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魔力無しですが溺愛されて聖女の力に目覚めました  作者: しろまり


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23/105

23.デートに誘おう

シリウス視点になります。

「ふぅ……」


僕は、鏡の中の自分をジッと見つめた。



******



どうしたらアリシアの中にある、本人ですら気が付いていない影を取り除くことが出来るのだろう。


どんなに考えても答えは出なかった。

それならば、僕が出来ることを思いつく限りしていこう。


今はただ、傍にいたい。寄り添っていてあげたい。

君を愛する、大切に思う人間が、ここにいると気づいて欲しい。


(それに、僕も目的を果たさないと)


沢山の時間を共有して、僕を知ってもらって、好きになってもらわなくは。



そう思ってアリシアに付き添っていたら、フェリシアに止められた。


「しつこい男は嫌われますよ」


ズバッと一刀両断。

いや、別にしつこくはしてないだろう?


「シリウス様のお考えも分かりますし、アリシア様にとっても必要なことだとは思いますが、過度の干渉はアリシア様の負担になるだけです。適切適宜でなければ鬱陶しいだけです」

「う゛……」


さっきからグサグザッと、フェリシアの言葉が僕に刺さる。


「では、どうすれば……」

「ハァ」


仕方ないですねと言うように、フェリシアの口から溜息が漏れる。


使用人の態度としては問題があるように思われるだろうが、フェリシアは僕の乳母の娘、つまり乳兄弟にあたる。

長い付き合いで気心も知れているし、信頼もしている。そして今まで迷惑もかけてきたので、頭が上がらない部分もある。


「アリシア様がお一人になりたい時、またそうではない時をシリウス様にお知らせ致します」


フェリシアは優秀な侍女だ。

すでにアリシアの使用人とも打ち解け、情報交換も盛んに行っている様子で、時々アリシアのことを僕にも教えてくれている。

ここは、そのフェリシアの提言通りにするべきだろう。



数日経った後、そのフェリシアのおかげかアリシアとは良い距離を保てているようだ、屋敷内では。


「お屋敷では、わたしくしがお教えすることは出来ますが、学園では出来ませんのでご注意くださいませ」


そうフェリシアに言われていたのだが……この間、思いっきりやらかした気がする。


よくよく考えたら、アリシアが休み時間に自ら教室から出ていくことはほとんどなくて、退室するとすれば目的は“それ”だけだったのに……。


それ以来、僕に声を掛けずに教室から出ようとしている時は、見て見ぬふりをしつつ、そっと後をつけて見守るようにしている。


後日、学園での様子をフェリシアに聞かれ、そう答えたら残念そうな目を向けられたが、アリシアが気づいていないのならギリギリ良しということになった。



そして、フェリシアが次に提案してきたのが


「シリウス様、そろそろアリシア様とお出掛けくださいませ」


だった。


「出掛ける?」

「はい、そろそろアリシア様も、このお屋敷の生活に慣れられた頃かと思われますので」


慣れたら、出掛けた方がいいのか?

僕の顔に「何故?」と書いてあったのか、フェリシアは溜息を吐きつつ言葉を続けた。


「ずっとアリシア様に思いを寄せておきながら、一歩も踏み出すことも出来ずにいたヘタレのシリウス様が、どのようにアリシア様を射止めたかは存じませんが、わたくしがお見受けしたところお二人の間には距離がございますので。あぁ、心の距離であって物理的な距離ではありませんよ。それはもう十分ですので」


ヘタレの部分が強調されていたのは、気の所為ではないだろう。


(別に僕はヘタレではない! ただ、アリシアに思いを告げるのは、まだ早いと思っていただけで)


そして言われなくても、心の距離の話しだということぐらい分かる!

ん、心の距離……やはり、あるのか……。


「それを埋めるためにも、ここでデートをなさった方がよろしいかと存じます」

「確かに、そうだな。ではどこへ行こうか。美術館? 演奏会? 舞台もいいかもしれないな。今は何の演目をやっている?」


僕の問いに、考えている様子のフェリシアは、後ろにいるマリーに声を掛けた。


「アリシア様のお好みは、どのようなものですか?」

「あの……お嬢様には、美術館も演奏会も舞台もお勧め致しません」


質問を投げられ、マリーは少し言葉を詰まらせながら言う。


「ん、どれも興味がないということかい?」


僕が尋ねると、マリーは少し表情を曇らせた。


「いえ、そうではないのですが……あの、シリウス様はお嬢様のクラディア家での事情をご存じなのですよね?」


マリーは確認するように「お嬢様から、シリウス様にはクラディア家でことをお話ししていると、うかがっておりますが……」と言う。何かあるのだろうか。


「あぁ、知っているよ」

「それなら、隠さずお話しさせていただきます。お嬢様はお屋敷と学園以外、外出されることを禁止されておりました。そのため美術館も演奏会も舞台もご覧になったことがございません」


何だって……?

