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スポーツの秋

 スポーツ大会の開催だ。


 僕の提案を持ち帰ったビストロさんは、すぐにギルドメンバーを招集して計画を推し進めた。メンバー総出で草案を練り、あれやこれやの議論を重ね、『花園』の生産職連中を巻き込んだ用具生産が行われた結果、大規模なイベントが実現することとなった。


 スタッフ達がコロシアム内で機材の設営をしている。忙しなく動き回る皆を観客席で見下ろしながらビストロさんが感慨深げに言った。


「なんつーか、やってやれねぇことは無ェって感じだな」


「基本的にみんな暇してるからね。面白そうな目的があったら一丸になるんでしょ」


「だなァ。『先駆』と『花園』と『検証勢』にゃ足を向けて寝れねぇな」


 生産職を多数抱えている『花園』はもちろんのこと、他のギルドも精力的に働いてくれた。

 廃人集団である『先駆』は『食物連鎖』の戦闘職を引き連れて血反吐を吐くような強行軍を敢行。大量の素材を乱獲して無償で寄付するという侠気(おとこぎ)を見せ付けた。

 数字や計算が大好きな『検証勢』は、各種器具や設備の規格調整や採寸を担当。素材の反発係数やら摩擦係数やらを入念に検証し、微に入り細を穿つ調整を施した。結果、現実に使用されているスポーツ用品とほぼほぼ同規格のアイテムを作成することに成功した。陰の功労者は間違いなく彼らだろう。


 なお『ケーサツ』は役立たずだった。彼らは戦闘に付いて行けず、専門的な事もチンプンカンプンだったため、ドキュメンタリー番組風のカメラマン役といういつものポジションに収まった。大会中は中継カメラとしてその役割を全うしてくれるだろう。


「ここまでは順調だったが、あとの懸念は……頭のおかしいレッドネーム達だなァ」


 ビストロさんが苦虫を噛み潰したような顔でポツリと漏らす。

 カップル騒動や簡易式チキンレース大会を滅茶苦茶にした彼らの活躍は記憶に新しい。僕は最近彼らと交流を深めたので、何故彼らがいちいちイベント破壊に躍起になるのかの一端を知ることができた。


 戦闘狂と呼ぶに相応しい彼らは、どうやら本気で、真剣に殺し合うことを望んでいるらしい。まこと理解に苦しむことに、彼らはただプレイヤーキルがしたいのではない。血沸き肉踊るような命のやり取りがしたいらしいのだ。『渇愛』とは、そんな彼らの満たされること無き飢えを象徴したギルドであるとのこと。


 どこの少年漫画の狂キャラなんだよっていうね。僕は他人がどういうプレイスタイルを取ろうと一定の理解を示すつもりだけど、あそこまで行くと理解の範疇から外れる。


 つまりは、構ってちゃんの集団だ。本気を出して欲しいから嫌がらせに終止する傍迷惑な連中。ユーザーイベント破壊に勤しむのもその一環だ。


 五大ギルドが力を合わせて成し遂げた大型イベント。さて、彼らが大人しくしているだろうかという問題だ。まあ十中八九乗り込んでくるよね。でも大丈夫。僕はビストロさんに笑みを投げかけた。


「彼らには話をつけてあるから大丈夫だよ。シリアとかいう真正の妖怪は邪魔に動くだろうけど、レッドの人達に抑えておくようにお願いしておいたから。今回は安心していい」


「お前……それもういよいよだぞ? なんでレッドネーム達の命令系統を掌握してるの……? 色んな意味で安心できねぇよ……」


「命令じゃなくてお願いだよ。このイベントは僕の原案で成り立ってるからね。滅茶苦茶にされたら、ちょっと困るなって説得したんだ。何をしでかすか分からないよって言ったら引き下がってくれたよ」


「実質命令なんだよなぁ」


「あとこれは提案なんだけど、彼らはあんなんでもトッププレイヤーだし、ルール厳守を条件に選手として採用してみたらどうかなって思うんだけど、どう?」


「そりゃ、廃人並みに動けるアイツらが選手として参加してくれたらそれなりに映えるしパワーバランスも取れるだろうが……制御しきれる自信がねぇよ」


 僕はパッと右手を挙げた。ユニフォームを着込んだモブレッド達がギュンと駆けつけ、ザザッと整列する。


「ルール厳守だ。いいね?」


『シャアッス!!』


「これでどう?」


「…………あなた、もうそれごまかす気ないじゃん……。もういい! テメェら! ぜってぇ問題起こすんじゃねェぞ!」


『ウィッス!!』


 万難は排した。舞台は整った。ここに新規ユーザー獲得を目的とした大規模イベント『第一回スポーツ大会』の幕が開く。


「景気よく行こうか。はい、宜しく」


 僕は花火玉を三つレッドに手渡した。彼らはギュンと空へと飛び立ち色とりどりの花を咲かせた。綺麗だね。


「それ絵面が最悪だからやめろッつってんだろ!!」


 ▷野球


 VRの野球ゲームは投高打低――投手が強く、打者が弱いという環境になりがちだ。理由は単純明快。球を打てないのである。


 VRスポーツゲームの上達に必要不可欠なものがある。センスか。技量か。知識か。


 違う。ラグ読みだ。


 こう動く! と意識してからのズレがあるというのはスポーツゲームにおいては致命的だ。投手が投げた球がミットに収まってからブンとバットを振るプレイヤーが後を絶たないのである。

