先程の光景を思い出す。
それにしても、あの時のシリウス様は格好良かった。
お姫様を助けに来た王子様みたいで……て、私ってば何お伽噺みたいなこと言っているのかな。
(あぁ、もう! えーっと、そうそう!)
その後、食べたチーズスフレは、ふぁ~しゅわ〜って感じで美味しかった。
街のカフェすごい!
私は顔に熱が集まるのを感じて、自分の心の声なのに、誤魔化すように話題を変えた。
私達はカフェを出て、散策の続きを再開する。
あれ、先程までとは並んでいるお店の雰囲気が違うような?
ドレスや宝飾品が飾られていたお店ではなく、今度はショーウィンドウがないお店が立ち並ぶ路地を歩いている。
窓ガラス越しに店内を見ると、何やら色々な雑貨が売っているお店が多いようだ。
「入ってみる?」
シリウス様に言われて、私は頷いた。
お店は割と賑わっていて、女性客が多く、中には貴族の令嬢と思える人もいた。
店内には、台にも棚にも様々な品物がびっしりと並んでいる。
それはガラス瓶だったり、籠だったり、ハンカチやポーチ等、沢山の種類の品物達だ。
(これは、さっきまでのウィンドウショッピングとは、また違った楽しさがある!)
私が興味津々で見ていると、シリウス様は必ず買うか尋ねてくる。
いやいや、必要な物はすでに持っているから。余計な物を買ってもね?
そう思って首を横に振り続けた。
最後に入った雑貨屋は、他のお店よりも少し高級感が漂っていて、見たことのない珍しい物が売っていた。
それは、とても綺麗な装飾が施された縦長の小瓶。
何に使うものなのか分からず、不思議そうに眺めていると、シリウス様が「それは香水瓶だよ」と教えてくれる。
(へぇ、こんな綺麗な香水瓶があるんだ?)
まぁ香水なんて使わないので、私には無縁の物だけど。
綺麗だから、見ていて楽しい。
そのまま他の小瓶も見ていると、隣に鮮やかな青色の宝石が埋め込まれているネックレスが目に留まった。
「綺麗だなぁ」
この蒼、シリウス様の瞳の色と同じだ。
それに輝く星のような放射状の模様があって、それがまるで光りが当たって煌めくシリウス様の瞳のようで。
(…………あぁぁぁ、また私ってば! 何を考えているのかな?!)
「それはサファイアだね。欲しい?」
私が内心、大騒ぎしているとシリウス様が声を掛けてきた。
来た!
シリウス様の「買う?」という購入の確認。
私は首を横に振った。
今日は首を振ってばかりで癖になりそう。
(違うんです、ちょっとシリウス様の目の色と同じだなーって思っていただけなんです!)
それなのに、シリウス様は店主を呼んでいる。
何で?! 首を縦ではなく、横に振ったのに?
私が「いらないですよ」って言おうとした時、店主が
「あぁ、それは香水瓶を仕入れる時に一目惚れしてしまいましてね。スターサファイアという珍しいものなんですよ。何でも、この3本の光の筋はそれぞれ“信頼・希望・運命“を象徴しているとされ、別名”運命の石“とも呼ばれているそうです。この石には幸運をもたらすとか、希望を叶えるとか、強いお守りの力があると言われていますね」
へぇ、この光の筋にも意味があるんだ?
「そしてこのデザイン、月桂樹の枝葉が石を囲むように雫を模っているのですが、月桂樹は“勝利”や“栄光“という意味の他に“幸せを呼び込む”と言われているんですよ。また雫には“生きるエネルギー”という意味があるとか。あぁ、あと“悲しい涙が喜びや感動の涙に変わるように”という願いも込められていると聞きましたね」
店主が、とても詳しく説明してくれる。
デザインにまで意味があるとは知らなかった。アクセサリーなんて一つも持っていなかったから興味を持ったこともなかったけれど、奥が深いものなんだね。
(キャロラインや他の令嬢達も、そういう意味を考えて欲しがっていたのかな?)
そう思っていたら、シリウス様は最後の方を聞いた辺りで食い気味に「これをいただこう」と言った。
えぇぇ!
珍しいものだと言っていたし、意味を聞いただけでも価値が高いから、お高そうなのですが!!
「シ、シリウス様。私は、いらないですよ」
店主に聞こえても申し訳ないので、小声で伝える。
「アリシア、僕が君にプレゼントしたいんだ」
「でも」
「ダメ?」
気が引けている私の顔を覗き込むように、少し屈んだシリウス様はシュンと眉を下げる。
(そ、その顔は……反則です!!!)
シリウス様を見ないように目をキュッと閉じたけど、むしろ最後に見た光景、シリウス様の顔が目に焼き付いていて逆効果だった。
以前もそうだったけど、あの表情で見つめられると―――
「ダ、ダメじゃないです……」
私は断れない。
私の返事にシリウス様は表情を明るくして硬貨とネックレスを交換すると、すぐさま私の首元に手を回す。
良かったのか、悪かったのか髪を纏めていたおかげで、スムーズに私の首にネックレスがつけられた。
私は初めての首飾りに緊張してしまう。
それと取り付けられる時、僅かに触れたシリウス様の手にも。
シリウス様はそんな私の心情を知るわけもなく
「似合っているよ」
そう言って、ただただ嬉しそうに微笑んでいる。
私は「ありがとうございます」と、お礼を言うので精一杯だった。
何でシリウス様が嬉しそうに笑うのだろう?
誰かに贈り物をして喜ぶって……ん?
一瞬、両親とキャロラインが脳裏を過る。
両親がキャロラインにドレスや何やらを贈った時、嬉しそうに笑っていた。
(それと同じ? いや、まさか……)
それ以上考えるのが何だか怖くて私は思考を止めると、シリウス様と馬車へ向かい帰途に着いた。
期待するのが怖い、愛情を受け取るのが怖い、そんな複雑なアリシアの心です。