外出禁止についてアリシアから聞いてはいないが、報告書を見て知ってはいた。

しかし、一度も行ったことがないとは知らなかった。


「それなら、尚のこと見せてあげたいと思うけど」


知らないのなら、ぜひとも見せてあげたい。

そう思ったが、それに異を唱えたのはフェリシアだった。


「シリウス様のお気持ちも分かりますが、アリシア様が一度も鑑賞されたことがないとなると、わたくしもお勧めいたしません」

「何故だ?」

「アリシア様は絵画の芸術に対する理解も、音楽や舞台の表現に対する知識も持っておられないと思われます故。アリシア様には些かハードルが高いかと存じます」

「あ……」


そうか、あの手のものは前もって知識がある方が楽しめる。もちろんなくても楽しめはするけど……貴族の教育を受けていないことを気にしていたアリシアにとっては、また気がかりの種を増やすだけだろう。


「では、どうしようか」


貴族が出掛ける主だった場所を封じられて、僕には他に心当たりがなかった。


「あの……ただ、街へお出掛けになるだけで十分かと思います」


そう言ったのはマリーだった。


「街に?」

「はい。お嬢様は街の様子を私含め使用人から聞いて、思いを馳せていらっしゃいましたので」


それを聞いてフェリシアが、ジトーとこちらを見ながら言った。


「そうですね、街は良いですね。シリウス様も街に行ってみたいからと護衛も付けずに、こっそりお屋敷を抜け出して一人で遊びに行かれていましたものね」

「う゛……あの時は、すまなかったよ」


そう、僕がいないと分かって大騒ぎになり、大勢の使用人達が僕を探し回ることになってしまった。


そんなことになっているとは知らず、平然と帰宅したら当然のことながら、両親からこっぴどく怒られた。


「えーっと、それでは街のどこへ行けばいいかな?」


僕は話題を変えるように、マリーに尋ねる。


「それなら市場はいかがでしょうか? お嬢様が『一度は市場へ行ってみたい』と言っておりましたので」

「あぁ、それはいいね」

「それでは市場に行かれて、その後は」


マリーの提案に僕が同意すると、フェリシアが詳細を詰めていく、こうして今度の休日に向けてデートプランを三人で……正確にはフェリシアとマリーの二人で計画した。


アリシアのことをよく知っているマリーと、やはりここは女性のフェリシアの二人の方が、男の僕より余っ程アリシアの心を掴めるプランが立てられるだろう。


ほどなくして、フェリシアは出来上がったプランを説明しつつ、最後の締めに言った。


「それでは、あとはデートのお誘いですが、それはシリウス様がなさってくださいませ」


え?

てっきりフェリシアかマリーが、アリシアに伺いを立てると思っていたのだが。


しかし、フェリシアは「シリウス様もヘタレからの脱却を」と言い残してマリーと共に行ってしまった。


(だから、僕は別にヘタレでは……ない!)



休日が近づいた。

学園が休みの日、アリシアはいつも部屋に籠って勉強をしている。

それは授業のためだったり、平民になった時のためだったりするようだ。

卒業後も君を手放す気はないのだけど……まだ伝わらないみたいだね。


図書館で、そろそろ帰ろうと用意していると、アリシアがトコトコと本棚から戻ってきた。


その手には沢山の本が。どうやら休日に向けて、借りようとしているようだ。

今誘うのはタイミングが悪い気もするが……肝心の休日が、実は明日なので今しかない。


(フェリシアに、色々準備があるから今日帰宅するまでに誘うようにと、せっつかれているし……)


僕は意を決して、アリシアに声を掛けた。


「アリシア。今度の休日は、一緒に街へ出掛けないかい?」

「街ですか?」


街と聞いて、一瞬アリシアの目が輝く。が、すぐ手元の本に視線が移る。

街と、勉強とどちらを取るか、その心は揺らいでいるようだ。


「ほら、街の様子を知ることも勉強だと思うし、将来役に立つかもしれないよ」


慌てて言葉を付け加えると、悩まし気だったアリシアの表情がパッと明るくなる。


「行きたいです!」


それは街への好奇心なのか、平民になった時に役立つと思ったのか、どちらかは分からないけど、ともかく


(よかった!)


勉強したいと、断られたらどうしようかと思っていたから、本当にホッとした。



******



そして来たる本日。


「さて、そろそろ行くか」


鏡の中の自分に活を入れるように、声を出して部屋を後にした。

お読みいただき、ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)⁾⁾

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