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食欲の秋

 刑の執行から数時間。新たな犠牲者を三名ほど出しながら解読作業は続いた。読むだけで精神に異常をきたす有害指定図書が平然と掲載されている事実に愕然としながらも、それが必要とあらば読みふけるのがゲーマー。なかなかどうして業の深い生態をしていると我ながら感心するね。


 呆れにも似た敬意を抱きながら適当に斜め読みをしていたところ、肩にポンと手を置かれた。ヨミさんだ。


「なかなか面白そうな配信を見ているじゃないか。ん? まさか君がそんなに不真面目だとは思わかなったぞ」


 ……人が見てる配信は共有モードにしないと覗き見ることは出来ない。なぜバレた? 目の動かし方の偽装は完璧だったはず。……ブラフか? あり得るな。僕は様子見ですっとぼけることにした。


「何を言ってるのか分からないな。いまちょうど百三話を読み終わったところだよ」


「あのつまらない話に盛り上がる要素はなかったはずだが……君は度々唸り声を上げていたな。何か感動した点でもあったか?」


 どうやらクソスポーツ民が魅せた好プレーに思わず声を出してしまっていたらしい。なんたる失態。どう誤魔化すかを瞬時に練り上げるも、僕が口を開く前にヨミさんがレッドの三人組をスッと指差した。


「そして、唸るタイミングがあそこで配信を見てるレッドネーム共とまるで同じだったのは単なる偶然かな?」


 あいつらもクソ野球見てたのか……。どうするか。僕は問題の矛先をレッドネームに反らした。


「僕は一応百三ページまで見たのは事実だよ。一ページも読んでなさそうな彼らを注意するのが先なんじゃない?」


「私は奴らには端から期待していない。そもそも呼んでないというのに君に付いてきたんじゃないか」


「そうだぜー? 俺らに罪をなすりつけようなんて浅ましい真似すんなよなー」


「むしろ大人しくしてるだけマシだろ?」


「このクソ野球もルールが制定されてからだいぶ見れるようになったよな。俺オーガーズ推しなんだけどお前は?」


「僕はロックドールズかな」


「野球談義は後でやれ。お前らも協力するつもりがないなら出ていけ。邪魔だ」


 野球じゃない。クソ野球だ。あれを伝統ある野球と一緒くたにするのは礼を失する。

 ホームラン級の当たりが出ても無効にされるって普通にクソだからね。ホームスチール成功率百パーセントとかお話にならないよ。攻めも守りもクソバランスで成り立っているからクソ野球なのだ。


 さておき、邪険にされたレッド三人組は不満顔だ。自分達が一切役に立っていないという事実を棚に上げていきり立つ。


「おーおー、最近それらしい成果を挙げられてないのに偉そうだな?」


「過去の栄光に縋ってんじゃねぇぞー」


「この前の料理大会も結局空振りだったしな。目の付け所がワリぃんじゃねーの?」


 ここぞとばかりに煽り散らかす三人組。サービス開始から今に至るまで他人の足を引っ張り続けて来た者達だ。その開き直り具合はある種の風格を帯びている。十万人近くいたプレイヤーが淘汰される中で生き残った選りすぐりのエリートゴミである彼らは害悪プレイに躊躇いがない。実績ある先人にツバを吐く程度は朝飯前だ。


 だがしかし相手はヨミさん。程度の浅い煽りくらいは軽く受け流すだろう。


「あ゛?」


 おっとアテが外れた。どうやら彼らは地雷を踏み抜いてしまったらしい。

 般若もかくやの形相を浮かべたヨミさんがドスを利かせた声を出す。


「お前らはあれが料理大会に見えたのか? 誰一人としてまともな料理を作らなかったあの大会がっ! 空振りだと? 違うな。あれは料理を作っていた奴らのせいだ。間違いない。目の付け所が悪いなど、笑わせる」