 このズレのせいでまぁ打てない。熟練者ほどその経験が足を引っ張るようで、プロ野球選手が20打数ノーヒットを記録して放送事故になったのは有名な話だ。宣伝よりもネガキャンにしかなってない恐ろしい事態である。


 球を打つには勘を頼りにバットを振るう必要があるというつまらなさ。VRスポーツゲーがクソしか無いのはこれが理由だ。爽快感や達成感がまるで感じられないのである。


 振れば三振、守ればエラー。投げれば誰でも守護神級。これがVR野球ゲームの現状である。なおCPU戦は最弱設定でもなかなか勝てない。ゴミゲーかな?


 さて、それがNGOだとどう化けるのか。

 マウンドに立ったドブロクさんが大きく振りかぶる。対するはノルマキさんだ。バットを構える姿が堂に入っている。


 ピッチャー第一球……投げたッ!


「先頭打者ッ! ホォォォムランッッ!!」


 快音が響く。手堅くストライクを取りに来た初球を捉える豪快な一発。

 コロシアムの場外まで届けと言わんばかりの豪快なアーチはセンターが【踏み込み】を使った跳躍で捕球。結果はセンターフライだ。ワンナウト。


「クソゲー!?」


 ホームラン確実の打球をアウトにされたノルマキさんがトボトボとベンチに戻っていく。丸まった背中が哀愁を誘う。まぁ、そうなるよね。僕は同情した。


 さて、そんな感じで一回の表と裏が終了。ここまでの試合展開を一言で表すとするならば。


「クソゲーすぎない?」


「【踏み込み】と【空間跳躍】でNGOの特色を出したかったんだがなァ……見積もりが甘かったか」


 球を打ち上げた時点でほぼ確実にアウトになる。そして、ゴロになったら確実にセーフになる。【踏み込み】連発ムーブが送球よりも速いので、三振かフライでしかアウトを取れないのだ。


「ホームラン級の当たりが出たら内野も外野も池の鯉みたいに群がるのってどうなの」


「異次元野球として人気でねぇかな?」


「いくらなんでも馬鹿にしすぎでしょ。ランナーが一塁なのに【踏み込み】のゴキブリムーブ活かして犠牲フライになるって相当壊れてるよ」


「草も生えねえ……」


 来たる二回裏。セーフティバント無敵説を編み出した後攻チームがこの回20点を取り、審判の判断でコールド勝ち。あまりのクソゲーっぷりに会場はブーイングの嵐に見舞われた。


「ルール改定は急務だね」


「だなァ……気を取り直して次行くぞ」


 ▷サッカー


【踏み込み】は脚力強化のスキルだ。しかし、ボールを蹴るような動作への使用には向かない。

 厳密には、足の裏で何かを蹴る力を増幅するスキルなのだろう。故にスーパーシュートの連発でバカ試合になるという展開はなかった。


 その代わり、空中戦が行われることになった。


 ボールを蹴り上げ、【踏み込み】で追従。【空間跳躍】で微調整をしつつ胸トラップやヘディングを駆使して敵陣手前まで強襲。追いすがってきた味方がボールを引き継ぎシュートを決めるという、ちょっと理解の追いつかない試合展開が繰り広げられている。


「なにこれ」


「なんだろうなこれ」


【踏み込み】を使ったキーパーが五メートルほどの高さのボールをキャッチ。【空間跳躍】を使用してハーフウェーラインを飛び越し、そのまま味方に投げてパスをする。遥か上空でオーバーヘッドキックを決めるものの、飛び上がってきたキーパーにキャッチされ……なにこれ。


「異次元サッカーとして人気でねぇかな」


「その理屈は無理があるって」


 手を使っていいキーパーのムーブが強すぎるため、両チームとも点を取れずに前半が終了した。議論の結果、他の競技をやろうという結論でまとまった。僕らは何を見せられていたのか。


「なんかこう……惜しかったね。クソゲーになり損ねた残念ゲーって感じ」


「的確な表現やめろ。次だ!」


 ▷バスケットボール


 嫌な予感はしてたけどね。悪夢が現実になったよね。


【踏み込み】ダンクの連発。

 グンと空中に身を躍らせたプレイヤーが【空間跳躍】で切り返しそのままリングにボールを叩きつける。点を取られたチームはエンドラインから【踏み込み】で跳び込み、コート上空を悠々と飛んでダンクを返す。


