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肥溜め誘致マーケティング

「毎度毎度テメェはよぉ、限度ってもんを知らねぇのか? 最近ちと暴れすぎだろ、なぁ。他企業の差し金だったりするのか? このゲームを終わらせに来た刺客ってんなら納得だが、そうじゃねぇってんなら、なんかもう、いよいよだぞ?」


 自宅で花火玉を拵えていると、ズカズカと不法侵入してきたビストロさんが席に座るなり要領を得ない戯言を口にした。

 なんだというのか。当たり前のように不法侵入する輩が的外れなお説教とはどういうことなのか。僕はハァ? スタンプをシュポンと浮かべた。


「それ地味に腹立つからやめろ。スタンプ機能が煽りにしかなってねぇの不具合だろ……。それはいい。なぁライカンよぉ。外部の人間や配信者をリスキルすんのはやめろって話だ。いくらオモチャ扱いされてるV倫だからってなぁ、花火に巻き込んで十回もリスキルすんのはさすがに無しだろ。見るに忍びねぇ絵面だったぞ?」


 あぁ、何かと思えばその話か。だけどおかしいね。あの件の結末は美談で締め括られたじゃないか。僕は反論した。


「一体なにがそんなに不満なのさ。彼女は最終的に僕の作品の素晴らしさを心の底から認めてくれたというのに」


 僕の傑作が放つ芸術性を肌で感じた彼女は相当深い感銘を受けたのだろう。最終的にはエモーションペナルティを発症して天へと昇っていった。あれほど感動してもらえるとは、花火の製作者冥利に尽きるというものだ。


「テメェ……脳に別の生き物でも飼ってんのか? 明らかに精神乱調状態だったじゃねぇか! あの人力打ち上げ花火とかいう狂気の沙汰をやめろ! たまやーじゃねェッ!! SNSでよぉ、V倫がかわいそうって意見が飛び交ってんだぞ? アイツらが擁護されるって相当だぞ!?」


 バンバンと机をひっ叩いたビストロさんが凜とした声で吠える。

 V倫が擁護されてるって……そんなの彼らの工作に決まってるじゃないか。捏造にでっち上げは彼らの十八番。そんなことすら見抜けないようじゃビストロさんもまだまだだな。僕はため息を一つ吐き出して花火玉作りを再開しながら言った。


「第一さぁ、『食物連鎖』のプレイヤー達だって噴水広場で彼らのことを煽り散らかしてたじゃん。僕をどうこう言える立場にないでしょ」


「絵面の酷さが違うだろうがッ! 第一、なんでテメェはレッドと手を組んでるんだよ! おかしいだろ!? なに仲良くリスキルしてんだ! さすがにマズいってんで止めに入ろうとしたウチのギルメンが返り討ちにあってるしよぉ!」


「相互利用の関係だよ。ギブアンドテイクね。別に仲良くしてないって」


「それにしちゃァ連携が取れすぎてるんだよ! テメェ、バレてないと思ってるだろうが大貧民中にレッドプレイヤーと協力してイカサマしてたの気付いてるからな? なんであんな即席で意思疎通が出来るんだよ! テメェ、ほんとこのまま行くと悪の親玉コース一直線だぞ!」


 誰が悪の親玉か。失礼な。

 しかし……イカサマに気付かれてたのか。目敏いな。

 後々になって邪魔になるかな。……爆殺()っておくか? いや、だが、目端が利く人材は身内に取り込んだほうがやりやすい。ビストロさんもイカサマの腕はそれなりだし……悩むな。僕はビストロさんの処遇についての考えを巡らせた。