 キレるポイントそこかよ、という声が聞こえてくるような空気であった。そして流れるようにディスられたショーゴが酷い顔を浮かべている。


「ふん、丁度いい。それなりの人数も居ることだし、我々の着眼点に曇りがないことを証明する機会としようか」


 不敵な笑みを浮かべたヨミさんが周囲を睥睨し、バッと白衣をなびかせて宣言する。


「第二回、最強料理王決定戦!」


 だそうだ。


 ▷


 ごく自然な流れで料理大会の開催が決定された。場所を噴水広場に移し、前回と同様の舞台を整える。スポーツ目当てのプレイヤー達が野次馬のように集まってきてちょっとした騒ぎだ。いい宣伝になるといいね。


 僕は再び審査員の役目を仰せつかった。他の審査員にはヨミさんの事をディスったレッドの一人と、あとは何故かアマゾン鳥男さんが抜擢された。

 ホシノはスポーツ女子に粉をかける仕事があるし、ビストロさんはクソスポーツのルール改定に大忙しだからね。即席審査員になるのはやむなし。


「さぁて始まりました第二回料理王決定戦! 第一回の優勝者に不満ありとのことなので開かれました今大会。記念すべきトップバッターはショーゴ選手! 輝かしいリベンジに期待したいところです! ではショーゴ選手、一言お願いします」


 急遽駆け付けたショチョーさんが無茶ぶりにも屈せず司会を務めてみせる。芸人魂の見せ所といったところか。

 前回惨敗を喫したショーゴが渋々と歩み出る。なにやら浮かない顔だ。


「あの……自分の他に適任はいないっすかね?」


「はい、ありがとう御座いました! リベンジに燃えているようで何よりです!」


「えっ、無視? あの、審査はお手柔らかにお願いするっす……」


「無味乾燥は料理の敵! スパイスの効いた評価を期待したいところです。それじゃいくぞ! レッツクッキング!」


 強引に話を纏めたショチョーさんの勢いに押されてショーゴが調理を開始した。


 取り出したのは食パン。そしてツナ缶、ピーマン、玉ねぎ、チーズ、ケチャップ。そこそこの大きさに切った玉ねぎとそこそこの輪切りにしたピーマンを、ケチャップをそこそこ塗りたくった食パンに乗せる。ツナとチーズを被せるように乗せ、オーブンでそこそこの時間焼き上げる。出来上がったのはピザトーストだ。


 適度な大きさに切り分けられた料理が配膳される。ふむ、出来は良さそうだ。


「ショーゴ選手はピザトーストを作りあげました! 食パンで作る料理にしては手間をかけた一品! 今大会の基準となるであろう点数が非常に楽しみなところです! では審査員の方は実食をお願いします!」


 いつもの流れで促されたので僕はピザトーストを完食した。うん、なるほどね。


 僕は2点の札を掲げた。鳥男さんが4点、レッドは1点だ。15点中7点。なかなかの好記録である。心なしかショーゴも嬉しそうな顔をしている。


「おっと!? これは大会史上一番の好記録です! むしろこの点数で一番というのがおかしい気もしますが、それは横に置くとしましょう。では審査員のアマゾン鳥男さんから順に感想をお願いします」


「アマゾン鳥男って言うのやめてほしいんですけど……。えっと、野菜もあるし色も一通り揃ってるので4点としました」


「ちょっと塩っぽかったかな。2点」


「紛いもんじゃない普通のピザが食いたくなった。審査員にそういう気持ちを抱かせちゃおしまいよ。1点」


 若干一名ほどふざけた審査員がいるが、どうやら前回のような毒物を出した狂人が優勝という事態は回避できそうである。あんなのただの放送事故だからね。今回こそは勘弁願いたいところだ。


「審査員が二名ほどふざけている気がしますが、まぁ前回よりはマシだと思いましょう! 見事優勝候補に躍り出たショーゴ選手に拍手を!」


「今度は優勝するっすよ!」


 拍手喝采の中をショーゴが笑顔で去っていく。手応えあり、と言ったところか。次の選手の番狂わせに期待したいね。


「続いての選手はこの方です! 『花園』所属! 戦闘職のまとめ役のシラギクだぁ! レイピア捌きに定評のある彼女ですが、料理の腕はいか程なのか期待が高まります! では一言お願いします」