「クソゲーだね」


「クソゲーだな」


 これは野球よりもひどい。なんかもう、意味が分からない。どれだけ魅せダンクを披露できるかの勝負に変わりつつある。

 第一クォーター終了時点で136対138というバカ試合。協議の結果、もう続けなくてよくね? という意見が選手から上がったためノーコンテスト。


「【踏み込み】無くさない?」


「ルールブックの改定が必要になるな……新ルールは後日適用するとして、今日はもうこのまま行くぞ」


「ヤケクソじゃんね」


 ▷バレーボール


【踏み込み】無双はここでも遺憾なく発揮された。

『花園』の女プレイヤーがトスを高く上げる。脚力を強化してボールに追い付いたプレイヤーが更に上空へとトスを上げる。そして超高度からのスマッシュ。

【踏み込み】ブロック隊の隙間を縫う強烈な一撃が見舞われるものの、相手はこれまた【踏み込み】を使用してボールの落下地点へ潜り込みレシーブ。この繰り返しだ。とにかく点数が入らない泥試合が繰り広げられている。


「機動力が上昇してるのにコートの広さがそのままっていうのが間違いなんじゃない?」


「冷静で的確な分析やめろ。だがなぁ、コロシアムだとこれが限度だろ。街の外にコートは作れねぇし、どうするか」


「草原だと草を焼いても一定時間で元通りだしね。街の一帯を更地にして場所を確保する?」


「ちょっとありかもって思っちまったよ。……二十分で得点なし、か。一セット終わるのは何時になるか分かんねぇな……止めるか」


 止められた。やってる本人たちは意外と楽しかったらしく残念そうな顔をしていたが他が控えてるからね。次。


 ▷テニス


 バレーボールの時点でオチは見えてた。決着がつかない。

 どれだけ打球を左右に打ち分けて揺さぶったところで【踏み込み】さんの前には無力。軽々と追い付いて打球を返す。


 ネット際に落とす前後の揺さぶりも無意味だ。ネットインしたボールにベースラインより後ろから追いつけるって凄いね。どうやって点を取るのさ。


「まーたクソゲーじゃん」


「スタミナ切れを心配して廃人二人のカードを組んだんだが裏目に出たな。まるで終わる気配がねぇ」


 フレイヤたんvsシンシアという好カードのはずが、いつまで経っても終わらないラリーを見続けるハメになるとはね。観客の誰も予想出来なかっただろう。


「バレーに続いて無得点試合が二連続はまずいんじゃない?」


「……球でも増やすか」


 お手玉のような気軽さで球が増えた。打ち返す球が二つになっても決着がつかないのでそのまま球数が増えていき、最終的に五つのボールがコートを行き交う地獄絵図が繰り広げられている。


「ギャグかな?」


「なんかもう、一周回ってアリなんじゃねぇか?」


「ナシでしょ。スポーツってよりも曲芸だよこれ」


 悪辣なモンスターを相手取るには尋常じゃない集中力が要求される。連日連夜己を鍛え続けた両者は、プレイヤーの限界を超えてラリーの応酬を続けていた。

 しかし球が更に一個増やされた時にそれは起きた。二人の表情が歪む。どうやらここが限界点のようだ。


 シンシアがネット際に落ちたボールを拾うために無茶な体勢で踏み込んで体制を崩す。眼前に迫るフレイヤたん。万全の体勢から放たれたスマッシュがシンシアに向けて打ち込まれた。


「ぐッ! あッ!」


 そしてマシンガンのような六連撃。シンシアは吹っ飛んでコート上に倒れ付した。勝者――フレイヤたん。


「いやこれなんの競技なのさ。ノックアウトしないと終わらないって相当だよ」


「テニス協会からクレームがきそうだなァ」


 スポーツの概念を徹底的に蹂躙する謎の大会は波乱万丈の前半プログラムを終えた。観客席に集まった誰もが理解不能の光景に首を傾げている。なにこれという心の声が輪唱となって聞こえて来るようだった。


 今のところ、このスポーツもどきが目玉足りうるコンテンツになるとは思えない。後半戦に期待しよう。

 僕は半ば諦めつつも売り子のお姉さんに声をかけた。薬草料理セットが五万Gだって。ボッタクリじゃん。まあ買うけどさ。僕は薬草ジュースを啜ってからビストロさんに問い掛けた。


「今からでも遅くないからスキル封印しない?」


「……速報だ。配信とSNSがクソほど盛り上がってるらしい。このまま行くぞ」


 まさかの大好評であった。なんかもう、世の中って分からない。僕は薬草サンドをモチャりながら成り行きに任せることにした。もうどうにでもなれ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] テニヌを自分でプレーできるのは面白そう。 [一言] サッカーは多分ボールを膝裏クリップしての踏み込みで体ごとゴールに突っ込むのと、それを阻止するディフェンスに進化する。 そしてノルマキさん…
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