 と、そこで玄関の鍵がピッキングされ男が三人ズカズカと上がり込んできた。『ケーサツ』のインタビューを受けた奴らとは違うモブレッド三人組のお出ましだ。


「あ? 先客かよ」


「んだよ、ツイてねぇな」


「連鎖の頭じゃん。殺っとく?」


 凄いな。僕は感心した。殺害提案までの流れがあまりにも早すぎる。殺し合いオンラインで汚染された脳による水平思考は人命軽視を厭わない。

 真っ先に上がる選択肢がプレイヤーキルってどうなの。これだからこのゲームのプレイヤーは頭がおかしいと言われるんだ。


「チッ、クソ共が!」


 不穏な流れを察したビストロさんがガタッと椅子を蹴立って刀をスラリと抜いた。ヤの付く自営業のボスならばやっぱ得物は日本刀でしょ、という悪ノリで鍛造された一品だ。

 なお、片刃なので扱いにくい上に壊れやすいという残念性能なので実質剣の下位互換である。見た目はいいよね。見た目は。


 ビストロさんが正眼の構えをとる。嫌らしい余裕の笑みを浮かべたレッドの一人が片手をぷらぷらしながら歩み出た。


「こっちは武器なし、片手でやってやるよ。確かレベル10前後だろ? 丁度いいハンデだ」


 分かりやすい挑発に乗ったビストロさんの顔が僅かに歪む。両者とも完全にやる気だ。でも待ってよ。ここ僕の家だからね? 僕はおひさまのスタンプをシュポンと浮かべた。


「ッ……」


 スタンプを見たレッドが後ろの二人とアイコンタクトを取る。一つ頷き、彼らは乾杯スタンプとZzzスタンプをシュポンと浮かべた。


 ふむ。僕はかき氷のスタンプを浮かべた。即座にスプーンのスタンプを返したレッド三人組がポツリと呟く。


「行くぞ」


 どうやら納得してくれたらしい。

 剣呑な雰囲気を霧散させた三人組は速やかに矛を収めて身を翻し、僕の家からスッと出ていった。これで良し。僕は日課の爆弾作りを再開した。


「いやいやいや! は!? ちょっと何今のやりとり!? 説明! 説明してよ!」


「何って……僕の顔に免じてここは一つ、ってやつだよ」


「暗号文!? スタンプ機能で意思疎通取れるくらいズブズブじゃん! 一体裏で何してんのほんと!? もうやだこの人……着々とレッドを支配下に置いてる……それもう完全に悪の親玉のやることだって……これもう詰みだよ。手遅れだよ……」


 へなへなと座り込んだビストロさんが力無くうなだれて両手を床についた。そしてゆるゆるとした握りこぶしを作り床をトントンと叩く。僕はスクリーンショットを撮りながら問い掛けた。


「で、ビストロさんは何をしに来たのさ。的外れな忠告をしに来ただけなら帰ってよ。消費した花火玉の補充があるんだからさ」


「さらっと流さないでよ……はぁ。もういい。見なかったことにする。ん、ンッ。話ってのは他でもねぇ。最近誰かさんのせいで、誰か、さんの、せいで! このゲームの評判は最低記録を叩き出してると言っていい」


「へぇ」


「……で、だ。ユーザー離れが進んでやがる。夏休みに確保した新規も順当に姿を消し始めた。カップル連中や血の花……あー、民度浄化作戦な。あれン時に参入してきたミーハー連中もほとんどが消えた。このペースだと、同接の最高値が四桁を切るのもそう遠くねぇ」


「定着率悪いよね。まるでブラック企業だ。でもまぁ、このクソ環境に適合出来ないならそれはそれで幸せなんじゃない? 犠牲者が減ったことを喜ぶべきだよ」


「一理ある。だがそうも言ってられねぇだろ。最高同接が三桁ってなったらいよいよサ終が現実味を帯びてくる。それは望むところじゃねぇ。業腹だが、俺ぁこのゲーム以上のクオリティを持つゲームは今後暫く出ねぇと確信してる。ぶっちゃけ、惜しいんだよ。それはテメェもそうじゃねェのか?」


「まぁ、ね」


 このゲームのサービス開始は確か去年の一月の終わりくらいだったか。あと数カ月で二年経過するが、VRシステムの完成度は未だにNGO一強状態だ。他企業の追随を許さない技術はまさにオーバーテクノロジーと呼ぶに相応しい。


 この前追加されたスタンプ機能も正直意味が分からない。念じるだけで出せるってどういうことなんだよ。透過処理とか接触判定とかどうなってるんだ。脳波ってなんだよ。疑問は尽きない。


 そんな超技術がふんだんに盛り込まれたこのゲームの開発費、及び維持費はどれほどまでに上るのか。そういった方面に明るくない僕にはとんと検討もつかない。開発費が回収できているのかも怪しい。NGO専用デバイスは非常にいいお値段なのだが、それ以外の価格設定はガバガバもいいところだ。


 利用月額が千円て。新機能のスタンプが百円て。課金要素があまりにも良心的な価格すぎる。薄利も行きすぎればただの間抜けだろうに。今の収支じゃ社員数人分の給料を払うのがやっとでしょ。


 ぶっちゃけ、いつ終わってもおかしくない。こうして話をしている今、この瞬間にサービス終了告知のポップアップが出てきても、そっかぁという感想しか出てこないだろう。そういうレベルなのだ。


「言いたいことはなんとなく分かったよ。でも、僕にそれを言ってどうなるのさ」


「爆破をやめろっつっても聞く耳を持たねぇってのはもう分かった。じゃあ違う形で貢献しろってこった」


 ビストロさんはさっきまでの醜態を感じさせない真面目な顔を作った。一拍の溜め。ロールプレイの仮面を剥ぎ取った平時の声色で言う。


「何か、無い? 夏休みのときの初心者向けユーザーイベントのトーナメント戦はあなたが考案したって聞いたの。あのイベントは、結末はちょっとアレだったけど成功と呼んで良かった。レクリエーションとしては上出来ね。だから似たようなアイデアが欲しいの。私もさ、悪ノリで担ぎ上げられたとはいえ大手ギルドのトップじゃん? 何かしらの対策は取らないとなーってぼんやりと思ってるんだけど、正直手詰まりっていうかね。そもそもゲーム自体そこまで詳しくないしさ……何から手を付けていいのかも分からないの。良い案があったら、教えてほしい」