「……私、ギルドのメンバーを迎えに来ただけなのですが、どうしてこんな事になっていらっしゃるので?」


「私も数十分前に突然聞かされたのでさっぱりですが、一言で言うなら流れですかね」


「はぁ。まぁ、やるからには全力を尽くしますわ」


「シェフを顎で使っていそうなお嬢様キャラのシラギク選手は一体どのような料理を作るのでしょうか! それじゃいくぞ! レッツクッキング!」


 シラギクはまずフライパンに油を敷いた。ダバダバと。揚げ物かな? と思ったら皮も剝かずにザクッと切った不揃いの野菜を投入。強火でガッ、ガッと炒める。包丁を使ってかき回すように炒める。おぉぅ……豪快っすね。


「お肉も欲しいですわね」


 鶏肉と豚肉をむんずとひっ掴んだシラギク。油でグチョグチョになったフライパンにドバッと投入。強火を頑なにやめない強気な姿勢に彼女の性格が出ているようだ。


「味付けは塩と胡椒かしらね?」


 大さじ一杯山盛りの塩を投入。おまけでもう一匙。胡椒も忘れない。合計二十回ほど振りかけただろうか。うーん……。シラギクの顔をチラリと伺う。眉間に寄った皺に細められた目。なんと真剣そのものだ。そっかぁ。僕は色々と察した。


 強火でカラッと揚げられた野菜と肉。キッチンペーパーで油を切ることなく差し出されたそれは、料理と呼んでいいのか分からないシロモノであった。彼女は調理実習の経験とか無かったのかな?


「肉野菜炒めですわ!」


 肉野菜炒めらしい。なるほどね? 僕は両サイドの二人に小声で問いかけた。


「中が生の肉って食べても平気だっけ?」


「生肉は平気だったと思いますけど……」


「塩分と油、それに生焼け……焼け? 肉だとトリプルコンボでアウトかもな」


 油したたる高カロリー肉野菜炒めを前に僕らは腹を括った。モッチャモッチャと食い進める。これは……うん。人には向き不向きがあるということを僕は改めて痛感した。


「……えー。それ、では審査員の方は採点を……どうぞ」


 ネタにし辛い空気を感じ取ってテンションが下がったショチョーさんに促され僕は2点の札を掲げた。鳥男さんは3点。レッドはなんと5点だ。なんでだよ。


「いやったぁっ!!」


 まさかの二桁点数を叩き出したシラギクがグッと両手を握り、ピョコンと跳ねて喜びを露わにした。会場はドン引きである。出るはずのない冷や汗が出そうなざわめきが場を支配する中、促されたので感想を述べていく。


「えっと、栄養バランスは考えられていたので……まぁ、はい」


「ちょっと油っこかったよね。2点」


「キャラ的に完璧だった。なんというか、生焼け肉よりも生々しいリアルが透けて見えたところが非常に美味だったわ。料理してたら爆発したっていうお約束を見たかったが、それを求めるのは酷だろう。文句なしの5点」


 料理の中身関係ないじゃんね。やっぱりレッドネームって根っこのどこかが狂ってるわ。

 15点中10点という高得点を叩き出したシラギクがルンルン気分で舞台を後にする。ちなみにショーゴの優勝の目は消えた。泣けよショーゴ。


「えー、まさかのダークマター、いえ、ダークホースとなりましたシラギク選手に拍手を。さぁ気を取り直して次の選手の紹介です! 『貴様らの料理は料理じゃない。私が真の料理というものを教えてやろう』。『検証勢』のトップ、ヨミ選手が大会に殴り込みだぁ! では一言お願いします」


「全くもって度し難いな。あんなものを料理と呼ぶのは食文化に対する冒涜に他ならない。味覚制限がどうした。出来のいい料理はシステムの壁を超えるということを教えてやろう」


 ヨミさんは料理漫画に出てくる敵役さながらのセリフ回しを披露して舞台に上がった。期待を煽る発言は同時にハードルも引き上げる。それだけにハードルを超えてきた時は高得点は確実だろう。お手並み拝見と行こうか。


 大口を叩いたヨミさんが取り出したのは中華鍋だ。それも二つ。二鍋流だと……?


