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魔力無しですが溺愛されて聖女の力に目覚めました  作者: しろまり


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29/105

29.1分以内チーズスフレ

シリウス視点になります。

先程から……ずっとこちらを、いや僕に向けられている視線が痛い。

カフェに入ったところで、僕は堪らず、視線の主であるフェリシアの元へと向かった。


「シリウス様、アリシア様にドレスやアクセサリーをプレゼントされるのではなかったのですか?」

「うっ」


フェリシアに開口一番、痛いところを突かれてしまう。


そう、それは僕が提案したことだった。

アリシアが持っていないと知ったから、プレゼントしたくて。


それでフェリシア達に、お勧めの店をいくつか教えてもらっていたのだが。


「それが、どの店もアリシアは入らないと……」


何で入ろうとしないんだ?

日頃いらないとは言ってはいるけど、実物を目にしたら欲しくなるのでは? と思っていたのだが。

何軒も回ったのに、ことごとく振られてしまった。


「まぁ、そうなると思っておりました」


思っていたのか?! フェリシアにはお見通しだと?


「日頃からアリシア様は、ドレスやアクセサリーといった物を必要ないとおっしゃいますので。ですから、そういった類のお店はお勧めしないと申し上げたではありませんか」


ぐっ、アリシアのことを分かっていなかったのは、僕だけだったということか……。

僕はガックリと肩を落とした。


「まぁ、先程シリウス様が空気を読まれて、ぬいぐるみを買って差し上げたのは上出来だったと思います」


ほ、褒められた。お見通しのフェリシアから見て“上出来”というのは、なかなか高い評価ではないだろうか。


でも、店のショーウィンドウを何だか物悲しそうに、そして焦がれるように見つめている彼女を目にすれば、誰だって同じことをしただろう。

僕は先程のアリシアの姿を思い出した。


(ぬいぐるみを抱いたアリシアは、とても可愛かった)


花束もいいけど、ぬいぐるみもいい。やはり店の品物全て買うべきだったのでは?

そんなことを考えていると、フェリシアが小さく咳払いをした。


「何をお考えかは分かりませんが、過度な行動はお控えくださいませ」

「えっ」


僕の心の中を読んだのか、フェリシアは釘を刺してきた。


そんな、別に過度ではないだろう? 買い占めぐらい。


「それより、やはりアリシア様にはドレス等より他のお店が良いかと思いますので、追加の店舗情報をお持ちしました」

「あ、ありがとう」


渡されたメモに目を通しながら、フェリシアの用意の良さに感心した。


「ところでシリウス様、そろそろアリシア様を助けに行くベストなタイミングかと」


フェリシアの言葉に“どういうことだ?”とアリシアの方を見ると……なんてことだ!

僕は、すぐさま駆け出した。



******



「僕の連れに、何の用だ!」


アリシアを庇うように左手で男達を遮り、アリシアに伸ばされていた手を右手で掴み捻り上げる。


「痛てて……」


男は苦痛の声を上げるが、知ったことか!