 なんだ。開口一番的外れな説教を垂れ流すから大した用件じゃないと思ってたのに、随分と胸襟を開いてくるじゃないか。


 作りかけの花火玉をインベントリにしまう。目を閉じて、腕を組む。ちょうどリアルでそうするように。浮かんできたアイデアをポツポツと口にする。


「新規プレイヤー獲得と定着を結果に据えよう。とすると、要因はなんだろうね。このゲームの強みは押し出したい。グラと操作感。クラフト要素の完成度の高さ。何をしてもいい自由度。現実さながらの環境……くらいかな」


 特性要因図を頭の中で作り上げる。このゲームを客観的に見たときに浮かび上がるメリットを抽出する。デメリットはこの際無視しよう。今は環境改善は主眼に置かなくていい。


「あとは外的要因……流行り、季節、現実では難しいこと、VRならではの強み。加えて、他のVRゲームが為せていない要素をモノにしたいところだね。顧客の流動を狙える」


「……た、例えば?」


「銃器解放直後の街中FPSがいい例だ。コンマ単位の反射神経が問われるFPSはラグが何よりも嫌われる。既存のVRFPSは規制もあって微妙な作品しかない。このゲームはラグもアバター操作の違和感も無いからね。故にあれほどの盛り上がりを見せた。まぁ、銃が大量に出回らなかったのと新規も復帰勢もリスキルされまくったおかげで成功とは言えないけどね。デスペナ、キルペナっていうシステムとも相性が悪いし。それはいい。今は置いておこう。……そうだね、そう考えると今のはいい質問だ。大体纏まってきた」


 現実と変わらない操作感。現実のしがらみを無視できるという強み。流行、季節感。微妙な作品しかないVRジャンル。纏め上げたら答えは一つ。僕はパチンと指を鳴らした。


「スポーツでいこう。VRスポーツゲームは駄作ばっかりだし、丁度いい。それにスポーツの秋って言うしね。話題性もあるんじゃないかな」


 僕はそれなりに納得のいく結論を出した。これにはビストロさんも大喜びだろうと思ったのだが、目を開けた僕が見たのは大口を開けてマヌケ面を晒しているビストロさんの姿であった。


「どういう感情なの、それ」


「いや……あなたって、普通に会話出来たんだなって……しかも凄いまとも」


 [ハァ?]


「あっ、ごめんなさい! 今のはさすがに失礼だった……。あの、もしかしてライカンさんって結構、その、社会的地位を獲得してたりします……? 言動とかアバターを見て勝手に同年代くらいかなーとか思ってたんですけど……」


「僕は死んでもリアルの情報は落とさないよ。それにリアルへの追及はマナー違反だからね?」


「いや、別にそんなつもりじゃなかったんですけどね……今後の付き合い方を変える必要があるのかな、と。ハイ」


 何をそんなに恐縮してるんだか。僕は呆れた。

 これはゲームだ。最低限のマナーさえ守れば何をやっても自由のMMO。リアルがどうかなんて全く下らない。


「今まで通りでいいよ。そんな額に傷のあるイカついオッサンが眉尻を下げてペコペコしてる姿は見たくないし」


 僕の言葉を聞いて僅かに目を見開いたビストロさんが咳払いを一つはさみ、見た子供が泣きそうな凶悪な笑みを浮かべた。いつもの凜とした声。


「そうか。それもそうだなァ。まぁ、なんだ。助かったわ。スポーツね、いいじゃねぇか。暇してる馬鹿共を集めて早速取り掛かるとすらぁ。世話んなったな」


「お礼なんて水臭いですよオジキ。困ったときはお互い様じゃないですか」


 僕は努めてにこやかな笑みを浮かべ、¥マークが描かれた布袋のスタンプをシュポンと浮かべた。


「…………」


「人助けは正義の味方の仕事だからね」


 僕は努めてにこやかな笑みを浮かべ、¥マークが描かれた布袋のスタンプをシュポポポンと繰り出した。


「言葉と態度が一致してねぇ……テメェは、やっぱどっかイカれてるわ……」


 ビストロさんは金に輝くコインを指でピンッと弾いた。僕はそれをパシッと受け取る。百万G。いいね。この前の負けがチャラになったよ。


「これこそ情けは人の為ならずってね」


「地獄の沙汰も金次第の間違いだろ……」

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― 新着の感想 ―
まぁライカンはキルペナなすりつけチラつかされたら言う事聞かざるをえないからもうズブズブは避けられないんじゃないですかね… やっぱMMOにおいてみずっちの能(脳)力強すぎるだろ
[一言] ライカン運営説
[良い点] 初心者歓迎!秋のNGO体育祭〜! ↓ 超人限定!魔のNGO体育祭〜! ↓ 正義参戦!血のNGO花火大会〜! ってなる未来しか見えない…。
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