22.貴族の慣習
シリウス視点になります。(おまけはアリシア視点です)
「なぁシリウス、本当にアリシアと結婚したのか?」
授業が終わり、皆が帰宅の準備をしている最中、半信半疑といった様子で声を掛けられた。
「ん? 何か問題でも?」
「いや、だってさぁ……」
そう言いながら、彼は同意を求めるように周りを見ている。
「“魔力無し”だぞ?」
「それが何か?」
何てことはないと言い返すと、少し奇妙なものを見るような視線を返された。
「『何か?』って……シリウスなら、あんな“魔力無し”じゃなくて、もっと良い条件の令嬢がいっぱいいるだろう?」
「そうそう、選びたい放題だろう?」
「例えば、ほらエリザベス嬢とか」
数人が集まり「引く手あまただろう」にと口々に言う。
「何でよりによって“魔力無し”なんかと……信じられないな」
「そんなに魔力の有り無しが重要か?」
「そりゃ、そうだろう」
さも当たり前という言い方に、そして賛同するように“うんうん”と頷く周りの生徒達に、苛立ちを感じた。
「そうかな? アリシアはとても素敵な女性だよ。その“良い条件”とかいう他の令嬢達よりもずっとね」
「いやいや、無能な“魔力無し”に何を言っているんだよ。おかしくなったのか? シリウス」
「おかしいのは君達の方じゃないか? あの日……魔力検査の日、いや、検査結果が出るその時まで、君達は温和で勤勉なアリシアに一目置いていたじゃないか」
そう言って周りを見渡すが、僕に同意するものは誰もいなかった。
「それなのに魔力が無いと分かった途端、軽蔑するように冷たい態度になった。その方が余っ程おかしいと僕は思うけど」
「いや~、だって“魔力無し”だとは思っていなかったからなぁ」
それまでのアリシアへの評価が間違っていたというように、彼女を否定している彼らに腹が立ってくる。
「魔力があろうとなかろうと、アリシアの人柄と聡明さは変わらないだろう。それなのに魔力が無いというだけで、それまでのアリシアを全て否定できる君達の方が信じられないな」
僕がそう言い放つと、彼らはまるで異端者を見るような目を向けてきた。
これがこの国の、貴族の慣習なのだろう。
アリシアが同じような目を、ずっと向けられていたと思うと怒りが増すと同時に、こちらにも事情があったとはいえ、もっと早く彼女に手を差し伸べるべきだったと後悔の念が湧いてくる。
(……今からでも取り戻せるだろうか)
ふと教室の出入り口を見るとそこに
「アリシア!」
今の話を聞かれていたのか!
僕は少し焦ったが、他の生徒達は気にする素振りもない。
今の会話がアリシアをどんなに傷つけているか気づかないのか、それともそれすら気にならないのか。
僕は、今にも踵を返しそうなアリシアに駆け寄ると、その手を取った。
「行こう、アリシア」
そして軽蔑するように、教室内を睨んだ。
「ごめんね、アリシア」
「……シリウス様が謝る必要はないですよ」
「アリシア……」
言葉が出てこない。何て言ったらいいのか分からない。
慰めの言葉を掛けるのは違う気がする。
かと言って、彼らの言っていたことを気にするなと言うのも違う気がする。
今、アリシアに必要な言葉、掛けるべき言葉が見つからなかった。
「あれが普通なんだと思います。それに、もう慣れました」
言葉を詰まらせている僕に、アリシアは苦笑いを浮かべながら当たり前だと言う。
そんな悲しいことがあって堪るか!
「慣れたらダメだ!」
思わず大きな声が出てしまった。
ビクっとアリシアの身体が揺れる。
「あ、ごめん……でも、慣れたらダメだよ。あれは君に向けられるべき視線ではないし、君が受けるべき仕打ちでもない」
「ありがとうございます、シリウス様。でも私は大丈夫です。それよりシリウス様の立場が悪くなってしまっていないか心配で……」
僕の言葉に、アリシアは一瞬キョトンとした顔を見せたけど、すぐ緩やかな笑みを浮かべて平気だと言う。
そして僕の心配をするのだ。
自分はそういう扱いをされて当たり前。だけど僕は違うと言わんばかりに。
あぁ、きっと……あの家での酷い環境の所為なのだろう。
自分が虐げられることに慣れてしまっている。
どうしたら……どうしたら君を、本当の意味で救い出せるのだろう?
どうしたら君の心の影を晴らして、本当の笑顔を引き出せるのだろうか。
アリシア自身は気づいていないだろう……いつも僅かに影が差している、その笑顔に僕の胸は締め付けられた。
~~~おまけ~~~
あれから、シリウス様がずっと傍にいる……気がする。
いや、きっと気の所為ではない。
屋敷では私が自室に籠ってしまうとそうでもないけど、学園では片時も離れないといった感じ。
シリウス様が隣にいると絡まれることも、ぶつかられることもないから、それは助かるのだけど……1つ問題が……重大な問題がある。
そして、それは! 今まさに! 起きている!
(ぉ、お、お手洗いに行きたいのですが!!)
どうしよう、困った。
この間、シリウス様の目を盗んでサッと行ってきたら、とんでもなく心配された。誰かに連れ出されたと思ったらしい。
それ以来、監視の目(?)が厳しくなってしまって……うぅ、仕方ない。えっと、こういう時は確か……
「シ、シリウス様……私ちょっと……ぉ、お花を摘みに行きたいのですが……」
貴族の令嬢は、こう言うらしい。面白いよね、お花を摘みに行くって。
いや、本当に花を摘みに行くと思われたらどうしよう?
「え……あー、そうか。うん、分かった」
シリウス様は一瞬、何のこと? という顔をしていたけど、すぐ翻訳出来たらしい。
さすが貴族、言葉が通じる!
でもシリウス様は一緒に歩いてくる。
えっ、まさか……お手洗いにまで、ついて来る気では……。
一体何を心配しているのか分からないけど、さすがにお手洗いで何か起きたりは……するか。
(令嬢が何かする可能性がないとも言えないかも?)
複数の令嬢達に囲まれたら、この間のエリザベス様の時みたいに、どこかへ連れて行かれてしまうかもしれない?
(いや、でもだからって、男子が女子の……ちょっとそれは……)
なんて心の中で、もだもだしていると角を曲がったら、お手洗いって所でシリウス様は立ち止まり、行っておいでと促してきた。
あ、そういう! ギリギリまで傍にいるけど、ちゃんと配慮はするって距離感!
この距離なら、いざって時シリウス様の名前を呼べば駆け付けられるよ的な!!
(いやいやいや、過保護が過ぎませんか???)
そこまで考えての行動か分からないけど、色んな意味で安心してお手洗いに行くことが出来てホッとした。
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