26.美味しい屋台飯
シリウス視点になります。
僕の右手にはオレンジ、左手にはアリシアから受け取ったブールドネージュ。
アリシアの左手には先程の花束。
「アリシア、両手が塞がってしまったから、僕の腕に手を」
そう言って、僕は左腕を少し上げる。
アリシアは一瞬迷ったようだったけど、おずおずと手を添えてきた。
(これは……結構、距離が縮まっているのでは?)
喜んだのも束の間、僕の中のフェリシアが「縮まったのは、単に物理的な距離です」と忠告してきた。
(そうだよな、これは心の距離ではないよな……)
一旦馬車に戻って、荷物を置く。さて、次は昼食だ。
両手が塞がって良かったと思っても、さすがにあの荷物を持ってお店に行くのは憚られる。
「また、どこかに行くんですか?」
そのまま馬車で帰ると思ったらしいアリシアは、乗り込まずに歩き出したため疑問に思ったようだ。
「次は昼食に行こう。向こうに良い店があるんだ」
言いながら僕は市場とは反対方向を指差すと、アリシアの手を取って歩き出した。
そちらに向かっていると、どこからともなく良い香りが漂ってきた。
「シリウス様、この香りは?」
「あぁ、屋台だね」
近くの広場に、いくつもの屋台が出ている。
それはソーセージをただ焼いたものから、色んな具材が入ったパイ包みやサンドイッチの他、ポテトやタマネギを揚げたものもなど様々だ。
中には、今日だけ出店だというロブスターを挟んだバーガーなんて珍しいものもある。
この広場では常に、何かしらの屋台が出ているのだろう。
買ってすぐ食べられるように、テーブルと椅子も沢山並んでいて、皆の憩いの場になっているようだ。
アリシアを見ると、その顔は好奇心に満ち溢れていた。
このデートプランを決めた時、最後にフェリシアから注意事項として言われたことを思い出す。
「シリウス様、これはあくまでプランであって、決定事項ではございません。当日はアリシア様の反応を見て、臨機応変に変更なさってください」
そう言われていた。
今がきっと、その変更すべき時だろう。
「アリシア、食べてみる?」
「え、でも……」
僕が「昼食は、あれにしようか!」と屋台を指すと、アリアシはとても躊躇うように困った顔をした。
予定変更していいのかとか、僕のこと無碍にしていないかとか、きっとまた色々と気にしているのだろう。
「行こうとしていたお店は予約していたわけではないし、また別の時に行けばいいよ。それより今、アリシアが食べたい物を食べよう」
僕はそう言ってアリシアの手を引いて屋台に近づく。
そこにあるのはアリシアが知らない食べ物ばかりだったらしく、不思議そうにしているので僕はあれこれと説明した。
(屋敷を抜け出して街へ来た時に、買い食いをしていて良かった)
アリシアは初めて見る料理に、どれにするか決められないようでオロオロと目移りしている。
その姿が可愛くて、しばらく眺めていたけど……あんまり意地悪してはいけないな。
「分けて食べようか?」
そう提案して、アリシアが迷っていた料理を全て買った。
ケバブの入ったピタパンサンドイッチ、チキンを挟んだワッフル、白身魚とポテトのフライ……あぁ、ロブスターのバーガーも、もちろん! これは僕も食べてみたかった。
今まで、大して食事に関心を持ったことはなかったけど、アリシアと一緒に食べるようになって興味が湧くようになってきた。
(きっと、アリシアが美味しそうに食べているからだろうな)
僕にも変化があったようだ。
野菜も食べるようになったことを、フェリシアやジュリアン達使用人からも驚かれている。
僕達は、近くにあった椅子に腰かける。
テーブルには、買ったもの全てが隙間なく並べられた。
結構な量にアリシアは食べられるか心配しているけど、まぁ二人で分けるなら、例えアリシアが小食でも大丈夫だろう。市場で歩いた分、僕のお腹は空いている。
どれも手掴みで食べるものばかりだった所為か、アリシアはカトラリーを使わないことに驚いて、どうしたものかと考えあぐねているようだった。
けれど僕が「ここは庶民の場なのだから、貴族のテーブルマナーなんて関係ないよ」と言えば、すぐさま納得した。
アリシアには、どれぐらい食べられるか聞きながら、僕より少なめに分ける。
そして二人で一緒に「いただきます!」と齧り付いた。
食べ進めていくにつれ、アリシアの目はキラキラと輝きが増す。
このアボカドソースが美味しいとか、控えめだけど甘さのあるワッフルに濃いチキンの味付けが合っているとか、ただのフライも塩味だけでこんなに美味しいとは! とか。ロブスターに至ってはもう驚きすぎて一瞬、時が止まっていた。
それぐらい美味しかったらしい。
(満足してもらえて良かった)
今後、我が家の食卓でもロブスターを出してもらおう。
アリシアの笑顔が見られるのなら、何でも用意したい。
ここら辺で、ロブスターを入手することは難しいかもしれないが。
(そこはジュリアンの腕の見せ所だな)
あんなに沢山あった食べ物達は、アリシアと談笑しながら食べている内に、すべて綺麗になくなった。テーブルに残されたのは、料理が入っていた包み紙や箱だけだ。
アリシアは満足気な表情を浮かべながら、もう食べられないと口元を抑えている。
さすがの僕も、かなり満腹だ。
まぁ、ここからまた歩くから、フェリシアにお勧めされたカフェに着くまでには消化されるだろう。
さて次に向かうのは―――
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