27.初めてがいっぱい
昨日、シリウス様に街へ出掛けようと誘われた。
何か用事があるのかな? と思ったら、街を知ることも勉強だと言われた。
なるほど! 平民になった時のために!
そもそも私、よく考えたら平民についてあまり知らなくない?
本で読んだ知識はあるけど、実際の平民の暮らしとか全然見たことがない。
貴族の教育を受けていない貴族で平民でもない私。一番、中途半端な立場では?
だから、シリウス様の提案に飛びついた。
それは勉強のためだけではなく、街への好奇心もあったからだけど。
(シリウス様は私の将来のことを考えてくれたんだ。本当に優しい)
もしかしたら、私が街へ行ったことがないことを知ってのことかもしれない。
だとしたら、マリーが教えたのだろう。
クロフォード家に来て、マリーからシリウス様達にどこまで話しても良いか確認されたことがある。シリウス様に隠すようなことはないから、何でも話して構わないと伝えていた。
******
シリウス様と出掛けると決まったら、マリー達がまた張り切り出した。
お風呂の方はやっと慣れてきたところなのに、今度は“おめかし“らしい。
私は新しい服なんて必要ないと言ったけど「シリウス様とお出掛けになるのなら、それなりの恰好をなさいませんと」と言われて反論する余地もなく、可愛い黄色のワンピースをフェリシアが持って来た。
(いつの間に用意していたのだろう?)
そして髪を結われ、顔にも何かをパタパタと……あ、これがお化粧というやつ!
「さぁ、出来ましたよ。お嬢様!」
そうマリーに言われて、目を開ける。
鏡に映る私は……何か可愛い?
すごく血色が良く見える。これがメイクの力?
頬は薄っすらとピンクがかっていて、唇も何だか赤く……
「お嬢様、本日は紅を差しておりますので」
「紅!」
あの有名なメイクアイテム!
令嬢達が、新色がどうだとか、塗り心地がどうこうと言っていたけど見たこともなければ、使ったこともなかったあのアイテム! それが、ついに私の唇に!!
「ルージュのことです」
「ルージュ!」
「口紅のことです」
「口紅!」
嬉しいというか、ちょっと興奮してしまって憧れの単語を復唱していたら、マリーに軽い溜息を吐かれてしまった。
「ハァ。とにかく極力、口元は触らないようお気をつけください。紅がずれては折角のメイクが台無しになってしまいますので」
「分かったわ!」
マリーの注意事項を聞き終えると、フェリシアが私の背後に鏡を持ってきて、後ろ姿も見せてくれた。
「わぁ! 可愛い!」
今までしたことのない髪型に、テンションが上がる。
この髪型は何ていうか……こう、三つ編みが両サイドから、こう……
「三つ編みでシニヨン風にさせていただきました」
何て言うのか分からずにいたら、フェリシアが教えてくれた。
これ可愛い。今までのただの三つ編みより、好きかも。
そうだ。今度からは、この髪型をお願いしようかな!
支度が整って、馬車へと向かう。
馬車の横に立つシリウス様は、普段と少し違って格好良かった。
いつものカチッとした服装も素敵だけど、こういう軽装も素敵。イケメンは何を着ても似合うと言うけど、本当だね。
初めて見たシリウス様の格好にドキっとした。
初めて訪れた市場は話に聞いていたよりも、ずっと賑やかだった。
見るもの全てが新鮮で、目が離せなくて。
シリウス様に手を繋ごうと言われた時は、気恥ずかしかったけど手を繋いでいて良かった。人の多さもあったから、絶対はぐれていたと思う。
初めての試食には戸惑ってしまった。売り物なのに食べていいの?