「おい、何をするんだ」

「何をするだと? それはこちらの台詞だ」


相方がねじ伏せられ、もう一人が抗議の声を上げる。


僕は先の男から手を離すと、隣の男に「返してもらおう」と言い放ち、アリシアのぬいぐるみを持つその手首を力いっぱい掴んで取り返した。


その男からも痛みを訴える声が上がる。


「人の物を奪っておきながら、ただで済むとは思っていないだろうな?」


ギロッと睨みつけ「このまま腕の骨を折っても構わないのだが」と言うと、男は慌てて僕の手を振り解き、悲鳴を上げながら相方と逃げ去って行った。


「アリシア、大丈夫だった?! すまない、僕が席を外したばっかりに」


謝罪の言葉を掛けながらアリシアの方へ振り向くと、彼女は怖かったのか茫然としている。


「怪我はしていない? どこか触られたり……アリシア?」

「あ、シリウス様。あ、ありがとうございました!」


僕の呼びかけに、ハッとしたようにアリシアは大丈夫だと言って、ぬいぐるみを受け取ろうと手を伸ばす。その顔が僅かに赤いような。


僕は渡そうとぬいぐるみを見て、ふと躊躇う気持ちが湧いた。


「アリシア、これ新しいものを買おうか」

「え?」

「あんな薄汚い輩が触ったものをアリシアに持たせるのは、ちょっと」

「えっ、いくら相手が平民とはいえ、その言い方は」

「あ、いや、違うんだ。そういう意味ではなくて」


思わず漏れた言葉に、アリシアは引いている。

誤解を解かなければと思っていると、見るに見かねたのかフェリシアがスッとアリシアの横に立った。


「アリシア様。シリウス様がおっしゃりたいのは、アリシア様にあのような行いをした不埒な輩という意味です」

「あ、そういう!」

「そして、どこの馬の骨とも分からない男の手垢がついたものを、アリシア様に触れさせたくないというシリウス様の嫉妬にござい」

「フェリシア!」


アリシアの誤解が解けて良かったものの、フェリシアが余計なことを言うので僕は遮るように声を上げる。

僕を見るフェリシアの顔には“心の狭い男は嫌われますよ”と書いてあるようだった。


嫉妬という単語が聞こえていたのか、いないのか、アリシアは不思議そうにしながら


「手垢って……あ、白いから! 汚れてしまいました?」


そう言って、僕の手の中のぬいぐるみを見ている。

違う、そうではない! いや、そうなのか?


「あの、これはシリウス様が買ってくれたものですから、シリウス様がしたいようにしてもらって構いませんけど」


フェリシアはアリシアの言葉に “良かったですね、アリシア様がお優しくて”と言うような表情を今度は浮かべている。

頼むから、表情だけで語らないでくれ。妙に居た堪れない気持ちになってしまう。


う~ん、ここはどうするべきだ?

狭量な男と思われたくはないし……かと言って、このまま渡すというのも僕としては気が済まない。


「す、少し考えさせてくれないか?」

「そんなに気になるのでしたら、洗えばいいのでは!」


僕の返事に、アリシアは閃いたように言う。

妥協案としては最適かな……


「うん、そうしよう」


僕はそう言って、ぬいぐるみをフェリシアに託す。

そこに注文したチーズスフレを手にした店員がやってきた。


「あぁ、お客さん! 大丈夫でしたか?」


店員は「申し訳ありません」と頭を下げている。


別にこの店員が悪いわけではないし、実際怖い思いをしたのはアリシアだから、僕が何か言うのもお門違いだ。


アリシアの様子を伺うと


「気にしないでください。大丈夫ですから。ね、シリウス様」


僕に同意を求めてくるから、僕も「あぁ」と頷いた。


アリシアなら、そう言うと思っていたよ。

これが、どこぞの令嬢なら大騒ぎしているところだろうけど。


店員はクレームをつけられたり、騒動にならず安堵したのだろう。

アリシアの言葉に「良かった」と呟き、テーブルに皿を並べていくと


「こちら、すぐに萎んでしまいますので、お早めにお召し上がりください。また焼き立てのため、熱くなっておりますので、お気を付けください」


そう注意を残して去っていった。


「わぁ、すごい! スフレがカップの2倍もの高さになっていて、ふわふわ揺れています! これが萎んでしまうから、1分以内なのですね!」


アリシアは驚きながら、納得したように頷いてスプーンを手にした。

先程怖い思いしただろうに、そんなのどこ吹く風といった様子で、目の前のチーズスフレに夢中だ。


「ふわぁ……溶けるようです、これ! 美味しいですよ、シリウス様! 初めて食べた食感です!」


一掬い口に運んだアリシアは、興奮気味に勧めてくる。


(可愛いなぁ)


アリシアの食べている姿を見ていると、こちらも嬉しくなるし、食も進んでしまうな。

僕も笑みを浮かべながら、チーズスフレを堪能した。

この1分以内チーズスフレ、本当に美味しいんです…また食べたい…まだお店が残っているといいんですけどねぇ(。。)

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