「料理を作れと言われて一品しか作れなかった。なんという底の浅さ。あれらと比較される事すら業腹だ」


 流れるような手際で具材を切ったヨミさんの豪快な調理が幕を開ける。炒められた具材が奏でる音と、鍋とコンロが擦れて鳴る音が観客を楽しませる。品目はチャーハンとホイコーローだ。クルと鍋を返し、チャーハンが波のように宙を舞った。おぉーという歓声が客席から上がる。見ても聞いても楽しめる料理だ。なるほど豪語するだけはある。


「なぁ、なんか完璧すぎてむかつくから皆で1点の札挙げて泣かそうぜ」


「なんで君らはそんなに性格悪いのさ」


「それお前が言う? 何食っても同じような感想で2点しか付けないお前が言うの?」


「シリアの時は審査放棄したよ」


「それ以外は2点だけだろ」


「率直な感想を言ってるだけだよ。無理に捻り出した言葉で飾る方がむしろ失礼ってもんでしょ。とにかくそんな下らないことはしないよ。鳥男さんもそう思うでしょ? ……鳥男さん?」


 アマゾン鳥男さんの返事がなかったので不審に思って顔を覗き込む。酷く青ざめた顔。VRでここまで表情が変わるのは珍しい。一体どうしたというのだろうか。


「あ、ライカン、さん……さっきもらった爆薬……『検証勢』のギルドハウスに忘れてきちゃいました……。銃弾に火薬込めてたら突然会場移動するって言われて、すっかり頭から抜けてて……」


 おいおいしっかりしてくれよ。あれは危険物だ。誰かの手に渡ったら大変なことになる。それこそ頭のおかしいレッドの手に渡ろうもんなら事だ。僕はため息を吐いた。


「今すぐ取ってきなよ。審査員は……ショチョーさんとかに代わってもらえばいいでしょ」


「いや……それが、ですね。自分の勘違いならいいんですけど、あの料理台に置いてある袋……違いますよね? まさかとは思うんですけど……」


 鳥男さんは震える指で調味料群に混ざってる麻の袋を指し示した。いやいや。いやいやいや……。


「まさかね?」


「おい、俺が見てぇ爆発って、周囲一体を吹き飛ばす規模のモンじゃねーぞ!」


 サッと血の気が引いていく。一旦ストップの声をかけようとしたところ、ヨミさんがむんずと袋を引っ掴んだ。熱に浮かされたように叫ぶ。


「仕上げはこれだッ! 『検証勢』が手塩にかけて編み出した特殊スパイスを掛ければ究極の料理のかんせ――――」


 爆炎が地を舐める。

 調理者であるヨミさんも、司会のショチョーさんも、審査員である僕らも、会場に集まった客も全員漏れなく強火でジュッといかれて死んだ。唯一の例外は爆薬の持ち主である鳥男さんだけだ。彼にはもう爆薬を渡さないようにしよう。管理不行き届きだよ。


 料理大会と称したこの企画。第一回では死者を一名出し、第二回では観客諸共吹き飛ばす爆発オチを達成し、見事お蔵入りとなったのであった。天にも昇る味ってこういうことだったんだね、ホシノ。


 配信を見ていた視聴者や犠牲者の方からは批判的な声が次々と噴出。神スポーツゲーに引っ付いてるクソゲーという地位を確固たるものにした。

煮ても焼いても美味しくならないゲーム。それこそがNGOなのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 古き良き爆発オチ [気になる点] コテコテの取り違いネタってことでいいのかな? その特殊爆薬は検証勢にとっても貴重だったのでは…… [一言] 検証勢足るもの料理に使う暫定スパイスの袋の中身…
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