思わずシリウス様を見たら、少し笑ってお手本を見せてくれた。
私は市場の活気に酔ったように興奮してしまって、すっかり忘れていた。お金を持っていないことを。
シリウス様は「気にしなくていい」と言ってくれたけど……申し訳ない気持ちと、目の前のオレンジやブールドネージュに嬉しい気持ちが同時に湧き上がってきて複雑な心境だった。
初めて貰った花束は、とても嬉しかった。気持ちが高揚するのが分かる。
いつも庭で花は見ていたけど、こうして贈られると特別な気分になるものなんだね。
初めての屋台の食事は、とても斬新で美味しかった。
本当はシリウス様が決めていたお店に行くはずだったのに……私が美味しい香りに惹かれてしまった所為で、予定変更させてしまった。もう食べ物に釣られないように、気を付けなくては!
でもロブスターという海産物がとーっても美味しくて。味わえて幸せだった。
******
シリウス様も私も満腹になったところで、次は街の散策をすることに。
豪華なドレスがショーウィンドウを飾るお店や、ガラス越しに高価な宝石が並ぶ宝飾店の前を通って行く。
綺麗だと思って見ていると、シリウス様が「入ろうか?」と聞いてくるので、私は首を振って断る。
ただ見ているだけで、別に欲しいわけではないから。
買うお金もないけれど、仮に買ってもらったとしても卒業後にお屋敷を出る時は、シリウス様に全てお返ししようと思っている。そうなると売るのも手間だろうし、処分するなんてことになったら勿体ない。
シリウス様は優しいから、そのまま私に持って行くよう言うかもしれないけど……シリウス様から貰ったものを売るなんて私には出来ないから、ただ持て余すだけになってしまう。
そんなことを思っていると、ふと路地裏が目に入る。
奥の方は薄暗くてよく見えない。
「そっちはダメだよ」
シリウス様はそう言って、私の視界から路地裏を外すように手を引く。
何でダメなんだろう? そんな疑問が表情に出ていたのか、シリウス様は補足を加えてくれた。
「王都とは言え、治安が悪い場所があるからね」
治安が悪い。
そういえば以前、ジョンが『キャロラインお嬢様の護衛は大変なんですよ~。だから俺、アリシアお嬢様の専属になりたいな~』と言っていたことがあった。
専属どうこうは私が決められることではないので、父かゴードンにお願いするしかないのでは? と答えたのだけど。
あの時は、“大変”って何がかな?と思っていたけれど……そうか、街には治安が悪い場所があるからなんだ。
キャロラインはよく街へ出掛けていたし、あの見目と伯爵家の令嬢という肩書から、きっと狙われることが多くて“大変”ってことだったんだ。
そう一人、合点がいっていると
「あ、ごめん。怖がらせるつもりはなかったんだ」
とシリウス様が言う。
どうやら黙り込んでしまった私が怖がっていると、勘違いしてしまったらしい。
「いえ、違うんです。別に怖いとかでは」
「一応、護衛もついて来ているから、安心して」
「え、護衛?」
どこに? と思ったら、シリウス様が私の耳元で「分からないように、近くで待機しているんだ」と囁くように言う。
(そうなんだ?)
というか、耳元は……ちょっと心臓が跳ねた。
シリウス様は顔だけでなく、声も素敵なのだと今更ながらに実感する。耳が熱い。
私は思わず、熱くなった耳を押さえた。
「まぁでも、ここら辺にいる不逞の輩ぐらいなら、僕でも対処できるけどね」
とシリウス様は微笑む。
あ、そうかシリウス様は剣術も出来るんだよね?
ハッ! 今が“例の疑問“を確認するチャンスでは?
「あの、シリウス様はお屋敷でも剣術の鍛錬をされたりするんですか?」
「ん? あぁ、もちろん」
「それは、いつです?」
「早朝か、大抵は帰宅後だけど」
「どこで?」
「庭で……アリシア、もしかして見たいの?」
うっ、即行でバレてしまいました。
「あの、ほら……男女別の授業では、皆さんの剣術を見られないではないですか……それで、いつも刺繍をしながら、令嬢達が令息達の剣さばきを見たいと話していたので……」
「ふふっ、アリシアならいつでも歓迎するよ。今度、見に来たらいい」
私がしどろもどろで話すと、シリウス様は笑っていた。
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